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【08.08.04】【欧州小企業憲章視察記】(3) 手厚い教育で企業家精神

理念に「個人的成長や市民としての在り方」も

中同協が5月18〜25日に行った「中小企業憲章ヨーロッパ視察」の視察記3回目は、フィンランドの企業家教育の現場を紹介します。(中同協政策局長 瓜田靖)

無償で手厚い教育

 フィンランドの教育といえばPISA(OECD学習到達度調査)世界第1位として有名です。私たち視察団は高等職業専門学校(ポリテクニーク)の視察と学生たちとの交流、国家教育委員会でのレクチャーの機会を得ました。

 フィンランド教育システムの最大の特色は、すべての子どもに、年齢、居住地、性別、経済的状況、母語にかかわらず平等に教育の機会を与えることに徹していること。教育費は、すべて無償。6歳の就学前児童教育と基礎教育(日本でいえば小・中学校)においては、教材費、給食費、授業料はすべて無料。高等学校では教科書は自己負担。高等学校については、全国どこの学校でも選べるので、自宅から遠い学校へ行く場合には補助金も出ます。

 もちろん、大学(院)も無料。私立大学がなく、大学間のレベル差もほとんどない。しかも、17歳以上の学生であれば援助金が受けられる。額は状況によって違いますが、1人暮らしであれば、月額平均約500ユーロ(8万5000円)の返済義務のない生活援助が受けられます。

子どもと教師の自由と自主を尊重

 これだけ勉学条件が整備されていれば世界最高水準の学力になるのも当然、さぞやフィンランドの子どもたちは勉強していると思いきや、授業時間は日本が年間700時間以上なのに対し、フィンランドは低学年500時間台、高学年も600時間台。日本では、夏休みを削って授業時間数を増やす方向ですが、フィンランドでは2カ月半の夏休みはいっさい宿題がなく、塾も存在しないとのこと。

 さらに、中央政府が教育の大きな方向性(コア・カリキュラム)を決めますが、その具体的な実施は地方自治体や各学校に任せ、教育方法や教科書は現場の教師が自由に選べます。

 しかも、昔は日本のように、生徒が座り、教師は前に立って話をする教育スタイルでしたが、今はそうでなく、教師は教室の隅に立っていて、各生徒は自分自身で学習を進めていき、教師はそれにアドバイスする(advising and learning)というスタイルに変わったそうです。

自分がよく分かることで、自信がつく

 日本とのあまりの違いに、視察参加者は次々と質問しました。職業教育では、専門職業に必要な知識や技術の習得と並んで、教育理念に「個人的成長(personal growth)や市民としての在り方(citizenship)」を掲げています。自分の良いところや弱いところに生徒自身が気づくことにより、自分がよく分かる。そのことで自信がつき、競争で負けることに耐えられる人間になれる、との答えに視察の皆さんは深い感慨をもったようです。

学生たちから聞けた企業家教育の精髄

 ポリテクニークであるユヴァスキラ大学のチーム・アカデミーの学生たちとの対話と交流は、新鮮な体験でした。

 学生たちは一人ひとり企業家で、チームごとに実際にビジネスをしており、日本から来た“老練”な中小企業家たちとの交流は大いに盛り上がりました。経営者として一番必要なことは「熱意と正直」だと語る学生たちに、フィンランドの企業家教育の精髄を見る思いがしました。

(つづく)

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