学習資料(中小企業憲章)

今なぜ中小企業憲章なのか、その意義を確かなものとするために

中同協 専務幹事 国吉 昌晴

中小企業が主役の日本社会を―中小企業憲章を提起した経緯

 中同協が中小企業憲章の制定を提起したのは、2003年5月に発表した「2004年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言」の中に盛り込んだのが出発点です。この「要望・提言」は、中同協が中小企業の経営環境是正のため、1973年以降毎年政府各機関とすべての政党および全国会議員に提出してきたもので、金融・税制・景気回復策など中小企業政策全般にわたるものです。

 そこでは、「中小企業を経済発展と雇用の主役に位置づける中小企業憲章の制定を」と題して次のように要望しています。「日本政府は、中小企業を国民経済の豊かで健全な発展を質的に担っていく中核的存在と位置づけ、日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正確かつ正当に評価することを通して、中小企業政策を産業政策における補完的役割から脱皮して中小企業重視へと抜本的に転換することを宣言し、日本独自の中小企業憲章を制定すること。」併せて、「憲章の主旨を地方公共団体にも徹底するために、中小企業振興基本条例を未制定の自治体に制定を促すこと」としています。

 私たちは、同友会発足以来(日本中小企業家同友会1957年創立、中同協1969年設立)、日本経済の主人公は中小企業であり、国の産業・経済政策の中心に中小企業をすえるべきであると一貫して主張してきました。それは、日本の事業所数・会社数の99%が中小企業(従業員300人未満)であり、民間企業で働く人の8割が中小企業であることからも明らかなことです。

 今まで、分野別、課題別の中小企業施策の改善は要望・提言してきましたが、目に見える形あるものとして、総合的に提起したことには画期的な意義があると考えます。

EUの「欧州小企業憲章」に学ぶ

 では、なぜ中小企業憲章なのかということですが、そのひとつは、EUの「欧州小企業憲章」をモデルとして学んだことが上げられます。ヨーロッパにおいては、EU(現在加盟25ヶ国)が2000年に「欧州小企業憲章」(小企業とは、従業員数10〜49名)を制定しました。そこでは、「小企業は、ヨーロッパ経済のバックボーン(背骨)である。主要な雇用の源であり、ビジネスの発想を育てる大地である」との理念を掲げ、ヨーロッパの経済戦略の中核に中小企業を位置づけたのです。

 この憲章は、80〜90年代のEUの中小企業政策の集大成ともいえるもので、憲章の理念にもとづき各国の中小企業政策のみならず広く産業・地域政策の進捗状況を評価するシステムとなっています。(「欧州小企業憲章」の全訳は中同協発行『研究センターレポート第15集』に掲載)

草の根からの日本経済再生を―国家戦略としての位置付けが必要

 もちろん、私たちが提唱するのは、日本独自の中小企業憲章です。その必要性は今日の時代状況にあると考えます。90年代初めのバブル崩壊以降の日本経済の低迷は、21世紀に入ってからも基調は変っていません。産業の空洞化、一極集中による地域経済の衰退、廃業が開業を上回るという先進国ではまれな現象が続いています。輸出依存の一部大企業を中心とした一時的な景気回復はあっても長期的には日本経済は明らかに活力を失いつつあります。しかも、日本の大企業の世界戦略は「メイドインジャパン」ではなく「メイドバイジャパン」戦略つまり、世界に展開する多国籍企業としての繁栄であり、結果は国内の雇用を減らし、空洞化に拍車をかける方向で進んでいます。

 日本経済の閉そく状況を打開し、中小企業が日本経済活性化の担い手としての自信と誇り、使命感を持って草の根から経済再建を進められるよう国家戦略として中小企業中心の経済・産業政策を打建てることが緊急の課題ではないでしょうか。中小企業憲章はその総合的な旗印として、国会が決議し、政府は憲章にもとづく行動プログラムを示すことが必要と考えます。

 2004年の『中小企業白書』では、その終章で「中小企業は過去も現在も将来も経済社会を先導する存在である」と結んでいます。私も、この一文を感動的に受け止めた一人です。そして、その具体化に何が求められているか、従来の中小企業政策の延長線上ではない高い次元で真剣に考え、提起し、行動する条件がそろいつつあることを実感するのです。

政府機構の改革も提起―中小企業基本法を上回る位置に

 私たちが中小企業憲章を提起して以来、「日本には中小企業基本法がある。憲章と基本法の関係はどうなるのか」との疑問が寄せられています。1999年旧基本法が改定され現行の基本法ができました。旧基本法(1963年制定)は、大企業との格差是正を主たる政策目標としましたが、現基本法は、伸びる企業、やる気のある企業を支援することを主眼としています。そのことは一理あると考えますが、残念ながら470万からある中小・自営業の役割を積極的に引き出し、日本経済のダイナミズムをどう取り戻すのか、ここが見えてきません。そのことを端的に示すのが国の中小企業予算です。2004年は1、738億円(一般歳出に占める比率は0.36%)で年々減らされているのです。

 現行の基本法を戦後の中小企業政策の歴史的推移の中で研究することは必要で、2004年の全国総会で提起した憲章の学習運動課題のひとつでもあります。今後、学習が進むなかで明確にしていくことではありますが、「憲章討議素案」(2004年7/15付『中小企業家しんぶん』)で私たちが提起していることは、(1)国家の基本戦略に中小企業を位置付けようという国民的運動を前提としていること、(2)中小企業政策が全政策分野にわたる総合的な性格であるところから(例えば厚生労働、金融、文教、環境、農水産等にすべて関連する)、中小企業庁を経済産業省の外局から内閣府の外局に移して担当大臣をおくこと、(3)現行基本法に不足あるいは欠落している部分である中小企業の現状分析、税制、教育(人材育成)、環境問題、女性経営者支援、障害者雇用、国際交流などの項目をどう法体系化(基本法に盛り込むのか別法とするのか)していくのか、こうした問題を明らかにしながら、総合的に進めていく運動であることです。

 なお、基本法は(基本理念)として第3条に「(中略)独立した中小企業者の自主的な努力が助長されることを旨とし、その経営の革新及び創業が促進され、その経営基盤が強化され(中略)その多様で活力ある成長発展が図られなければならない」としており、憲章は基本法の積極的な部分を強化、促進させる役割があります。

同友会運動の必然的発展方向として提起

 では、次になぜ同友会が中小企業憲章を提唱するのかを考えてみましょう。

 第一に、同友会は経営指針づくりや「労使見解」をベースにした社員教育活動など強じんな体質の企業づくり活動、その原動力となる経営者の自己革新の推進、中小企業の経営努力が報われる経営環境改善活動を同友会三つの目的の総合的実践として進めてきました。その中からめざすべき企業像としての「21世紀型企業」やあるべき日本経済の方向など、憲章の目標となる内容が明らかになってきました。つまり、国民の理解と共感を得る実践を積み上げてきた自信の裏付けがあるといってもよいでしょう。

 第二に、国民の中小企業に対する認識を変えることが求められていること、これも同友会運動のなかで痛感させられてきました。共同求人活動、インターンシップ活動等を通して、教育者や学生、父母の中小企業に対する正確な見方と信頼を確かなものにすることの重要性です。憲章制定は、国民の中小企業に対する意識の変革を促すことになります。

 第三に、各同友会で取組まれている産学官連携、共同開発グループ等の新しい仕事づくりや地域づくりが、中小企業の活路を展望する憲章の精神を実践で示していることです。これらの新しい地域ビジネスモデルや政策モデルが同友会運動の中から育ちつつあることによって、憲章が抽象的な言葉ではなく、実践に裏付けられた先行事例を含めて提起できるのです。

 第四に、金融アセスメント法制定運動の広がりに見られるように、同友会の政策・提言内容とその実現をめざす運動が、国民的運動へと発展しうる広がりと深さを増してきていることです。

 2004年の中同協第36回定時総会の「総会宣言」では、「私たちは、中小企業憲章の制定が、同友会運動の歴史の中で創造的に形成され、発展してきた理念にもとづく必然的な運動方向であることに確信を持ち」としていますが、まず、私たち自身がその認識に立つことが大切です。

憲章制定運動を進めるための四つの柱

 最後に、憲章制定運動を進める四つの柱を述べておきます。(討議素案より)

 第一の柱は、憲章の大学習運動をおこすことです。学習の中身は、自社が置かれている業界と地域の問題点―何が経営発展の阻害要因となっているのか、どんな経営環境が望ましいのか―を大いに語り合う、さらには、日本経済における中小企業の位置づけ、政策課題等を深め、憲章に盛り込む内容についての認識を高めることです。

 第二の柱は、各同友会で「中小企業振興基本条例」制定運動に着手することです。県及び支部単位で自治体の状況をよくつかみ、自治体、研究者、他団体とも協力して、地域経済の活性化をめざし、条例の制定または抜本的見直しに着手することです。

 第三の柱は、憲章、振興条例づくりの運動を同友会三つの目的の総合的実践としてとらえ、各同友会のビジョンとの関係を明確にしつつ、新しい仕事づくり、地域づくりへ挑戦し、組織の強化、前進をはかることです。2010年、全国5万名会員の目標をぜひ実現したいものです。

 第四の柱は、個々の会員企業と憲章との関係をより明確にしようということです。経営指針の中に自社と地域や業界とのかかわり、展望を盛り込み、労使が共に自社と日本の未来に夢を描く、「わが社と憲章」「私と憲章」の視点で熱い思いを語り合う。このような壮大な憲章制定運動を進めていきたいものです。

(同友京都 2004年11月15号掲載に一部加筆−筆者)

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