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【08.12.05】<解説>中小企業振興基本条例の制定状況と今後の課題

 この間制定された中小企業振興基本条例(以下、振興条例)をふりかえり、北海道同友会帯広支部の経験(2面参照)のように条例制定後の課題も含めた今後の取り組みの課題について考えてみましょう。(中同協政策局長 瓜田 靖)

全国に広がる「理念型条例」の制定

 振興条例等は全国に150以上の自治体にあると推測されますが、その中には古いタイプのものが多く、私たちが進めている中小企業振興の理念が、きちんと位置付けられた振興条例が制定されている自治体は限られます。

 県レベルでは2002年に埼玉県が初めて制定して以降、2004年に茨城県で制定され、各同友会が行政や議会に条例制定を働きかけかかわりを深める中で、2005年に三重県、2006年に福島県、そして2007年には、千葉県と熊本県、北海道、青森県で相次いで制定されました。さらに、2008年にも、奈良県、徳島県、沖縄県、神奈川県で制定され、条例制定の勢いは続いています。このように、2000年代に入ってから、県レベルで12道県が振興条例を制定しています(一覧を参照)。

 また、札幌市が2007年に「札幌市中小企業等振興条例」を改正し、「理念型」の条例として政令指定都市では初めて施行されたように、市区町村レベルでも2000年代になって活発に条例の制定・見直しが進む傾向が見られます。

振興条例の制定は「入口」―問われる政策立案能力

 今後の振興条例制定運動の課題の第1は、県レベルとともに市区町村レベルにも振興条例制定を大きく広げていくことです。

 旧来型の振興条例でない「中小企業振興基本条例」制定運動は緒に就いたばかりであり、まだまだこれからの運動です。

 これまで、経験を蓄積してきた北海道同友会や千葉同友会では、すべての市町村に振興条例を制定するという方針を持って取り組んでいます。

 第2に、条例制定は「出口」でなく、「入口」であり、制定後から本格的な政策立案能力が求められることです。帯広市の経験は制定後の取り組みでも典型的な事例として豊富な示唆と教訓を提供しています。

 立派な振興条例が制定されても、振興条例制定に相当なエネルギーを使ったため、条例を活用することや具体的な政策立案まで踏み込む余力がなくなることもありえます。

 まず、基本的なことは、「中小企業振興」とはどのような状況を想定するのかということを行政サイドと共通の認識ができるか、ということです。

 いわゆるベンチャー支援や上場する中小企業を作り出すことを狙うのか(行政側に多い認識)、中小企業の底上げのための姿勢と施策を掲げるのか、など政策の理念と戦略が問われてきます。

 第3に、中小企業憲章制定運動との連動をどう図るかという視野が求められるでしょう。

 優れた振興条例であっても、国政にかかわる問題や課題にまでも十全に対応できるわけではありません。しかし、中小企業振興基本条例制定は、憲章そのものを意味しませんが、中小企業憲章制定運動の一部を構成します。

 振興条例は中小企業憲章の地域での具体的内実をつくっていく手段の1つであり、中小企業憲章を地域で実践する担保と考えてもよいでしょう。

 興味深いのは、EUの一部では国を超えて州単位でヨーロッパ小企業憲章を採択し、憲章に沿って自治体の政策を具体化するなど憲章の「地域化」が進んでいることです。

地域活性化の目標をどこに置くか

 第4に、振興条例の制定やその後の政策立案を考える上で、いま改めて地域活性化の目標をどこに置くかということが問われています。

 地域振興や地域活性化とはどのような状態になることを目標としているのでしょうか。例えば、次の5つの目標となる状態が考えられます。(1)商店街が賑(にぎ)わうとか、地域に賑わいや活力を生み出すこと。(2)地域の1人当たりの所得が増えるとか、地域の総生産が上昇することを目標とすること。(3)地域の雇用の創出を目標とすること。(4)地域内での産業の創出や既存企業が新しい事業に取り組むこと。(5)地域での生活の質を引き上げること。いわゆるクオリティ・オブ・ライフの実現です。それぞれが地域活性化のモノサシになると思いますが、(1)から(5)まですべてを追求すべき目標とすると重点が不明瞭になり取り組みの力が分散してしまいます。

 また、高度成長時代などの町の賑わいや所得の上昇など「よき時代」に戻ることをイメージした「地域活性化の状態」は、今では実現する条件がなくなっていると考えるべきでしょう。

 私は、まず(5)の「地域での生活の質の引き上げ。クオリティ・オブ・ライフの実現」を目標として、それを持続可能な地域社会を築く努力の中で追求すべきと考えます。

 その中で、(4)の「地域内での産業の創出や既存企業が新しい事業に取り組む」という中小企業の地域での役割が鮮明になり、その努力が(3)の「地域の雇用の創出」、(2)の「1人当たりの所得増」につながり、結果として(1)の新たな「商店街・地域の賑わいや活力を生み出す」と考えます。

 赤石義博・中同協相談役幹事は、「活力ある地域」を「そこに住むすべての人々が定職につき安定し、将来が読めるくらしに満足し、それ故一人ひとりが皆輝く目を持ち活動的で、仕事にいそしみ余暇も様々に利用している」(『幸せの見える社会づくり』中同協)状態と表現しています。

 今後も何のための中小企業振興や地域活性化なのかを大いに論議し、実践することが求められています。

県レベルでの振興条例一覧

2002年 「埼玉県中小企業振興基本条例」
2004年 「茨城県産業活性化推進条例」
2005年 「三重県地域産業振興条例」
2006年 「福島県中小企業振興基本条例」
2007年 「千葉県中小企業振興に関する条例」、「熊本県中小企業振興基本条例」、「北海道経済構造の転換を図るための企業立地の促進及び中小企業の競争力の強化に関する条例」、「青森県中小企業振興基本条例」
2008年 「奈良県中小企業振興基本条例」、「徳島県経済飛躍のための中小企業の振興に関する条例」、「沖縄県中小企業の振興に関する条例」、「神奈川県中小企業活性化条例」

※京都府は2007年に「京都府中小企業応援条例」を制定していますが、「理念条例でなく政策条例」であるため、ここでは「理念型条例」には数えていません。

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