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【08.05.18-24】中同協・中小企業憲章ヨーロッパ視察団ルポ

中同協・中小企業憲章ヨーロッパ視察団結団式

中同協中小企業憲章制定運動推進本部(本部長・鋤柄中同協会長)は、制定後八年経過した「ヨーロッパ小企業憲章」の成果に学ぶことを目的に、5月18〜25日、8日間の日程で中小企業憲章ヨーロッパ視察団を派遣しました。出発の前日、成田空港に隣接するホテルで結団式が行われました。

 視察団は鋤柄本部長を団長に28名で構成。視察先は、EU本部のあるベルギー・ブリュッセルでEU企業総局からのレクチャー、ヨーロッパ職人・中小企業協会との懇談が予定されています。さらに、教育、福祉施策で注目を集めるフインランド・ヘルシンキに向い、国家教育委員会でのレクチャー、テクノポリス、地元大学を訪問し中小企業との連携や職業教育、企業家教育についての見学、懇談等も予定されています。

5月17日16:00 成田のホリディ・イン東武成田にて26名が集まり、5月18日からの視察旅行の結団式を行いました。

鋤柄団長から「五感でヨーロッパの実態を感じ学んでこよう」との訴えがあり、その後参加者全員から決意表明がされました。

最後にコーディネーターの三井先生(横浜国立大学教授)から、「今回の視察はEUが小企業憲章を8年間実践し、スモールビジネス・アクトという法律を定める直前という絶好の時期に訪問する」と強調され式を終了ました。その後懇親会で交流を深めま明日からの鋭気を養いました。

1日目(5月18日)ヘルシンキからブリュッセルへ無事到着

サンカントネール門フィンランド航空のムーミンの絵が描かれた航空機はほぼ満席の状態で、成田を予定通り出発。ヘルシンキまで10時間。フィンランドのヘルシンキ空港で乗り継ぎ、ブリュッセルまではフィンランド航空のエアバスに乗り2時間の旅。

NATO本部、EU本部、ベルギーの国会ビルなどを見ながら、午後5時にブリュッセル到着。

地元日本人ガイドの方から「最近EUは全体に治安が悪くなり、ベルギーは、以前は治安のいい国のひとつに数えられていましたが、統合で出入りが自由になったことと最近加盟してきた東欧圏の国との経済的格差があることが背景になり、事態を生んでいるとのことでした。ブリュッセルも例外ではなく凶悪犯罪はないものの、スリや置き引きは多発している」とのこと。

2日目(5月19日) ブリュッセル UEAPME(欧州クラフト・中小企業同盟)との懇談会

UEAPME(欧州クラフト・中小企業同盟)との懇談会9時に集合し、バスで市内観光 サン・ミッシェル大聖堂を見学。ゴシック様式の建物で、フラシュなしなら写真撮影もできました。ステンドグラスが見事でしたが、第1次世界大戦では建物上部はすべて吹き飛んだとのこと。

その後、サンカントネール門(ベルギーがオランダから独立した50周年記念時の1904〜05年に建てられたもの)に駐車。周りには自然史博物館、戦争博物館、自動車博物館が併設されていた。歩いて5分ほどで新築されたEU本部。外観を見て戻る。

その後ベルギー王宮を外から見学(ベルギーは立憲君主制)、その前に広がるブリュッセル公園は木が茂り、菩提樹を編みこんで緑の壁が作られていた。ベルギーの緑地面積は、日本と同等とのこと。
「小便小僧」像とグラスブルグの見とショッピング。「Le Paon」で昼食、ベルギーは煮込み料理が多いそうで、鶏肉とジャガイモなどの煮物がメイン。水が3ユーロ。ビールが3.5ユーロ。

UEAPME(欧州クラフト・中小企業同盟)との懇談会は、ホテルの2F会議室。Luc Hendorickx氏との懇談。UEAPMEは各国のクラフト中小企業同盟と産業別のそれとの連合体で、85の団体が傘下にあります。

各連盟は労働組合と協議し労働条件などを決めていく役割をしており、UEAPMEはそのまとめ役であり、EUに対するロビー活動を主な役割としています。

EU加盟国には900万、関係国含め1200万の企業があり、従業員含め5500万人に影響力を持ち、いかなる政党にも属さず、任意加入制をとっているとのこと。

ヨーロッパの中小企業の現状の説明があり、250名未満の従業員の企業をおおむね「中小企業」と定義。ヨーロッパの企業数は約2500万社その99.7%が中小企業で、大企業は5万社。中小企業のうち93.4%が10人未満の企業で、2500万社の半分が自営業者で、平均従業員数は6人、ほとんどが50人未満の企業とのこと。

EU設立までに至る過程とその後の拡大、中小企業との関係を説明。

小企業憲章制定が当時の英国首相ブレアの提起により行われたことや、自分たちもその策定過程に加わったこと、自分たちは中小企業同盟でありながら小企業憲章にこだわったこと、それは小企業が大多数であるとともにそれを大切にすることが中企業も含めよくすることにつながるから、2003年以降憲章の事項報告が出されなくなっており、中小企業を扱っていた第23局も企業総局に統合され、中小企業への取り組みが弱くなっていること、UEPMEはそれだからこそスモールビジネスアクトを制定し、より拘束力のあるものをEUに求めていることなどが報告されました。

憲章策定までには、欧州の運動も単純に進んでいないこと、中小企業が抱える課題が似通っていること、中小企業運動は国際的に連帯できる可能性があること、ロビー活動という分野は同友会運動でも強化しなければならないが、運動体として経営者の自助努力など、同友会運動の先進的なところも実感されました。

3日目(5月20日)ブリュッセル EUの企業総局との懇談

EUの企業総局との懇談9時から団会議と三井逸友・横浜国立大学教授のレクチャー。
「EUの小企業憲章後の8年に期待はずれだったか」と問題提起。今世界で何が起きているのか、情報交換し、認識を深めその中で起こっていることの本質をつかみ、世界の中で何ができるのかを探ることが大切と話がありました。

学びのポイントとして、以下7点。

1.EUの小企業政策は理想形ではなく、さまざまな思惑の中から生まれ、変化していること。
具体的には、ヨーロッパ中小企業白書が2003年以降出されておらず、中小企業に関するEUの報告が出されなくなった。憲章の実行をフォローするチェックがあいまいになってきており、EPMEは不満を表明している。その理由はこの数年加盟国が増え思うように統計が取れないことと、政策面でリスボン戦略の一方の本質である「知識主導型産業への転換で競争力を強化する」という点に基づきEUの産業政策全体の中に中小企業を位置づけ、保護政策的側面をなくしてきているということがある。

2.小企業憲章策定の背景。ヨーロッパの各国政府が市場経済と社会保障を統一的に進めようとしてきた(社会民主主義的政策)ことがあり、当時イギリスのブレア首相が小企業憲章の推進役でありその「ニューレイバー」(雇用確保と労働環境の改善、その多面も教育の重要性)という考え方が反映していたこと、このUEAPMEが作成過程にかかわってやり取りしていたこと、中小企業同盟なのに「小企業憲章」にこだわった背景。

3.「スモールビジネスアクト」という、統一欧州議定書をEUが定めようとしていることの背景。憲章は定めたが、これは各国への拘束力がない、EUの国を超える国としての積極性はあるものの限界や矛盾もあり、それらが反映している。知識主導型のイノベーションを行っていくうえで中小企業には問題が多く、EUを利用し、小企業=大多数の自営業者への政策的支援を上から何とかしようというUEPMEの戦略が反映しているようだ。

4.UEAPMEは欧州の中小企業の利益代表であり、EUに対して影響力のある組織だからこそ「EUの中小企業政策はまだまだ不足している」というのであって、彼らのロビィストとしての存在意義がそこにある。
傘下にある各国の中小企業同盟は一部に政府の補助を受けているところもあり、政府に強く小企業憲章の実行を迫れないところがあり、同友会との運動の質がかなり違う。ロビー活動の重要性という点では学ぶところが多いが、運動団体としての同友会の先進性を感じるところでもあった。

5.EUの中小企業の抱える課題と日本の中小企業の抱える課題もかなり共通性がある。事業承継、産学連携、ハイテク支援だけでなく中小企業のイノベーション支援、企業家精神の喚起、金融支援など。

6.成果としては、企業の創業コストの軽減、中小企業団体との協議会・懇談会の定着、行政手続の簡素化、「Think Small First」のことばの定着と基本的なコンセンサスができたこと。これらにより中小企業が増えていること。

7.アメリカ中小企業庁は連邦政府から独立した存在であり、各省庁の一定割合の予算が中小企業のためにどのように執行されているかをチェックする機関であるが、その考え方をEUも導入するかもしれないこと。

三井氏は日本の中小企業施策のあり方をEUと対比させながら解説しました。
ブリュッセルでは、EUの東方拡大とそこから生まれる格差、必死に対応しようとしている中小企業団体やEU(国を超えた「国」)の矛盾と思考錯誤を肌で感じるものでした。

午後はEUの企業総局との懇談。
3名の中小企業部門担当者からレクチャーがありました。
EUが東方拡大してきたことやこの間の取り組み、スモールビジネスアクトを制定しより拘束力を強めようとしていること、この間の成果と考えている点などが報告されました。同時に中小企業の抱える事業承継や企業家精神の発揚、金融支援などより実行力が求められていることなどが出されました。

4日目(5月21日)ヘルシンキ テクノポリス見学

ヘルシンキ空港近くの「テクノポリス」まずはじめに、ヘルシンキ空港近くの「テクノポリス」を訪問。
「テクノポリス」がインキュベーターであり、かなりの小企業が入っており、IT関連が多く、50%埋まってきたので新たに増設中であること。

空港立地を生かし、国際化に対応、アジア・日本と一番近いヨーロッパであり、ヨーロッパ全体へのアクセスもいいことを活用し、IT関連の企業の育成に力を入れている。以前は自治体の出資が半分、ノキアなどの企業の出資が半分であったが、今は自前の資本で運営し、起業の基金や国や自治体からの支援もあわせ運営しているとのこと。

レクチャーのあと、公開していいラボを見学。ICタグの活用と開発研究を行っていました。実用化が進んできた事例が多数紹介されました。

その後、ヘルシンキ・ビリウム・フォーラムに到着。3名のレクチャーを受けて懇談。

ここはもともとフィンランド国営放送から独立し、デジタルサービスの分野の利用方法を研究し提供する企業だ。国営放送の敷地内にありました。商品やサービスを開発するために、ヘルシンキ市民の登録会員をモニターにして開発に協力してもらうシステムをもち、ここでモニターされた情報をもとに開発されたものが多数あるとのこと。

写真と文:東京中小企業家同友会 事務局員 荻原邦弘

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