中小企業基本法改正にあたっての見解

中小企業基本法改正にあたっての見解
1999年11月8日
中小企業家同友会全国協議会 会長 赤石義博

「21世紀に向けた新たな中小企業政策の在り方」をまとめた中小企業政策審議会の答申が9月22日に公表され、10月29日から始まった臨時国会では新たな中小企業基本法案と関連法案が審議される予定になっています。そこでわれわれ中小企業家同友会全国協議会は中小企業基本法改正にあたって、中小企業が21世紀の日本の経済・社会においてその社会的機能を果たしていくためにはどのような政策が必要であるのかについて、われわれの見解を発表するものです。

1.中小企業政策全般に関する基本問題

現行基本法の政策体系自体の評価を

第一に、答申は21世紀に期待される中小企業の役割を日本経済の「ダイナミズム」の源泉であると位置づけて、新しい中小企業政策の基本理念を「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」にあると規定していますが、その根拠が不明瞭です。そのためには少なくとも現行の中小企業基本法の政策体系が1960年代から90年代までの日本経済と中小企業の現実的展開に対していかなる成果と問題をもたらしてきたかについて、政策体系自体の評価を行わなければなりません。答申にはそこが明瞭にされていませんから、新しい政策の基本的考えがはっきりと伝わりません。したがって、新たな基本法を策定するにあたっては、まず現行の基本法に基づいた政策体系のまとめをきちんとしなければならないと考えます。

中小企業政策を補完政策から重視政策へ

第二に、さらに答申は、日本経済の「ダイナミズム」の源泉であると中小企業の役割を高く位置づけていますが、それが日本の産業政策の上でこれまでとられてきた中小企業政策の基本的位置づけである補完的役割の変更を意味するのかどうかが不明瞭です。私どもは大転換期の日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正当かつ正確に評価するならば、従来の補完的政策としての位置づけから、大企業が日本経済に果たす役割に並ぶ二つの柱の一つに位置づけを変えて、中小企業重視の政策へ抜本的に転換させる時期であると判断しています。新基本法においては中小企業政策を補完政策から重視政策へ大転換することをはっきりと打ち出すチャンスであると考えます。

中小企業予算を評価に見合う規模へ

第三に、中小企業の役割の高まりの評価は何によって担保されるのでしょうか。われわれは少なくともその一つの指標になるのが中小企業に関する予算であるととらえています。予算についてはもちろん規模額だけでなくどのように使われてきたかなど内容の吟味を要することは当然のことですが、それにしても国家予算の1%にも満たない現状(99年度、0.23%)は余りにも低すぎます。中小企業の評価に見合う水準額までに急速に改善していくべきであると考えます。

2.中小企業政策の各論についての見解

既存企業への積極的支援を具体的に

第一は、ベンチャー企業支援が突出して脚光を浴びる風潮において、答申が「具体的政策の方向」の最初に自立型中小企業へ向けた既存企業の経営革新にたいして積極的支援をかかげていることに注目しています。とくに「支援に際しては支援要件を過度に厳格なものとすることは避け、専門性を基に小さな『革新』に取り組む企業をも裾野広く支援しうるよう中小企業の多様な実態に即した支援要件とし、中小企業者にとって分かりやすく使いやすい支援制度とすべきである」という既存企業のさまざまな自助努力に基づいた経営革新への積極的支援の方向を新基本法及び関連法において具体的に提示することを求めています。地域経済を担う640万事業所に及ぶ既存中小企業の雇用吸収力は大きなものがあります。既存中小企業を元気にする具体的政策(税財政、金融など)を抜きにして日本経済の再活性化の道はあり得ません。

取引の適正化を実際にはかる

第二は、答申が、取引の適正化について市場原理尊重のもと、中小企業の公平な市場参入の機会を確保するためには、中小企業者に不当な不利益を与えるなどの不公正な取引に対して厳正・迅速に対処するとして、取引の一層の適正化のため、「政策的対応の強化を図る必要性がある」といっている点です。市場原理の尊重を図る上では指摘されているように、現実の不公正な取引――とくに大企業と中小企業との間における――にたいして市場のルールを守るべく具体的に「厳正・迅速」な政策的対応が不可欠です。さらに、取引の適正化は現行基本法に基づいた政策体系の中でも積み残されている重要課題でもあります。市場原理を尊重する新基本法においては、取引の適正化を現実化させるために市場のルールを独占禁止法の「厳格な運用」によって、あるいは独禁法の新たな強化策によって遵守させること、しかもそれを「厳正・迅速」に対応すると明記すべきであると考えます。

企業の「独立性」を厳格に運用

第三は、中小企業の範囲にかかわる企業の「独立性」についてです。答申では資本または議決権の一定割合を他の企業に保有されているか否か等、施策の目的に応じ、適切に考慮していくことが適当であると、中小企業の基準の一つに「独立性」を入れています。持株会社等で企業の在り方が多様に変化し、たとえば分社という企業形態、すなわち実際には大企業に保有されているが、形式的には中小企業という企業の増加が見られますので、この「独立性」を基準とする中小企業の範囲規定の現実的意味は大きいものがあります。したがって新基本法において形式的な中小企業を範囲に加えない明確な基準を設置して、関連法で厳格な運用を図ることが必要であると考えます。

地域が主体となった地域づくりの法制化を

第四は、国と地方公共団体との政策的役割分担についてです。答申は、「地方公共団体は、地域活力の源泉たる中小企業の振興を図るための施策を、地域の実情を踏まえ策定し実施するべき(国と)対等な行政主体」であるとし、地域経済の活力は地域の中から築いていくというこれからの地域づくりの方向を示しました。この国と地方の役割の違いを明らかにした方向を新基本法において法制化すると同時に、そのために地方経済・地域経済再活性化に要する財源をどのように調達するのかを示すべきであると考えます。