中小企業から実務家教員を輩出しよう 全国大学実務教育協会との鼎談

 4月4日、小暮恭一・中同協共同求人委員長と一般財団法人全国大学実務教育協会(以下、全実協)の森脇道子代表理事・会長と清水一彦代表理事・副会長が大学実務家教員養成講座について鼎談を行いました。概要を紹介します。

全実協と共同求人委員会の概要

森脇 全実協は実務教育が話題にもならなかった1973年に「短期大学秘書教育懇談会」として設立されました。実務教育という言葉もなかったため、当時高度経済成長期であったこともあり「秘書」という言葉が使われました。

 現在では、実務教育資格・教員研修・産学官の交流の3点を主に進めています。実務教育は2009年ごろから普及をし、協会の実務教育も資格はこれまでに累計63万件の資格認定を行っています。

小暮 同友会の共同求人委員会の活動は同友会理念を実現するための運動として(1)中小企業が日本経済の中心的な担い手として、その社会的責務を果たすために必要な人材を発見し、育成するための活動です。(2)人間としての育ちあいの関係を地域に依拠してすすめなければならないとする、謙虚な考えに立つ活動です。(3)若者たちに、感動のある暮らしを保障し、人間として生きるよろこびを与えられる企業づくりをめざす活動です。(4)就職ということの意味を広く、深く、具体的に若者たちに理解してもらい、同友会に加盟する経営者とともに働く歴史的な意義を伝えていく活動です。(5)学生、親、教師たちとともに、学ぶとは、働くとは、人間の暮らしとは、という人間にとって重要な命題を粘り強く科学的に、人間の尊厳にかけて追求する活動です。の5点を基本理念として掲げています。

 最近では、同友会の会員が大学との連携を通して、講師として活躍することが増えています。

清水 産業界などの特定分野で高い実績を残してきた専門家を大学に迎え入れる「実務家教員」が増えています。専門職大学や専門職短期大学が創設されたことで、大学教育における実学が今まで以上に活性化する状況にあります。

 しかし、まだまだ実務家教員が十分に育成されていないと言われています。実務家教員は教育経験が不足しているとの指摘などがありますが、これまでの大学には実務家教員に対する指導体制・研修体制が不十分で、指導者も存在しませんでした。

 そこで、実践的な学びの機会を提供してきた経験とノウハウを生かして、大学実務家教員のための大学教育準備プログラム講座を開設します。それが今回の趣旨でもある「大学実務家教員養成講座」です。

専門職大学で実務家教員が活躍

清水 これからは産学の連携が非常に重要になります。特定の職業におけるプロフェッショナルになるための専門職大学*が今年から始まりました。現在、動物看護、ファッション、リハビリテーションという分野の専門職大学があります。

 専門職大学では、教員の4割が実務家教員であることが必要要件となっています。教育の現場で、企業での実務経験が生かせる場が今後広がっていくということです。これからは大学に勤めなくても、専任の大学実務家教員(みなし専任教員)になることができます。

森脇 これまでは大学教員は研究者として、自分たちの研究分野の追求が求められていました。しかし、これからは産業界のつながりをはじめ、多様な視点を持ち研究を発展させていく必要があります。研究と実践の両方の追及が求められる時代になってきました。

小暮 当社では大学と連携し画像と通信の新技術の研究を行っていますが、私どものこれまでの技術が研究者や学生の視点から多様に発展していくことを感じています。

森脇 企業としても、実務家教員の問題にかかわることで経営の視点が広がるのではないかと感じています。

清水 大学実務家教員養成講座の対象は、企業等に在籍している方で実務家教員を希望している方であれば誰でも受講できます。専門職大学における「実務家教員」の定めは、「おおむね5年以上の実務経験」と「高度の実務能力を有する」こととなっています。

小暮 企業としては、大学実務家教員になることへの不安があると思います。また、大学教員として研究をしなければいけないのではないかといった敷居の高さもあるのではないでしょうか。

清水 研究とは簡単に言えば「問題を解く」ということです。敷居を高くせず、皆様の企業を取り巻く問題を突き詰めて考えることが研究になると思います。

 養成講座では、A・Bの2つの領域で講座のプログラムをつくっています。A領域では大学人基礎力と教学マネジメント力、大学教員力と教育研究力、B領域では大学授業の基礎知識と授業実践力、変化する大学と大学教育の変革力を学びます。エドガー・デールという教育者が学びのピラミッドとして、学習の定着についてまとめています。講義を聴くだけでは5%しか定着しません。グループワークで50%、体験学習で75%の定着になります。一番定着するといわれているのが「人に教えること」(90%)です。養成講座では授業プログラムの演習も取り入れて、教員となる不安を取り除こうと考えています。

森脇 講座の最後には「学生と実務家教員の未来を考える」というテーマでワークショップを行います。日本独自の教育のあり方をどう生み出していくのかという議論が重要です。

 大学実務家教員になり、人に教えることでその人の可能性が広がり、大学と企業の未来を切り開いていく人に育っていってほしいです。

*専門職大学 2019年度から設置された職業教育に特化した大学。理論にも裏付けられた実践力と創造力を備えた人材の育成を目的とし、卒業に必要な単位の3~4割以上を実習科目が占め、企業での実習が義務付けられています。また、企業などでの勤務経験が5年以上ある教員が専任教員の4割以上を占めることも特徴の1つです。

企業・大学への期待

森脇 企業の方々は先の見えない時代にあっても、明確な人材育成目標を示しています。そして、この目標達成に向けて果敢に挑戦されています。このトライアルの気概を教育界も見習い、今後の実務教育に生かしたいと考えています。

清水 産学の連携で新しい価値を生み出していくことが重要です。大学に中小企業の現場で活躍している実務家が現れることは企業と大学双方にとって効果をもたらすと思います。大学実務家教員の活躍の場はまだまだ保障されていませんが、今後は既存の大学でも専門職の学科が立ち上がってくると思います。教育の現場に中小企業がかかわるチャンスです。

小暮 社会の中で働くことを真剣に考える場がないことは大きな問題です。各同友会では大学との連携が進み、中小企業で働くことを伝えています。企業での経験を生かし、中小企業で働くことの楽しさを伝えられる教育や教科が広がっていくことが今後の地域と日本経済の発展につながると思っています。

「中小企業家しんぶん」 2019年 5月 15日号より