中小企業憲章と私

同友会こそ人的資源を生み育てる大地

神奈川同友会政策委員長 石館 治良((株)開明製作所社長)


 街路樹の葉も初夏の色合いを深めてきました。毎年この時期になるとオートバイで8王子から奥多摩、大菩薩峠へとツーリングに出かけるのが楽しみです。幹線道路から間道に分け入ると、渓谷にはまだ新緑の光が差し込んでいます。さすがにここまで来ると、生活圏から遠く離れた、都市間との境界域にまで達したと実感させられます。

 「中小企業白書2007年版」は、「地域と中小企業」をキーワードとしています。私はこれまで「地域」という言葉についてイメージをなかなか持てませんでした。自社が立地している京浜エリアは巨大市場であり、精密機械器具製造に携わるものにとって客先は無尽蔵に存在し、地域の産業連環といってもあまりピンとこず、熾烈(しれつ)な競争の中で、生き残り組と市場退場組に振り分けられていくというぐらいにしか考えられませんでした。自分たちの地域というよりは、国の産業動向が直接影響を及ぼすという認識でした。

 しかし、最近その認識を覆すようなデータに遭遇しました。神奈川県の統計によると、製造業の衰退が極めて深刻な事態に陥っているのです。

 1991年から2004年にかけて、事業所数で1万件(32・4%)の減少、従業者数で34万人(39・4%)の減少を記録しています。愛知県、静岡県が工業出荷額、従業員数ともに上昇させているのとは対照的な結果です。

 戦後、神奈川の産業を築いてきた大企業を頂点とする「垂直型産業構造」が、国際化とともに大きく変容し、この状態では地域経済の全てをまかなうことができなくなったのです。第3次産業化の波があるとはいえ、あまりにも急激な変化です。

 昨今、中小企業による地域経済を担う新たな柱の構築が火急の課題として浮上してきました。その要は、やはり人材にあると思います。地域を担う「人的資本」が形成されなければなりません。

 「EUにおける小企業憲章」を読んだとき、中小企業の役割をヨーロッパ経済のバックボーンと位置づける先進性には、社会発展段階の違いを見せつけられる思いでした。その理念は、中小企業家に社会的使命感と勇気を与えるのにふさわしい内容のものです。

 中小企業諸施策は、経営者の高い資質があってこそ豊かな果実を実らせることができます。同友会こそがその人的資源を生み育てる大地であると思うのです。

「中小企業家しんぶん」 2007年 6月 15日号から

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