講演録

この間の同友会運動の全国の経験と到達点

中小企業の存在価値を知らせ、地域改革の力としよう

地域における同友会の果たす役割と事例について
―なぜ、平行して振興条例の制定、見直しを提唱したか

 中小企業は当然地域に密着しています。「地域」の定義についてはいろいろな解釈があります。要するに地方の場合は、地域といえば事業をやっている範囲のことです。大阪も中心部の方とか、東京でも新宿とか渋谷では、「地域って何?」となってなかなか難しいです。今赤石さんがお書きになっている本では地域の分析、定義について、「地方地域と都市地域」と概念を二つに分け、それが歴史的にどう形成されてきているのか触れているようです。地方地域というのははっきりしています。第一次産業を中心に一つの集落、そこに基づく工業とか商業が発展していく、事業をやるということと人びとの生活が重なっていて見えやすい。要するに「冠婚葬祭、義理を欠かすことのできない関係、これが地方地域」ということです。

 もう一つの都市地域については、複合する産業集積がそこで生活する人々の生活条件とどう結びついているのか、大いに議論することが大事だろうと思います。

 そういう中から中小企業振興基本条例の制定運動をしていますが、これも今年度の中同協の活動方針からの抜粋です。まず第一には「行政の対応は同友会会員企業と同友会の社会的評価がベースになっており、同友会での21世紀型企業づくりの課題がこの面からも問われること」と書いてあります。やはり行政そのものがもう従来型では財政的にも大変ですし、それからどこの自治体も人口減少に直面しており、一方で高齢化が進んで税収も落ちる。自力でいかにしてその地域を元気にしていくか、ほとんどの自治体が直面している課題です。そうしますと、知恵を出してくれる、あるいは企業活動を行って人を雇い、そこで生活する人を生み出す。そういう企業の集団として同友会が、地元にある学校、大学などとも連携しながら、その地域発展のビジョンを提言していく。行政も知恵を出すけれども、みんなでこの地域をどうするかということを一生懸命考えかつ実践してくれる、そういう関係が構築されつつあります。

 今まで自治体が二一世紀ビジョンとかを出しても、東京のコンサルタント会社が2000万とか3000万とか予算をもらい、多少アンケートを集めて、地名だけ変えればどこでも通用してしまうようなものをつくっていました。自治体のほうもお茶を濁してきたのですが、これではもう当然だめで、そのことに気づいて危機感を持つ自治体が増えてきています。

 私どもは「地域のことは地域で意思決定できる組織と人材をつくること」だと思います。この人材の中には我々自身ももちろん入るわけですが、行政の中にキーマンが必要だと思います。キーマンがいない自治体は危ない。真剣になって、「この人は役人ですか?」と思うような働き、われわれに対する積極的なアプローチをする方、そういう方を大事にしなければなりません。大学の中にも、一般市民の中も、NPOでも盛んな活動をしているところも生まれてきています。

われわれの「覚悟」

 今年の総会の第四分科会で、この「覚悟」という言葉は三重の宮崎代表理事が使っておられます。「同友会運動は、実はまっとうなことを言ってきたんだけれど、今まではそれが異端でした。しかし、世の中がだんだん異端のほうを評価するようになってきた。そしてわれわれは今や真ん中に近づきつつある。したがってわれわれに対する期待は大きい。三重県だってそうです」。一昨年、三重県は振興条例をつくるわけですが、同友会は呼ばれて発言しなきゃいけない。そうすると代表理事と事務局長は必死になって勉強です。中同協にもよく電話がかかってくる。「三重県には独自の産業構造があるからそれは出そう」と勉強した中で、県議団の研究会で「同友会さんのご発言はいいですね」となるわけです。そういう責任を持つ覚悟が必要だということです。

 同友会はその点では全国の知恵を集められます。そして三重県らしい条例の制定になるわけですが、その条例を現実のものにしていく上で振興会議とか何か立ち上げないと本物にならないわけです。そこで「具体的にこれをしたらどうですか、という時にそれを実行できる会員がどれぐらい居るか」、それが心配です。今度、新しく支部ができる尾鷲は漁業と林業の町で地盤沈下が激しいわけです。それで海洋深層水で何かやろう。中心メンバーはみんな同友会の方です。あの「もくもくファーム」も真っ先に行動しています。尾鷲市の他の商工団体からは「ぜひ尾鷲に支部をつくってください。同友会に入りますから」と言われています。そうなると責任が重い、その責任にこたえられることをほんとに尾鷲でできるか、「結局失敗しました」というわけにいかないので、みんな真剣です。同友会が地域の期待に応えなくてはいけない、その覚悟が大切です。

地域文化の継承と発展を

 振興条例づくりの中には、「地域文化の継承と発展」を新たな課題として入れていかなければならないと思います。参考として、北海道帯広市はおもしろいです。振興条例はすでにありますが、廃止して新たにつくるか見直しにするか、市は検討しています。そのために同友会の帯広支部と帯広の商工会議所、帯広市の三者が研究会を持ち、毎月勉強会をやってきて、いよいよ市のほうで成文化します。

 各地でいろいろな取り組みが進んで、中小企業振興という時に必ずしも「中小企業」という言葉にこだわらなくていいのではないかと考えています。三重県の振興条例は「地域産業振興条例」で中小企業という言葉は一箇所しか出てきません。大企業という言葉もなく「事業者」という表現で統一されています。あそこは大企業が多くありますから、一緒になって事業者ということで産業振興を考えてほしいということと、県の特徴である農林水産業の振興を条例の中で謳っているわけです。県の特色が実によく出ていると思います。

今後の中同協の運動の進め方と、大阪同友会への期待

 今後の運動の進め方として「専門家を交えた政策課題の整理」が必要になってきます。税制と金融はそれぞれプロジェクトがありますので、そこで問題を整理していこうと考えております。それから「中小企業施策の足らざる」ところ、ここは今の施策ではだめだというところを整理していこうと考えておりまして、専門家の先生方の力を借りたいと思います。

 EUの小企業憲章が2000年から始まって6年経っていますので、その到達点の分析を中同協がつかむ必要があるのではないかという課題も抱えています。

 最後に大阪同友会については、同友会の三つの目的の総合的実践、その基本はやっぱり例会を中心にした学び合い活動の強化でありますが、その点で同友会がめざす企業づくりの全国の典型をお願いをしたいと思っております。それからレジュメでは「中小企業の存在価値を知らせ、その発展のために広く知恵を集め地域改革の力としていく」という表現にさせていただきました。中小企業の存在価値が一人ひとりの市民の生活の24時間、目に見えるところ見えないところ、至るところで機能している、それがなくては私たち一人ひとりの豊かな生活はない。そういう価値ある中小企業に目を向け、そこで七割以上の人たちが働いていますから、誇りを持って飛び込んでくる若い人たちを育てていくことです。日刊工業新聞の毎週木曜日に大阪同友会が取り上げられ、10回まで進みました。全国版ですから読んでいる方は全国にいらっしゃいますが、記者の主観に頼らず正確に書いてあります。広報として大事なことだと思います。

 いよいよ始まる阪南大学での中小企業実践寄付講座はすごいです。講師陣もテーマもすばらしい。大学の先生ではなく、経営者ご自身の何十年の生きざまがあの難しいテーマに塗り込められています。それを受講生の皆さんに伝えていくと、すごい効果が期待できるわけです。大きなビジョンでは「社会教育運動としての教育実践」、「同友会の教育というのはまさしく社会教育運動だ」と私どもは言ってきましたが、これこそ中小企業憲章の真の実現につながる道だと思うわけです。「あらゆる道はローマに通じる」という言葉がありましたが、「われわれのあらゆる実践は中小企業憲章につながっている」ことを確信しています。

(了)

(本稿は9月22日に大阪同友会で行われた中小企業憲章学習会の講義内容を要約したものです。)

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