連載【日本の食と農を考える】激動をたくましく生き抜く“新時代農業”の創造を

北海道同友会 第5回全道農業関連部会交流会inしりべし

2月22日に北海道同友会で行われた第5回全道農業関連部会交流会の様子を紹介します。北海道同友会には、6支部に農業経営部会があり、計329名が参加しています。

食糧自給率200%の北海道で食と農の担い手が交流

 北海道同友会では2月22日、「第5回全道農業関連部会交流会inしりべし」を開催しました。

 北海道は、食料自給率200%を誇り、農業は基幹産業として地域経済を支えていますが、最近では海外の農産物の輸入急増や深刻な担い手不足など、数々の問題が山積しています。

 この交流会では、「激動をたくましく生き抜く“新時代農業”の創造を!」をスローガンに、全道各地から100名が小樽に集い、日ごろ抱えている悩みを分かち合いながら、共に学び合う仲間として英気を養いました。

 今回は「直売所運営」「食の地域ネットワークづくり」「生産現場からの発信」「地域ブランドづくり」をテーマに4分科会を設け、実践報告とグループ討論を行い、地域や自社の課題や将来展望を探りました。

 分科会別のテーブルで行われた夕食交流会では、話が盛り上がり、各支部からの熱いPRも大いに会場をわかせました。

第1分科会 念願の直売所をオープン!ところが… “売る力”をどう身につけるか

(有)タカシマファーム 社長 高嶋 浩一氏(札幌支部農業経営部会長)

 (有)タカシマファーム社長の高嶋浩一さんは、札幌近郊の北広島市でお米の生産を行い、平成8年からアイガモ農法などで付加価値を付けた「田園交響楽」というブランド名のお米を販売しています。

 また、1日に多い時で2万台の車が通る国道沿いという地の利を生かして、以前から米の他にスイートコーンや芋・カボチャなどの直売もしていました。少しずつお客様にも来ていただけるようになり、同時に業務用の販売も増えてきました。

 ところが、業務用は単一品種の大量生産で手間がかからないということから、徐々にそれに頼りすぎの状況になっていました。ある日、毎週400~500キログラムを納めていた事業所から突然納入を打ち切られてしまいます。高嶋さんは、「これからどうやっていけばいいのか」と思い悩みました。

 ちょうどそのころ、グリーンツーリズム法が施行され、規制緩和によって農地での物販が可能になったので、再度個人のお客様への販売に着手しようと決め、同友会会員の協力を得ながら準備を進めました。

 同社は、売上の95%が米なので、「農家のお米屋さん」というイメージで直売を続けるためには通年販売を視野に入れなければなりません。そうなると、冬も販売可能なしっかりとした建物が必要になりますが、確認申請、都市開発法に基づく開発行為の許可申請など、煩雑な手続きが必要となります。

 しかし、グリーンツーリズム法でいくら規制緩和されても、その他の関係法令は既存のままだったため審査に時間を要し、7月オープン予定が、着工したのが8月。そうこうしているうちに、トマトは真っ赤になって落ち、スイートコーンは赤くなってしまいました。

 最終的に直売所「風楽里(ふらり)」をオープンできたのは、他の直売所が店じまいを始めるころの10月13日です。最初は入込が少なかったのですが、新聞の地方版やミニコミ誌に取り上げられてから地元の方々に足を運んでいただけるようになりました。

 開店当初、品揃えが一番の悩みでしたが、農業経営部会ネットワークの協力でメンバー自慢の野菜や果物が店頭に並び、お客様に喜んでいただきました。直売所という夢への一歩を踏み出し始めた高嶋さんですが、これから正念場です。

 「田園の夕焼け、小鳥のさえずり、こだわりの味など“五感で楽しめるお店”というコンセプトを出しながら、多くの方々に喜んでいただきたい」と、意気込みを語りました。

第2分科会 食を核とした地域ネットワークづくり

(パネリスト)羊蹄山麓味覚フェスタ実行委員長 三島喜吉氏/(社)全日本司厨士協会小樽支部支部長 三輪信平氏/後志支庁産業振興部農務課課長 中島隆宏氏
(コーディネーター)(株)吉川英昭農場社長 吉川英昭氏

 北海道ニセコ町では、11月に「羊蹄山麓味覚フェスタ」というイベントを開催しています。この分科会では、“食”を核に地域を元気にする連携について、実行委員長の三島喜吉氏(三島農場代表)、(社)全日本司厨士協会小樽支部支部長の三輪信平氏(トラットリア マルコポーロ 料理長)、後志支庁産業振興部農務課課長の中島隆宏さんをパネラーに、(株)吉川英昭農場社長の吉川英昭氏のコーディネートでパネルディスカッションを行いました。

 北海道後志地域は、かつてニシンの豊漁で栄えました。栄養分豊富な日本海や、蝦夷富士として知られる羊蹄山麓を有し、あらゆる野菜や果樹、海産物などに恵まれている食の宝庫です。味覚フェスタ誕生の経過は、2003年に料理人の集まりである(社)全日本司厨士協会と同友会しりべし・小樽支部農業経営部会との共催で、地域の食の魅力を広くアピールし、地元の食材を使った料理を味わっていただく「後志フードフェスティバル」を小樽市で開催したことにさかのぼります。これを契機に、仁木町で「しりべし収穫交歓会」が行われ、約4年前に「羊蹄山麓味覚フェスタ」としてニセコ町にも広がりました。

 同フェスタの最大の特徴は、30名程度の実行委員会に行政職員や民間で活動する方にも入っていただき、一緒に企画内容を練り上げている点にあります。

 実行委員会の事業の1つは、じゃがいも収穫時期の9月に行っている食育イベント「畑の宝さがし」です。昨年は8組のファミリーが参加し、収穫が終わったばかりの畑に入って土の中に残っている規格外の小いもを拾いました。それらを材料に、当日ゲスト参加した料理研究家がシチューなどをその場で作ってくださり、羊蹄山をのぞむ秋空の下で最高の贅沢を味わい、子どもたちも大喜びでした。

 そして、11月2日の「味覚フェスタ」では、地元食材を使用した「料理講習会」、食と農についての「シンポジウム」、地域の飲食店やホテル、農業高校や女性グループなど27の団体が数々の料理を振る舞う「味覚フェスタ」と続きます。ニセコ東山プリンスホテルのホールは600名の来場者と秋の味覚で埋め尽くされ、地域の豊かな食を堪能した一人ひとりから大満足の笑顔がこぼれます。

 パネルディスカッションでは、この取り組みによって行政、料理人、高校や食育団体等との人的ネットワークが形成され、日常的な情報交流が盛んになったこと、管内のホテルや飲食店では地域への意識が高まり、地元食材を使ったメニューが増えていることなどが強調されていました。

 また、同実行委員会は昨年「ホクレン夢大賞農業応援部門優秀賞」を、今年の2月末には「農林水産省生産局長賞」を受賞し、地域内外からますます注目を集めるまでに成長しました。

 最後に、三島実行委員長から「この取り組みをもっと各地に広め、北海道を元気にしたい!」との熱い思いが語られました。

第3分科会 生産現場からの発信 新発想と長期ビジョンで夢づくり・人づくり

(有)松家農園 社長 松家 源一氏(旭川支部農業部会長)

 道北の東川町で農業に携わって約40年という松家さん。以前から、農業経営はどんぶり勘定ではなく、企業的感覚で経営しなければとの思いが強く、1999年2月に法人化しました。同友会には2000年に入会し、異業種で学ぶことの大切さを実感しているお1人です。

 現在の松家さんを支えている原体験は、就農してから5年ほどたったある日、有機農法の指導者から「本物の食べ物とは何か」を問いかけられたことにあります。以後、生産物の価値を高める栽培方法を研究し、土づくりの大切さを肝に銘じて農業を営んで来ました。

 しかし、食は人間の「健康」と密接であるにもかかわらず、ファーストフードが急速に普及し、商業主義の波に乗って農業者には大量生産が要求されました。「果たしてこれでいいのか?」と疑問を持ち、付加価値の高い農産物を生産しましたが、安さ重視の中でなかなか売れない時代があったようです。

 ところがある日、農業雑誌を見ると、新芽を意味する「スプラウト」食品の紹介記事に目がとまりました。植物の種子(米や雑穀)は、生命誕生の瞬間(発芽)に成長に必要な栄養を自ら作り出したり、免疫力を備えます。種子に水分を含ませて新芽を0・5~1ミリ出した後、乾燥させて成長を止めることで眠っていた酵素が活性化し、ガンマー・アミノ酪酸などの栄養素が大幅に増えるそうです。それが血圧や中性脂肪の値を正常にし、神経を鎮静化する働きがあるとされています。

 この劇的な変化に驚きを隠せなかった松家さんは、すぐに長野県の開発会社を訪問。自社農園で栽培した玄米を発芽玄米に加工してもらい販売を始めました。

 ただ、価格がネックだったため、2002年に「東川スプラウト加工組合」を設立して発芽玄米の製造工場を稼働させ、低コストでの生産に取り組みました。その後は、パンや麺など数々の発芽加工食品の開発に取り組み、加工業者や道立食品加工研究センターなどとの連携も生まれています。

 最近では「発酵食品」に注目しているほか、ヘルシーで食べやすい自称3M(ミニ、マクロ、ミクロ)食品など“オンリーワン”の食品開発にも力を入れています。

 これからは、食の“産消協働”がますます求められます。零細・小規模だからできる“隙間”を埋めるべく、「志の高い消費者と一緒に農業を盛り上げるような取り組みを構想している」という秘策も紹介されました。

第4分科会 農家の共同店舗で地域ブランドを育てよう 「ふぁーまーずとかち」の取り組みから

(有)中薮農園 社長 中薮 俊秀氏(帯広支部、ふぁーまーずとかち前代表)

 「ふぁーまーずとかち」とは、農業経営部会員の有志14名が運営している共同店舗のことで、2004年9月からスタートしています。

 同年5月に、農経部会で中国・青島を訪れ、日本企業と取引をする冷凍野菜加工食品工場や野菜畑などを視察。工場内に運び込まれる大量の食品を“人海戦術”で加工し、日本人に合わせた味付けをし、機械で切ったように大きさを揃えるなど、日本企業からの高度な要求にこたえようとする現場を目の当たりにし、「ここまで徹底されているとは!」と大きな衝撃を覚えました。

 いくつかの工場や畑なども見学しましたが、「このままでは、いずれ十勝農業は国際化の波に呑み込まれてしまう!」という強い危機感を覚え、共同店舗づくりに拍車をかけました。

 帰国後、すぐに検討会議を開き、「どんな店にするか?」について意見交換を繰り返しました。そして、2005年9月20日、帯広市の商店街の空き店舗に念願の「ふぁーまーずとかち」をオープンしました。

 開店期間は、農産物を提供できる約2カ月間と決め、農家がそれぞれ農産物を持ち込んで販売する形態を採りました。ここでの“売り”は、採れたての新鮮さと、直送による安さです。1年目は、本州農家が台風で被害を受けたことが追い風となって、好調な滑り出しとなりました。

 そして、2年目。元魚屋さんの8坪ほどの店舗に移転し、店内をきれいにして売り子も雇い、1年目の勢いに乗って再スタートを切りました。ところが、出足は好調でしたが、近所には地元の大手スーパー2社が営業しており、売り場面積も半分にしたこともあり、値段の競争や来店数の少なさなどで売り上げは奮いませんでした。

 この時点で「もうやめようか」という話も出ましたが、コープ十勝から出店の誘いがあり、3年目は、野菜と魚コーナーの間に畳2枚くらいのスペースを借りることができました。

 営業している日は、ほとんどの食材が売り切れるという状態が続き、今では「もっと生産量を増やして欲しい」などの声が寄せられています。店からの評価も上がり、商品を冷蔵庫に保管してくれるなど、細かい対応もしてくれるようになりました。

 “地産地消”の流れの中で、十勝ブランド目当てに購入するリピーターや、「こんな食材も食べたい」というリクエストも増えています。店舗では、顔写真やアピールポイントなども添えて産地表示をし、お客様のあらゆる要望にこたえながら、充実した売り場をめざしています。

 中藪氏は「農産物や食べ方などの説明を加えたらもっと売れるはず。来年は作付計画づくりもしっかり行って備えたい」と話しています。

農業再生で地域経済振興を~全研で農業問題の分科会

 第38回中小企業問題全国研究集会(3月6~7日、宮城)の第15分科会「農業問題の根本はなにか、地域再生の視点から~地方経済と第1次産業」では、弘前大学農学生命科学部教授の神田健策氏の報告を受け、第1次産業に視点を置いた地域再生と地域連携について深めました。

 神田氏は、今の政治構造を考えるとき、「食料問題」「農業」「農村問題」という3つのキーワードで考える必要があるとし、食糧自給率が低下し、農業生産額も最盛期(1985年)と比べ3分の2に落ち込んでいること、農村では高齢者が地域の人口の半分以上を占める限界集落が増えており、今後消滅してしまうおそれのある自治体や集落が数千カ所あること、それに環境破壊の問題が密接に関連していることを指摘。そのうえで、「今日、地域経済、とりわけ農業的色彩の強い地域で自主・自立の経済発展をめざすとき、中小企業と第1次産業が果たしている役割を評価し、それらを地域の基幹産業として位置づけることがきわめて重要」と述べました。

「中小企業家しんぶん」 2008年 4月 5日号より