講演録

この間の同友会運動の全国の経験と到達点

中小企業憲章に取り組み、何を変えていくのか

なぜ今、中小企業企業憲章運動か

 中小企業憲章学習運動は「わが社」との関連で考えていこうと提起されています。

 中同協は1973年以来毎年欠かさず、国への要望書を提出してきました。これは毎年1冊のパンフレットにしていますが、その内容は3つの視点でつくっています。1つは「自社の経営課題を解決するために必要な外部経営環境改善課題の政策化」ということです。2つ目は「同友会運動の中で生まれた政策課題」です。3番目は「全国民的課題の政策化」、この3つの性格があります。

 本年度の重点要望では、「持続可能な社会・経済システムへの根本的転換をめざす中小企業憲章の制定を」と訴えています。中小企業憲章の制定の1番目は、憲章の性格、そしてそのために「中小企業担当大臣」を置くことと、分かりやすく提起しています。これは同友会運動が独自に生み出した政策課題で、まだ他の団体は言っておりません。

 2番目の「耐震強度偽装事件」等にみられるように、国民の経済システムに対する信頼が大きく揺らいでいる、したがってそこで大事なのは市場での公正なルールの確立であるということを謳っています。これは全国民的課題としての問題提起であろうと思います。

 それから3番目に「2007年問題」を提起して、それに向けて私どもは、たとえば経産省が出している「若者と中小企業とのネットワーク構築事業」をスタートさせる、そこに同友会がおこなっている共同求人やインターンシップ等々と連携していくような方向を考えてほしいと。これはやはり同友会運動でなければ出すことができない提起であろうと思います。

 その他、「低迷する地域経済の抜本的な再構築」ということでは、たとえば公共事業にかかわるところなどは、これは個々の建設業に関わる方の要望を集めていって絞り込むと、現在の公共事業のあり方への提言となります。日本の現状ではいちばん遅れている災害に対する公共施設の対応。学校施設の耐震化はまだ半分だそうです。あとは税制とか金融等の政策提案をおこなっています。これらは、憲章の提案の以前からベーシックな要望として出しているわけですから、憲章の内容を来年以降整理していく中で、政策活動として積み上げてきたものを整理していくことが基本となると思います。そこに会員個々の企業の皆さんの経営改善の課題を、一つでも二つでも出していただき、中小企業憲章に結実させていくことが大事ではないかと思います。

中小企業基本法の役割と限界

 「現行の中小企業基本法との関係についてどうなのか」、これは必ず出されます。われわれが中小企業憲章と言いましたら、同友会を応援していただいている学者の方にも「日本には基本法があるじゃないか、99年に新しい基本法をつくった時に同友会はもっと声を挙げなかったのか?」と言われることがあります。実は、わずか半年で改正されたので、ヒアリングに応募するという程度のことしかできませんでした。

 基本法の中でもよくできている部分もあります。たとえば第6条、これは大いに使えます。「地方公共団体の責務:地方公共団体は基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」。つまり「国は国の中小企業政策をしますよ。しかしそれに頼らないで、自治体は独自なものをつくりなさい。自治体には地域に独自の条件があるから国に頼らないでやりなさい。国も金を出せなくなりましたから」と言っているわけです。これはまさに「振興条例を大いにつくりなさい」と言っているのと同じです。そんなふうに読み替えていく必要があります。

 もう一つおもしろいのは第23条で、これは(資金の供給の円滑化)です。「国は中小企業に対する資金の供給の円滑化を図るため、政府関係金融機関の機能の強化、信用補完事業の充実、民間金融機関からの中小企業に対する適正な融資の指導その他の必要な施策を講ずるものとする」。いいことを言っています。これをきちんとやってくれましたら、金融アセスメント法をわれわれが言わなくても貸し渋り・貸し剥がしは起きません。今、政府が進めている信用保証制度の保証料率の9段階のランク付けや部分保証の導入、それから政府系金融機関の縮小方向、これらは基本法の理念に相反しています。

 同時に、この基本法では触れていない問題がたくさんあります。まず第1は税制のことを何も言っていません。専門家に「中小企業税制ということを我々が言うにもかかわらず基本法にはない」と言うと、「いや、税というのは国家の財政に関わる根幹なので、中小企業という部分で出せる問題ではない。」と返ってきます。しかし中小企業の政策を考えると、金融と税制は2大柱です。これからも変わらないと思います。しかし、中小企業基本法では触れられていません。中小企業全体のことを基本法が責任を持って指し示すには、不十分と言わざるを得ません。まして私どもが共同求人とか社員教育それからインターンシップ等で、学校や地域社会とのかかわりを拡げ、障害者の雇用も進め、女性企業家を輩出していこうとしていますが、中小企業基本法ではそんなことにも触れていません。国際的な関係にも触れておりません。

 ということで考えた時、中小企業基本法をも包含した理念法としての中小企業憲章が必要になるということが言えるわけです。

中小企業家の権利回復の運動

 今まで長年取り引きしていた金融機関から、ある日突然融資をストップされる。その理由は、担保価値が下がっているとか二期連続赤字を出しているとか。「そういう企業にはお金を貸すなという指導が金融庁から来ております」ということで、政策として貸せない。これはおかしいと、私どもは大運動を展開しました。そしてアセスメント法そのものは実現されておりませんが、さまざまな中小企業金融、地域金融に関する具体的な施策あるいは行政の指導ということについて勝ち取ったものが多くあります。

 なんといっても「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(略称「リレバン」)。去年の春まで2年間、金融庁は徹底して地域金融機関に対する指導を強めました。要するに、地域の中小企業や地域経済に金融機関は深くかかわりなさい、企業を評価する場合も定量的な評価だけではなくて定性的な評価もやりなさい。地域貢献をどれだけ金融機関がやるかということを金融庁は評価する。言ってみるとアセスで主張したことを、金融庁は国家のほうで指導する形になるわけです。包括根保証は無効であるとか、連帯保証は基本的になくしていく方向で動きつつあります。破産法も改正され、破産した場合、現金21万円しか持てなかったのが、今は99万円持てるようになったわけです。再生の条件が多少できました。再チャレンジが可能な社会をわれわれは言ってきましたが、少しずつ改善されてきているわけです。

 あの運動の中で100万の署名を集めるためにいろんな方に訴え、学習もする中で、こういう表現をされた方がいました。「このアセスの運動は中小企業家の権利回復の運動だ」。つまり「これだけ地域社会にとって大事な仕事をしている我々が、金融問題一つとってもこんなに冷遇されるのはおかしいではないか」ということです。

 この運動を通じて金融機関とのかかわりも厚くして、懇談会も持たれました。その時に必ず言われるのは「中小企業さんは、決算書もきちんと説明できる経営者はいないではないですか」と。その時われわれは切り返すわけです、「同友会の会員企業は違います。経営指針づくりを全企業がやっています。経営理念をつくり中期ビジョンを持って毎年毎年の経営計画を進めています」。金融庁との懇談をやった時に鋤柄幹事長が「金融庁の皆さん、同友会の会員であるということが、最良の保証になる時代になってきていますから」と言いましたら、金融庁の役人の皆さんの中で困惑される方もありました。

 でも現実にそうじゃないですか。広島銀行が「家庭円満」という新しい金融商品をつくりました。要するに、少子化社会に対する対応で、育児に励む男女社員にきちっと対応する中小企業に対しては優先して融資をしましょう、そして同友会の会員は金利を安くしましょうということです。札幌銀行も「新人王」という新商品を去年つくりました。これは同友会が共同求人で新卒採用をしていますが、新卒者の採用数に応じて必要な融資をおこなうものです。香川同友会も、「経営指針を持っている同友会の会員企業に対しては、金利を安くするというのはどうですか?」との提案に対し、まだ実現はしていませんが「考えましょう」との返事が地元金融機関からあります。こうして、社会的にも金融機関に対しても説得力のある提案ができるようになってきました。

われわれ自身が世の光となる運動へ

 来年で会歴50年になる中同協の田山顧問はしみじみ、「今までの同友会の政策提言は、ここを変えてほしい、これは反対、という運動だった。しかしアセスの運動は新しい体系を提案し創造していく。こういう運動は同友会の歴史の中では初めて、ここまでできるようになったんだ」とおっしゃっていました。私たちの努力は国政を変えられるんだという自信が同友会の中に生まれてきました。今までの中小企業運動は「要求」であって、これはこれで他の中小企業団体の要望とも共通するところがあります。しかし私たちの新しく提案していく運動は、「あるべき中小企業」、つまり運動の主体であるわれわれ自身をどう形成していくのかという運動でもあるということです。これがまさしく世の中の光となるということです。「中小企業に光を当ててほしい」というのが従来の中小企業の運動であるとしたら(これも必要であって否定してはいませんが)、むしろ「われわれが光になる運動」を新しくわれわれは提起しているということです。それはこの主体の形成で可能になるのだと思います。

 「わが社と憲章」について、愛知の憲章学習のシートに赤石会長の記入したものがあります(総会分科会提出シート)。建設業界の特徴という点で、先進7カ国の中でどういう歴史的な経緯、GDPに占める建設業の異常な比重の高さ、業界としては92年をピークに2006年度は売上がほぼ6割近く落ちてきている問題、しかし事業所数も労働者数も減らないという構造、そういう状況を踏まえて「自社の方向性(自社の経営指針)」を提示。森山塗工の経営指針の内容に触れ、営業の重点方向は今までは新しく建築する物件を狙ったが、今やメンテナンス中心に営業の方向を変えています。そのために顧客満足を継続する。金融機関との友好な関係、仕入先との関係、たくさん書いてありますが最後に「社員の成長と満足の向上」、つまり社員教育です。次に「望ましい経営環境」ということで、今の日本の建設業界を取り巻く内容を書いています。特に、公共施設に関しては住民参加で、住民の意見を聞いて自治体は事業を行うべきだとか入札に関する要望も入れております。最後に「『中小企業憲章』に望むこと」ということで、教育の問題について「単に職業知識だけでなく、小・中学校の一般教育の一環として、地域の伝統産業や特色ある産業に親しみや誇りを感ずる事のできる授業を多くし、働く事の喜びと共に地域の仕事を大切にする文化の創造にも寄与できるものでありたい」と提案されております。

 つまり経営環境の分析です。それぞれの業界においてどんなことが大切なのかを絞り込んだ分析、わが社がその課題を自社の経営方針の中にどう反映させながらやっていくのか、経営指針づくりはここまで進化させなければいけません。そんな模範を示したものの一つだと思い引用させていただきました。

(つづく)

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