小さな実践でも大きな成果に合流する~ミクロの行動がマクロの社会変化を促す

 中小企業憲章の学習会で、「中小企業憲章が経済や社会、文化、教育など広い分野にわたる大きな問題を考える必要がありそうだということはわかるし、自社の経営課題と憲章のかかわりを考えることが大切であることも理解できる。ただ、その大きな問題と自社の役割が頭の中でなかなかつながらない」というご意見をいただくことがあります。

 この意見を受け止め、中小企業のミクロの企業行動がマクロの経済社会にどう影響するかという問題を考えてみます。1つは、企業を取り巻く外部環境は変えることができるという立場からマクロへの影響を考えることです。たとえば、同友会が金融アセスメント法制定運動に取り組み、法は制定されていませんが、金融制度・環境が改善されてきました。このように、同友会などの組織と運動を通じて間接的に経営環境に影響を与えることが可能です。

 もう1つは、ミクロの企業活動そのものが直接マクロに影響を与えることが可能、とする考え方です。抽象的には、個々の小さな経営努力が地域などで合流すれば大きな力を発揮できる、と言うことはできます。しかし、それをデータで実証する研究はまだ少なく、中小企業憲章を考える上でも重要な研究テーマになります。

 最近刊行された黒瀬直宏氏(専修大学商学部教授)の『中小企業政策』(日本経済評論社)では、中小企業の経済的、社会的役割についてデータも示しながら説得力のある整理をしています。たとえば、日本でも米国でも、中小企業は安定的な雇用を提供し、大企業に比べて多くの雇用を創造していることを論証しています。また、中小企業が「競争と革新の主体」であり、「地域経済の着実な担い手」であることなども、興味深いデータを駆使して論じていますので、大変参考になります。

 このように最近は、中小企業の地道な経営努力が地域や社会の安定と活性化を担っていることがデータによっても裏づけられつつあり、大いに励まされます。

 金融分野でも、次のような興味深い研究成果が発表されています。米国のある研究グループの調査では、1993年から2000年の49カ国(21の先進国、28の途上国)のデータを使い、(1)小銀行のシェアの高い国では、経済成長率が高いこと、(2)小銀行の効率性が高い国の方が、経済成長率が高いこと、などを明らかにしています。中小企業貸出の目利き能力の高い小銀行が活躍している経済では、中小企業が活躍でき、経済活力が高まると解釈されています。この分析結果では、先進国においては、小銀行(資産10億ドル以下)のシェアが10%ポイント高まると、GDP成長率が0・5%ポイント上昇し、途上国においては、小銀行(資産1億ドル以下)のシェアが10%ポイント高まるとGDP成長率が1~2%ポイントも上昇するとしています(日本投資政策銀行「PRレビュー」2005年8月)。

 今後、このような研究成果によって、中小企業憲章の理論的土台が増強されることが期待されます。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2006年 8月 15日号より