講演録

中小企業基本法・中小企業憲章と新しい中小企業運動

3.新しい中小企業運動と中小企業憲章

「感動ある創造と発展」を携えた運動

 中小企業運動は、個々の経営努力のみならず、中小企業家が集まって、自らの理念や要求・要望の実現をめざす運動です。しかし、世間では、あるいはマスコミ的には、中小企業運動というのは、常に政府に要求・要望をするだけで、「甘え、もたれかかり」だという批判があります。これは、既に見た中小企業基本法が制定されたころの中小企業の考え方に基づくものです。つまり、大企業と一体となって大企業を助ける関係になるわけですから、だれかに従うということは、だれかに甘える形で要求・要望することにならざるをえなかったわけです。だから、中小企業運動は「甘え、もたれかかり」だということで、中小企業の要求・要望は聞かなくてもよい、という批判が継続したということです。

 もう一方で、中小企業運動は大企業にやられっぱなしだから、抵抗する以外にないという考え方もあるわけです。中小企業運動の中には、左右両翼を問わず「反政府、反大企業」という見方であります。

 私は、厳しい経営環境の中で「理性ある批判と抵抗」は必要だと思いますが、同時に同友会が取り組んでいるような「感動ある創造と発展」をも合い携えて進む運動こそ、「新しい中小企業運動」であると考えます。私は同友会にその姿を見ています。金融アセスメント法制定運動の成果もまさに「新しい中小企業運動」の成果であると位置づけられます。また、北海道同友会の「ホープ」や兵庫同友会の「アドック神戸」「ワット神戸」などの取り組みも、この流れの中にある地域経済振興での先駆性のある運動であると思います。

「中小企業憲章」制定運動の進め方

 最後に、中小企業憲章制定運動の進め方について、気づいた点を個条書き的に述べたいと思います。

 まず第1には、自社の経営(存立の諸条件)に分析の目を持つことです。(1)自社の既存市場の特徴・展望をつかむ、(2)自社の経営力・新規市場進出への可能性を考える、(3)自社の経営環境(素材・国際関係等)を関連付ける、(4)自社の国・自治体の政策利用状況を調べること、などがチェックのポイントになります。

 第2には、中小企業振興基本条例、地域経済振興条例制定を憲章とともに取り組むことです。すでに同類の条例が存在している自治体ではそれを見直し、魂を入れるということです。そのためには、(1)自治体の中小企業・地域経済政策を点検する、(2)地域経済・地域業界の問題を調べる、(3)条例づくりに中小企業家の希望・将来を盛り込む、(4)行政職員や住民とともに行動し、議論し、作成すること、などに取り組むことです。

 これらは、特に各地の同友会事務局に期待したい課題です。同友会事務局の強さは、経営者の声を聞き、それをまとめることが最大の役割・仕事であると私は考えますが、経営者一人ひとりの言っていることの真実性を具体的なデータで裏付けるという作業が極めて重要です。事務局の方は、忙しいとは思いますが、これを機会にぜひこのような課題にも取り組んでいただきたいと思います。

 また、(4)の課題では、各地方自治体の優れた行政職員ほど「あせっている」、住民とともに考え行動しようという姿勢が出てきています。その政策づくりに、同友会として協働・連携していくことが求められています。いくら行政職員が走り回ってもできないことを、同友会が協力することで政策形成に貢献することができます。

「憲章」作成に向けての準備

 第3には、いよいよ中小企業憲章の作成に向けて何を準備する必要があるか、ということです。

 (1)国のかたち・社会のすがたを希求して、(2)欧米の中小企業政策を学んで、(3)日本の中小企業政策をもう1度検討する、(4)中小企業団体の中小企業政策の要望や、(5)業界の問題を全国レベルで調べて、(6)中小企業憲章・討議素案を討議し、(7)中小企業憲章の作成に着手する、(8)中小企業憲章を国民に提示、賛同を得る、(9)やがては、アジアに向かって、(10)勇気を持って、夢を抱いて、詩を感じて取り組む、などです。

 (9)「アジアに向かって」とは、赤石会長が強調する人類史的意義につながる基本点になると考えます。(10)「勇気を持って」と述べましたが、今は勇気を持てない時代になりつつあると思います。しかし、経営者は勇気が命です。たとえば、沈滞した社内の雰囲気を変えるのは、経営者がやる以外にないのです。「経営革新」の革新とはそのような意味です。それを、社会的にも、地域的にも、社内的にも、あるいは家族的にも、勇気を持って取り組んでいただきたいということです。「詩を感じて」とは、さまざまな社会運動は詩(感動を一種のリズムをもつ言語形式で表現したもの)を生み、詩は運動を促進するという考え方から、詩が生まれてくる運動を期待してのことです。そうした詩が中小企業憲章の文言ともなってさらに表現されるように、真摯(しんし)でありながらも、楽しく心が通い合える運動をすすめていくことを期待します。

 中同協・中小企業憲章学習運動推進研修交流会(04年11月20〜21日)での講演より

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