【酒蔵16】水と米にこだわった酒造り 矢野酒造(株)(佐賀)

水と米にこだわった酒造り
矢野酒造(株)(佐賀)

 干満の差が日本一大きい有明海の広大な干潟の上で行う運動会「ガタリンピック」、日本三大稲荷に数えられる商売繁盛の神様「祐徳稲荷神社」で知られる佐賀県鹿島市。太良岳山系からの上質な水、広い平野で作られるおいしい米、有明海の海運を生かし、古くから酒造が盛んな地でもあります。

 矢野酒造(株)は、この鹿島の地で1796年(寛政8年)より酒造を始め、矢野善紀社長(佐賀同友会会員)は8代目蔵元です。

心を伝える酒

 矢野酒造では、かつて酒造りは杜氏さんに任せていました。しかし、蔵元自らがいい酒を造らなければいけないという思いから、矢野社長も一緒になって酒造りをするようになりました。そんな思いを込めて名付けたのが純米酒「肥前蔵心」、蔵元の心を込めた酒です。

 酒造りはこまめなチェックが必要です。「酵母とは人間と同じで、20度くらいが一番活動しやすい。だけど、香り高く、きめの細かい酒を作るには、もろみの期間を長くして、じっくり発酵を進めなくてはいけない。だから、酵母にとって活動するのにぎりぎりの10度くらいに冷やします。温かすぎても冷たすぎてもいけない。子どもの教育に似ている」と語る矢野社長の言葉には、酒への愛情が溢(あふ)れています。

純米酒宣言

 本来、日本酒は米と水で作る純米酒だけでした。太平洋戦争中に米が入手困難になると、もろみにアルコールを混ぜた酒造りで、酒造量を確保しました。しかし、それは酒本来の風味を損なうことにもなりました。現在も、その手法が主流です。

 矢野社長は「やはり酒は純米酒がおいしい。これを皆に味わってほしい」という思いから、原点回帰を決意し、純米酒作りに取り組み始めました。

 そこには中小酒蔵としての思いもありました。大手とは価格では勝てないが、質と技術だったら同じ土俵で競うことができます。この5年で全国新酒鑑評会での2回の入賞、2回の金賞がそれを裏付けています。「もちろん、来年は3年連続金賞受賞を目指している」という矢野社長の力強い言葉でした。

文化財から地域文化の発信

 矢野酒造の建物は、今年2月に国の登録有形文化財に指定されました。現役の酒蔵としては全国でも数少ないとのこと。

 1904年(明治37年)に建てられた母屋に入ると、ひんやりとしていて、出荷準備の自家製奈良漬けの甘い香りがします。かつて、精米所として利用していた蔵は「たつみの蔵」と名付けられ、ギャラリーやミニコンサート会場として開放し、地域文化の発信に貢献しています。

 最後に、矢野社長がお酒の楽しみ方を伝授してくれました。それは「和らぎ水」と言って、お酒を飲む合間合間に水を飲むと、心地よく酔え、翌日に残らないそうです。

 また、有明海の豊かな栄養で育った竹崎蟹(カニ)と一緒に飲むお酒は格別です。

 矢野酒造のお酒と奈良漬けは、ホームページから注文することができます。ぜひ1度ご賞味ください。

【会社概要】
創業
 1796年
資本金 1000万円
年商 1億円
社員数 11名
業種 日本酒の製造販売
所在地 佐賀県鹿島市高津原3903-1
TEL 0954-63-2008
URL http://www.takenosono.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2006年 8月 15日号より