危機乗り越えるたび 経営体質を強化 (株)鳥越樹脂工業 社長 鳥越豊氏(愛知)

新幹線N700系に使用されるパネルを持つ鳥越社長

 中小企業が主役となり、日本経済を再生していく道を探ろうと始まった「業界直撃レポート」。3回目も、前回に引き続いて、愛知における自動車関連企業の取り組みを紹介します。

計画を見直す時間的余裕もない

 アメリカ経済の混乱から、あっという間に愛知県下の自動車関連3次以下の下請企業にもその影響が広がりました。

 (株)鳥越樹脂工業社長の鳥越豊氏(愛知同友会会員)は、「8月頃からトヨタショックの兆しはあった。今回の市場変化は、過去に例をみない展開」「大型車は厳しいが、日本車(特に小型車)は大丈夫であろうと思っていたが、甘かった」と語ります。

 過去、バブル崩壊後にも、急速な生産拠点の海外移転、自動車業界特有の下請構造の再編といった危機的状況はありましたが、当時は、メーカーの系列を出て、自社の得意技や強みを活(い)かせば、まだまだ仕事がある状況でした。

 しかし今回は、日本の自動車メーカーも世界的な景気後退の波にのみ込まれ、総崩れの様相を見せ始めました。「計画を見直す時間的余裕がないほど大手自動車メーカーの減産の動きは速く」(自動車関係者)、下請会社にも今後の生産計画が伝わらない状況が生まれています。

キーワードは環境と安全

社内に貼り出された今季のスローガン

 鳥越樹脂工業では、従来の自動車部品の受注が、昨年同月比で9月は1割減、10月はさらに2割減、11月には3割減となりました。製品のほぼ100%が国内向けの同社でも、容赦なく減産の影響を受けました。

 鳥越氏は、経営計画を2月までに練り直し、3月からの再スタートに照準を合わせることが必要だと言います。4月頃から環境・安全をキーワードに自動車業界は大きく動き出す、と先を読んでいるからです。

 ただし、順調に回復したとしても、2006年から2007年にかけての生産ピーク時の2割減ほどと見込んだ上での再構築です。「トヨタがこのまま下向きな選択をするとは考えられません。今後は、力の入れ方、入れどころが変化するなど、大規模な再編の可能性があり、新たな展開についていくことができればチャンスになる」と鳥越氏は予測します。

2度の経営危機を乗り越えて

 鳥越樹脂工業は過去、2度の大きな危機を乗り越えてきました。創業から10年目、95%の売上のある取引先の仕事が一気になくなったのです。

 1社だけに依存してきた取引構造を見直し、社長自らの営業活動で、乗り切ることができました。現在では、取引先は約70社に広がり、月平均35社と取引を行っています。

 2度目の危機は1998年頃から始まる試作レスの流れです。当時、自動車業界にほぼ依存した形で試作をメインに展開していましたが、CADが浸透し、試作品がなくてもバーチャルなテストが行えるようになりました。

 1業界だけに絞り込むことも危険だと分かり、自動車オプションパーツの設計・製造、また、樹脂製品をキーワードにさまざまな業界への挑戦を試み、自動車業界と異分野の両面で事業領域を広めてきたのです。

 2度の危機を乗り越える中、経営状態が非常に苦しい時期もありましたが、鳥越氏は「人員削減と給与の引き下げだけはしなかった」と振り返ります。

設計力にかけた想い

 鳥越樹脂工業の売上比率は、自動車用オプションパーツ3割、自動車向け試作2・5割、健康・美容機器の企画製造2割、その他2・5割と4つの事業を柱に、さらなる多角化をめざしています。

 最大の強みは、設計力です。そこには「将来のモノづくりは設計からやらないとダメだ」と感じた鳥越氏の先見性がありました。1993年、当時では珍しい3次元CADをいち早く導入し、コア技術へと成長させてきました。

 設計力の向上という戦略が奏功し、業界を越えての高精密なモノづくりを可能にし、現在も事業領域を拡大させています。

経験から得たノウハウを生かして

 世界的な金融・経済危機により、景気悪化が鮮明となり、愛知の主力産業である自動車業界が全体的に落ち込んでいるため、経営状況は厳しさを増しています。しかし同社が経営に比較的安定感をもたらした要因は、ここ5~6年のバブル景気を凌ぐといわれた好況にあって、参入の難しいニッチ分野にこだわり続けてきた社長の考え方にあり、危機を乗り越えるたびに経営体質を強化してきました。

 再スタートを切るうえで、「仕事をいただけなくても、今まで以上に既存の取引先のケア(お客様を大切にする)をする」という緊急方針を12月から打ち出しました。

 苦しいからといって、新規受注に時間を割くよりも、既存のお客様と一緒になって合理化を考え、現場の情報や今後の展開をいかにキャッチできるかが、今後を左右するといいます。

 積極的に同友会で学び、自立型企業(経営理念が確立し、自社独自の得意技を持った企業)づくりに邁進してきた同社の展開に注目していきたいと思います。

愛知同友会事務局 下脇真実/伊藤沙弥香

会社概要

創業 1984年1月
資本金 1500万円
年商 12億円
社員数 72名(内正規47名)
業種 自動車業・工業用樹脂部品、健康・美容機器の設計製造
所在地 愛知県一宮市平島
TEL 0586-77-9191
http://www.torigoejyushi.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2009年 1月 15日号より