【20.03.12】【会員皆さんへのメッセージ】危機打開のフロンティアとして 駒澤大学経済学部 教授 吉田敬一

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響が、国民生活と企業経営、地域経済へと広がっています。現状への対応は重視しつつも、先々を考えると「視野を広げること」「本質的に見ること」が重要となります。
 宮城同友会では「同友会大学(毎年経営者と幹部社員を対象に行う連続講座)」開講以来、今日まで講師を務めていただいている、駒澤大学経済学部の吉田敬一氏にメッセージを依頼し、「新型コロナウイルス対策ニュース」として配信しました。
 DOYUNETでは宮城同友会及び吉田氏の了解を得て、転載します。

危機打開のフロンティアとして~経営者に必要な“使命感・先見性・決断力”駒澤大学経済学部 教授 吉田敬一

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1.今、起こっていることをどのように見るか?

 新型肺炎による現在の異常な経営環境の悪化の背景には、複合不況要因が存在しています。複合不況の土台は 21 世紀に入り急激に進んだ「グローバル循環(サプライチェーンの国際化)」です。その上に、米中貿易摩擦による国際経済の沈滞化、国内では異常気象による災害がもたらしたサプライチェーンの乱れと景気動向を無視した消費増税の強行による需要減退が加わり、問題を深刻化してきました。さらに株価至上主義による大企業の減量経営(黒字企業のリストラ続出、フリーランスという名の社内業務の外部化)と非正規雇用の拡大が国内需要の減退を深めてきました。

 よって、今日の新型肺炎危機が終焉を迎えても中小企業の経営環境は引き続き困難な状況が続くという観点を忘れてはいけません。企業防衛のためには新型肺炎に対する短期的・戦術的な対応策と共に、日本経済が陥っている大企業本位の経済政策の元でも、持続可能な企業体質を構築するための中長期戦略(経営指針に基づく全社一丸の会社づくり)を追求していくことが求められます。

 また、地域密着型中小企業にとっての良い経営環境とは、ローカル循環力の強化を追求する運動(中小企業振興基本条例)の意義が改めて確認されます。

2.今、動かなければならないこと(備えなければならないこと)は何か?

(1)自治体と連携した緊急対策の実施、とくに資金繰り支援策の充実。
(2)財務管理、キャッシュ・フロー管理の危機対応力の確認・強化。
(3)当分は赤字営業が続くことを見越した経営計画遂行の覚悟を踏まえた財務内容と損益分岐点の見直し。
(4)東日本大震災の経験を振り返り、過去に学ぶべき点を再確認・整理し、今日的課題を明確にし、全社一丸体制の下で実行する。

3.現段階の今後の見通し(現段階で)について

 新型肺炎の終息と中小企業景気の回復には大きなタイムラグがあります。
新種の病原菌のため、常に“まさか”という事態の続出が予測されるので、今回の危機的状況は少なくとも 1 年間は続くことを前提とした対応が必要だと考えられます。

 そのため個々の企業で出来ること、同友会や業界団体で対応すること、自治体レベルで行われるべきこと、国への施策要求など重層的な運動課題への取り組みが求められます。そのための拠り所として同友会と中同協の存在意義は東日本大震災からの復旧・復興過程が示しています。

 経営者に必要な“使命感・先見性・決断力”が今、問われています。東日本大震災の未曾有の危機を乗り越えてこられた同友会の会員企業こそ、全国の中小企業の危機打開のフロンティアとしての役割を発揮されることを心より祈念しています。