講演録

この間の同友会運動の全国の経験と到達点

中小企業憲章の学習を通じて、
地域づくりと企業づくりの確信へ

今年度の中同協活動方針にみる憲章、条例づくりの運動

 私は各地の憲章の学習会でよく「憲章」というのは日本人には馴染みづらいのではないかと問われると、「そんなことはないですよ、私たちはこういう町にしたいという市民憲章を持っているじゃないですか。日本の政府は児童憲章を戦後つくっていますよ」と話を始めます。大阪同友会ではすでにその基本線の理解はできていることだと思いますので、本日は中同協の今年度の活動方針に沿ってお話したいと思います。中同協の総会の活動方針の中では、憲章の学習運動の現在の到達点について中間的な総括をしています。これから憲章と、その地域版である中小企業振興基本条例の学習と運動化について、一緒に考えていきたいと思います。

 私どもが「日本でも中小企業憲章を」と声を挙げたのは2003年の福岡総会でした。その前年の2002年、愛知同友会がヨーロッパに視察に行き、「ヨーロッパ小企業憲章」やヨーロッパの中小企業政策を学んできました。福岡総会の時には、三井逸友横浜国立大学教授に「ヨーロッパの小企業憲章と中小企業施策」について分科会で報告いただき、「日本にもあったらいいですね」と問題提起がありました。その時の分科会の評価は、「よく分からない」という意見と、「金融アセスのように取り組んで国会で決議させることはすぐできる」という楽観論の二つに分かれました。

 ところが、ヨーロッパの中小企業政策に関わる長い歴史を見ると、そう簡単ではないようです。アメリカもクリントン政権以来、中小企業を重視していて、閣議には必ず中小企業庁長官が入っています。われわれが金融アセスメント法運動の参考にした「地域再投資法」が、アメリカではすでに1977年にできている。そういう世界的な運動をわれわれも学んで、日本も中小企業そのものを国の産業政策・経済政策の柱に据えることが重要だと思うようになりました。

 日本は大企業優先政策が行われていて、それを補完するものとして中小企業政策があります。大企業はもちろん大事ですし産業政策の柱ですが、われわれ中小企業も同じ比重で国の政策の柱に据えていくべきです。なおかつ、中小企業こそ国民生活、日常の生活になくてはならない存在であって、「就職するなら地元の親しみ深い中小企業に子どもたちを就職させたい」という国民的認識、これこそ私どもが運動の中で勝ちとっていかなければならないものではないでしょうか。すると「日本の国家戦略として中小企業憲章というものを国会で決議して、せめて中小企業大臣ぐらいは必要ではないか」ということになります。

 初めて中小企業庁を訪れた東京同友会の役員の方が「経済産業省のでっかいビルの別館に、しかも七階のワンフロアだけに中小企業庁が収まっている。何ですかこれ?」と、その扱いの差に憤然としていました。省庁が並んでいる一覧表を見たら、農水省とか環境省とか並んでいる中に、経済産業省の盲腸のように外局として中小企業庁がくっついています。しかし、考えてみると「中小企業」は全部の省庁を網羅、関連しています。インターンシップ、学校とのかかわりは明らかに文部科学省、中小企業のさまざまな労働問題を解決するというのは厚生労働省、第一次産業とのかかわりは農水省。したがって中小企業庁をそのまま置くのであれば、内閣府の外局に入れることを私どもは具体的に提起しています。

憲章の学習に取り組むことで地域に目が向く相乗効果

 中小企業憲章は、まず学習運動から始めようと2004年の岡山総会で提案しました。去年の千葉総会では「いつまで学習を続けるんだ」という声もありました。「国会で決議させるための作業プログラムを明らかにすべきだ」ということです。実は「中小企業憲章討議素案」というのを2004年の総会に出しましたが、これは「難しすぎる」「抽象的」と率直な意見もありました。去年の10月に「憲章学習ハンドブック」をつくりました。これは、試行錯誤をしながら私たち自身が一年余り学習する中でまとめたものです。今、5000部ぐらい全国に普及しています。

 「早く署名運動の提起を」と具体的に動くことを求める同友会もありますが、学習運動はともかく2年間は続けて、来年の香川総会を一つの目途にしています。もちろんそれ以降も学習は続けなくてはなりませんが、香川総会を区切りとして憲章に盛り込む内容について意見を出していただき、整理・分類し、専門家の力も借りて憲章素案といったものを公にしていくということです。それでも国会に出すのは、中同協はまだ全国で4万名にならないということでは「大丈夫なの?」という声も出ています。

 中同協が「中小企業振興基本条例の制定」を提起したのは2003年からです。2004年の岡山総会の分科会で大槻眞一阪南大学学長は、2001年に振興条例をつくった八尾市の運動に関わった経験をふまえて「日本中の全自治体に中小企業振興条例を制定させるという運動を、同友会はやってください」と大きな提案をされました。しかしその時はまだ、墨田や大田、八尾の条例に注目しながらも、全国各地で制定に取り組んでいこうという動きにまでは至りませんでした。

 ところが、この中小企業憲章という国家的大目標に向けて勉強していきますと、「では私たちが日常の経営活動をしている地元は?」と、地域に一段と目が向くわけです。これは、国家的なマクロな目標を持つことと平行して地元に目を向けるという、相乗効果を生みました。振興条例は自治体との関係で、具体的に反応があります。手ごたえがあっておもしろい。

憲章、条例の運動を軸に地域づくりを

 「企業と地域の実態から始まる中小企業憲章学習運動」という問題提起は、この3年間の中で確立してきた考え方です。中同協活動方針には「改めて『中小企業憲章とは何か』、その学習運動を会内に広く浸透するまで継続して(当面2年間)取り組む」とあります。「当面2年間」は、現時点ではあと1年という意味合いになります。「中小企業憲章とは何か」とは活動方針の最初の部分で解説されています。2年前から中同協で中小企業憲章のホームページも立ち上げました。政治家の方、自治体の首長さんがけっこう見ておられます。佐賀県のある市長さんが佐賀同友会の会合で「皆さん方は中小企業憲章というすばらしい運動をやっておられる。ホームページを見ました」と言われました。

 「会内での学習は、自社の経営課題と外部環境要因を深く理解して、中小企業憲章をより身近に考える愛知同友会の方式に学び積極的に実践する」。学習ハンドブックには32ページに愛知同友会のシートが入っています。これに基づいて、今年の全国総会でも分科会に参加する方全員に記入していただいています。また、愛知ではパワーポイントで、初級編と中級編の2本の解説をつくっています。去年1年間で、40いくつかの地区会のほとんどで学習会を開催して、1000名近くの方が憲章の学習に参加しています。去年の総会のパーティでは「憲章ソング」までつくって披露していました。そういうノリの良さもありますが、やはり愛知の学習方式の良さは経営指針づくり運動の中に、自社の経営課題と結び付けた観点を入れようと努力していることです。

 自社をよくするためには経営指針が必要です。自社の発展を阻む要因は基本的に「中」にあり、内部改善をすることで企業は間違いなく発展します。しかし広く見ると、業界が抱える問題、地域の制約条件があります。そこを分析することにより、憲章づくりの運動と企業づくりの運動がようやくつながりつつある、また、つながる努力をそれぞれの同友会の経営指針のリーダーが意識的に考えています。経営指針づくりの運動では、残念ながら先般お亡くなりになった滋賀同友会の竹中副代表理事が、「経営指針づくりの運動は、自社の経営改善の運動というふうに狭く収めてはいけません。これはまさしく私たち中小企業を取り巻く経営環境の、あるいは社会の改善運動です」と信念を語っておられました。

 つまり同友会は、一社一社が学んでいい会社にしていこう、社員と共にすばらしい会社にしていこう、それは自社だけが儲かればいいというエゴではなく、中小企業が地域社会の人びと、お客さまと共に発展することが地域の発展ときちっとつながっているという、科学的で人類愛的な視点に立った企業づくり運動としてやっているわけです。するとまさしく自社の発展を阻んでいる外部環境の要因をどう改革していくのかということが、振興条例や憲章の問題へとつながっていくわけです。

同友会への想像以上の評価と期待

 中同協の活動方針には「会外に対しての働きかけは、地域の歴史や現状をよく把握しながら、行政や他団体とのコミュニケーションをとり、条件のあるところから産業振興会議等を立ち上げるなど、中小企業振興基本条例の制定に取り組む」とあります。想像以上に、外部の、自治体をはじめとした環境は変わってきています。つまり私どもの積極的な動きを評価し、期待しています。「私たちと一緒に考えましょう」という自治体は、10年前、20年前とは比較にならないぐらい増えてきています。日本の自治体の中小企業施策は、従来はすべて政府から降りてくる施策をそのまま地域に流していくことがほとんどで、自主性のない中小企業施策が100%といってもよかったと思います。それとは違う施策を打ち出したのが、東京の墨田であり大田です。墨田区は30年前、当時の区長が先見力のある方で、要するに「政府の施策をうのみにするのでは、墨田の中小零細企業は絶対に発展しない」と見抜き、さまざまな独自の施策を打ち出していくわけです。大田区の場合は工業の集積地として東京都が独自の中小企業施策の目玉として力を入れます。そういう突出した自治体はありますが、あとは押し並べて独自の政策がないのが実態です。しかしそれも今、変わってきているということです。

 活動方針では「同友会の『三つの目的』の総合的実践が中小企業憲章の課題に関連しているという視点で取り組みましょう」と表現されていますが、ようやくこのことが憲章につながることが見えてきました。

 昨年から今年にかけて千葉同友会の経営指針づくりの講座、全8回・うち2回が1泊という勉強会に私自身が参加しました。千葉同友会では受講生の2倍ぐらいの割合で助言者として先輩たちが参加して、一つのテーブルに受講生が3名、あとの5名くらいは先輩たちという構成で、毎回毎回、受講生のつくる理念・方針についてアドバイスをしていきます。非常に穏やかで、しかし厳しくその人自身の人生もチェックしながら進めていきます。しかし経営指針づくりの初心者の方が8回に亘るコースで「外部経営環境の課題は何か?」というところまで完全につかむことは無理です。外部経営環境の課題を経営指針づくりの実践で分析していくには、何期にもわたって経営指針づくりを積み上げてきた方が実例を示さないといけないと思います。

(つづく)

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