学習資料(中小企業憲章)

〔解説〕ヨーロッパ小企業憲章

ここに訳出したヨーロッパ小企業憲章 European Charter for Small Enterprisesは、2000年6月にサンタ・マリア・ダ・フェイラ(ポルトガル)で開催されたヨーロッパ連合(以下、EUと略称)理事会で採択された文書である。その意義については中小企業家同友会全国協議会第35回定時総会第13分科会における報告および討論の記録(※1)によって明らかにされている。ここでは、下記の訳出文書の理解のために、短い解説をした。また、訳文中の若干の用語については簡単な注をつけた。

まず、ヨーロッパ小企業憲章における“ヨーロッパ”は固定的な意味での地理上のヨーロッパを指すのではなく、EUを指す。したがって、EUへの加盟国が拡大すればこの“憲章”の適用領域も拡大することになる。また、“小企業”はSmall Enterprisesの訳であるが、注意が必要である。EUでは企業Enterpriseを大企業Large Enterprise(従業者数250人以上)、中規模企業Medium-sized Enterprise(同50〜249人)、小企業Small Enterprise(同10〜49人)、マイクロ企業Micro Enterprise(同10人未満)に分類している。EUの文書にはこれらのほかに自営業the self-employed、手工業Craft Enterpriseなどの分類もある。この憲章における“小企業”は通常の中小企業Small and Medium-sized Enterprises(以下、SMEsと略称)を漠然と代表させたのではなく、上の企業規模分類での小企業を明確に指している。憲章の内容から理解できるように小企業の役割を評価し、それを支援することによって中小企業SMEs総体の役割が大きくなることを目指しているのである。2002年のEU報告書(※2)には、「小企業を第一に考えることこそ、EUの企業政策のエッセンスである」(Think small first sums up the essence of the EU’s enterprise policy)と記述されている。なお、小企業といっても日本における“小規模企業”あるいは“小零細企業”とはその範囲がヨリ大きい規模の方向にずれていることに注意すべきである。

さらに、法律用語辞典(※3)によれば、“憲章”の語義として、三つ挙げられている。すなわち、(1)契約的性質をもつ国家の根本法に付される名称。例えば13世紀イギリスの大憲章(マグナ・カルタ)。(2)国家間の文書による合意で、特に多数国間の条約に付される名称。例えば、国際連合憲章。(3)公的な主体が一定の理想を宣言する重要な文書に付された名称。例えば、1950年の児童憲章。これらの語義からすれば、ヨーロッパ小企業憲章は上の(2)と(3)の意味を含むと考えられる。あるいは、英英辞典(※4)によれば、charterの語義の一つにa written statement describing the rights that a particular group of people should have : the European Union’s Social Charter of workers’rightsと書かれている。これは、a particular group of peopleをworkerと考えたわけであるが、workerの代わりにsmall enterpriseを考えれば、一つの解釈ができる。しかし、ヨーロッパ小企業憲章の憲章としての意味は本文やその運用を考慮して、独自の意味を持つと考えてよいと思われる。特に、同憲章については行動計画の達成度が毎年点検され、各国ごとに課題が確認され、各国相互に学習されていることなど、注目すべき特徴があるからである。それらについては、EUレベルにおいても、各国レベルにおいても報告書が作成されている。

以上から考えられることは、ヨーロッパ小企業憲章は単なる象徴的な存在でなく、確かな現実的な存在であるということである。

1.中小企業家同友会全国協議会「中同協」no.71 2003年10月25日
2.“Report on the Implementation of the European Charter for Small Enterprises” Brussels 6.2.2002
3.内閣法制局法令用語研究会編『有斐閣法律用語辞典』有斐閣1993年p.371
4 .A S Hornby , Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English six edition, Oxford University Press

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ヨーロッパ小企業憲章
European Charter for Small Enterprises

翻訳:中小企業家同友会全国協議会

小企業はヨーロッパ経済の背骨である。小企業は雇用の主要な源泉であり、ビジネス・アイディアを産み育てる大地である。小企業が最優先の政策課題に据えられてはじめて、“新しい経済”の到来を告げようとするヨーロッパの努力は実を結ぶだろう。

小企業はすべての企業の中で経営環境の変化に最も敏感である。小企業は、官僚制度の過剰な負担に悩まされるならば、真っ先に痛手をこうむる。また、小企業は、官僚的で面倒な手続きが減らされ、成功が報いられるような措置が開始されるならば、真っ先に元気になる企業である。

リスボン(※1)において、われわれはEUの目標を次のように定めた。すなわち、EUが世界で最も競争的でダイナミックな知識に基礎を置いた経済となり、持続可能な経済成長、ヨリ多く・ヨリ良い雇用の創出、ヨリ強固な社会的結束を可能にするということである。

1.2000年3月、リスボン(ポルトガル)で開催された雇用拡大と経済社会改革推進のための特別EU理事会

小企業は、ヨーロッパにおける社会的・地域的統合はもとより経営革新、雇用創出を推進する存在として認識されなければならない。

それゆえに、小企業経営と企業家精神のための最良の環境が創造される必要がある。

諸原則

上記のことを推進するに当たって、われわれは

  • 新しい市場のニーズに対応することや雇用を用意することにおいて、小企業がもつダイナミックな諸能力を承認する。
  • 社会的かつ地域的発展を促進し、しかも、進取の精神と参加の模範となって行動する小企業の重要性を強調する。
  • 企業家精神を、責任のすべての水準における貴重で生産的な生活技能(スキル)として認識する。
  • 成功した企業に拍手を贈る。その企業は公正に報いられるだけの価値がある。
  • どのような失敗であれ、それは責任を負うことができる率先と危険覚悟を伴っており、大部分学習機会として考察されなければならないと考える。
  • “新しい経済”においては、知識、貢献、柔軟性などの諸価値を認識する。

EUにおける小企業経営の状況は、企業家精神を奨励し、現行の諸対策を評価し、必要ならば、それらを小企業に役立つように変え、政策立案者に対して小企業経営のニーズに正当な考慮を払うことを確実にする行動によって、改善されることが可能である。この目的のために、われわれは誓約する。

  • ヨーロッパの企業経営がこれから先のさまざまな挑戦に立ち向かえるように、経営革新の意欲と企業家精神を高める。
  • 企業家の活動の助けになる、規制上・財政上・行政上の枠組みを完成し、企業家の地位を改善する。
  • 最も負担の少ない必要条件の基礎の上で、最重要な公共政策の目標と両立する市場へのアクセスを保証する。
  • 最良の研究や技術の利用を容易にする。
  • 企業のライフサイクル全般に亘って、金融の利用を改善する。
  • われわれの成果を継続的に改善する。そうすれば、EUは小企業経営に対して世界で最良の環境を提供するだろう。
  • 小企業経営の声に耳を傾ける。
  • 最優良の企業経営に対する支援を促進する。

行動のための指針

われわれは、この憲章を支持することによって、小企業経営のニーズに正当な考慮を払いながら、以下の行動指針に沿って活動することを約束する。

1.企業家精神のための教育と訓練

ヨーロッパは、今後、企業家の精神と新しい技術・技能を早い年齢から養成するだろう。企業経営および企業家精神に関する知識は、学校教育のあらゆる段階で教えられる必要がある。特定の企業経営に関する履修すべき内容は、中学校・高等学校および単科大学や総合大学において、教育計画の中の基礎的要素として扱われるべきである。

われわれは、若者たちの企業家への努力を勇気づけ、奨励し、小企業の経営者として訓練するための計画を開発していくだろう。

2.費用や時間のヨリかからない開業

いかなる会社の開業費用も世界で最も競争力のある水準に向かって進化しなければならない。新しい会社の認可のためにきわめて長い時間の遅延やきわめて重い負担となる手続きを必要とする国々は、最先進の国に追いつくことが求められる。認可のためのオンライン利用は拡大されるべきである。

3.ヨリ良好な法制と規制

各国の破産法は良好な実例に照らし合わせて見直されるべきである。比較判断の訓練から学習するならば、それはEUにおける現行の実例の改善にわれわれを導くだろう。各国およびEUの段階での新しい規制は、小企業や企業家たちへの衝撃を査定して篩(ふるい)にかけられるべきである。各国とEUのルールは、可能なところはどこでも、極力簡素化されるべきである。政府は利用者が使いやすい行政書類を採用すべきである。

小企業は一定の規制上の義務からは免除されるべきである。これに関して、委員会は小企業が規制を遵守することで過重な負担を強いられることがないよう、競争法制を簡素化するべきである。

4.技術・技能の獲得

われわれは、企業内訓練計画も補完された訓練制度が、小企業経営のニーズに合った技術・技能の供給を行き渡らせ、生涯に亘る訓練と診断を提供することを確かなものにするように努力する。

5.オンライン利用の改善

公共機関は小企業分野とのe‐コミュニケーションを増加するように強く督促されるべきである。そうすれば、企業は、助言を受けたり、申請手続きをしたり、納税申告書を提出したり、簡素なそれゆえにヨリ早く安い情報通信を獲得することができる。委員会はこのような分野においても模範を示して先導しなければならない。

6.単一の市場からのヨリ多くの成果の実現

小企業経営はヨーロッパ経済の現在進行中の改革から生まれる利益を慎重に点検している。そのために、委員会および加盟各国は、小企業経営にとって利用しやすい、真の内部市場の統合の完成を目標として現在進行中の改革を続行しなければならない。そのような改革は、e‐取引、遠距離通信、公共施設、公共の調達と各国間決済の制度を含む、小企業経営の発展にとって重大な領域に属している。

それと同時に、ヨーロッパおよび各国の競争ルールは、小企業が新市場に参入するあらゆる機会を保証し、公正な条件下で競争できるよう、厳格に適用されるべきである。

7.税制と金融問題

租税制度は、成功に報い、開業を奨励し、企業経営拡大と雇用創出に恩恵を与え、小企業の設立と存続を容易にするように改善されるべきである。加盟諸国は、課税と個人的成果に対する動機付けに最良の実例を適用するべきである。

企業家は、大望を現実のものにするための資金を必要としている。小企業の金融サービスの利用を改善するために、われわれは以下の行動をする。

  • 全ヨーロッパの資本市場の創設および金融サービス行動計画、リスク資本行動計画の実施に対する障害を確認し、それを排除する。
  • 融資およびベンチャーキャピタルの適切な利用条件を作り出すことによって、銀行制度と小企業の関係を改善する。
  • 構造基金(※2)の利用を改善し、株式投資の手段を含む、新規開業企業やハイテク企業が利用できる基金提供を増加させるヨーロッパ投資銀行による率先的な提唱を歓迎する。

2.構造基金(the Structural Funds)は、結束基金(the Cohesion Fund)とともに、EUにおける経済的・社会的結束を促進する鍵となる手段であるとされている。構造基金にはヨーロッパ発展基金、ヨーロッパ社会基金、ヨーロッパ農業信用・指導基金、漁業指導金融手段などがある。

8.小企業の技術的能力の強化

われわれは、小企業が、技術を認識し、選択し、応用する能力とともに、小企業への技術の普及を強化することを目標とする現行の諸計画を強化する。

われわれは、規模の異なる企業間での技術の協力や共有を育成し、特にヨーロッパの小企業の間で、知識や技術の営業上の適合性に焦点を合わせたヨリ効果的な研究を推進し、また、小企業を対象とする品質保証制度の開発と実用を図る。EUの特許が小企業に入手可能で、利用しやすいということをすることが重要である。

われわれは、小企業、高等教育機関、研究機関の間の協力はもちろん、地域、国家、ヨーロッパ、国際の各レベルにおける企業間の協力に小企業が参加することを推進する。

それゆえ、企業間の房(クラスター)と網(ネットワーク)の発展に目標が置かれた国家と地域のレベルでの諸行動が支援されるべきである。また、情報技術を利用する小企業間の全ヨーロッパでの協力が高められるべきであり、さらに、協力協定の最良の実例が普及されるべきであり、最後に、小企業間の協力が全ヨーロッパ市場に参入し、その活動が第三国市場に拡張する能力を改善するよう支援されるべきである。

9.成功するe‐ビジネスモデルと最優良小企業経営の支援

委員会と加盟諸国は、小企業が最良の実例を適用し、“新しい経済”の中で真に繁栄できる成功企業モデルを採用することを奨励すべきである。

われわれは、利用しやすく、理解しやすく、かつまた、企業経営のニーズに適切な経営情報システム、ネットワーク、サービスを創設するように、加盟各国とEUの活動を調整する。また、ウェブサイトを通した利用も含めて、助言者(メンター)や企業経営支援者(エンジェル)からの案内や支援の利用をEU規模の範囲で確かなものにする。さらに、ヨーロッパ中小企業観測所を活用する。

10.EUおよび各国レベルにおける、小企業の利害のヨリ強力でヨリ効果的な代表の発展

われわれは、小規模経営の利益が、社会的対話を通じる場合も含めて、EUと国家的レベルでいかに代表されるかということについての再検討を仕上げる。

われわれは、各国の企業政策の調整についてオープンな方法を採用して上記の目標に向かって前進することに専心する。企業と企業家精神のための多年次計画、経済改革に関するカーディフ工程(※3)、雇用政策に関するルクセンブルグ工程(※4)、その他EUの計画や提唱がこの目的に利用される。われわれは、春季首脳会談(サミット)での関連項目に関する委員会レポートを基礎に毎年進捗を注視し、評価する。

3.1998年カーディフ(イギリス)で開催されたEU協議会において合意された経済改革に関する工程
4.1997年ルクセンブルグで開催されたEU首脳会議で決定された雇用政策に関する工程

われわれは、経過的に進捗を評価し、そして、世界の最良に照らして、小企業経営が持続的にわれわれの成果を改善するように影響を与えるすべての分野の最善の実例を学び、探すことを強化する効果的な指標を採用する。

 

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