明日の道標は足元にある

元日の新聞各紙の社説を読んで

 今年は独特の緊張感が漂うなかで年明けを迎えました。「年は明けたが、世界不況のまっただなかである。年賀を言うのもはばかられるような、厳しい正月だ」(毎日新聞)からです。各紙の年頭社説のすべてが、「これほど不透明で厳しい新年を、私たちは近年経験したことがない」(西日本新聞)という認識から論を起こしています。

 続けて、その原因の1つが新自由主義にあるというのも共通した論調。「もうけがすべての金融資本主義と、それを支え、むやみに規制を緩めてきた新自由主義政策の行き詰まり」(北海道新聞)。「人間や社会の調和よりも、利益をかせぎ出す市場そのものを大事にするシステムの1つの帰結である」(朝日新聞)等。

 もっとも、「新自由主義の崩落」(読売新聞)とタイトルを打っているものの、現状を嘆き、いきどおるだけで、何が背景にあり、なぜ崩落したのかについて全く触れない論旨のお粗末な社説も。まるで自然災害のような認識です。

 また、米国発の金融・経済危機の発端となったサブプライム問題・証券化問題を「そんな詐欺まがいの取引を見逃したのは金融当局のミス」(日本経済新聞)との表現には驚きました。「詐欺まがいの取引」が金融市場を席巻したのはなぜなのか。単なるミス程度の話ではないはずです。日本を代表すると言われている新聞社の時代認識が問われています。

 それでは、新年の希望を何に見出すのか。目立ったキーワードは、「オバマ」と「人間」、そして「足元」。

 今月20日に米国大統領に就任するオバマ氏に期待が膨らむのも無理からぬところですが、日本でもその政策潮流を呼び込もうという主張が目立ちました。「日本版『緑のニューディール』を」「この際、2兆円の定額給付金を中止しそれを太陽光発電に回したらどうか。学校には全国くまなく設置しよう」(毎日新聞)などの主張は明快です。また、「オバマ氏は、社会の底上げが必要だと、中下層を重視する政策を採ろうとしていることは注目してよい」(北海道新聞)との重要な指摘もあります。

 また、「人間」を表題に掲げた社説では、「人間社会を再構築しよう」とのタイトルで、「人間社会は弱者が救われるだけにとどまらず、ふつうの人々が安心し恩恵を受ける社会でなければなりません。人間が部品扱いされる労働システムは変えられるべきです」(中日新聞・東京新聞)と力説します。「国民が望んでいるのは、小手先の雇用や景気対策を超えた大胆なビジョンと、それを実行する政治の力だ」としたうえで、「人間主役に大きな絵を」(朝日新聞)描くことを提起する社説も印象に残りました。

 「足元」をキーワードにした社説では、「不信の広がりに歯止めをかけ、信頼を再構築する。分断や孤立ではなく共生をめざす。独断でなく共感、協力にかける。まずは、私たちの足元から、そうした価値観や規範を大切にして、人と人、人とモノ、人と地域をつなぎ直したい」(神戸新聞)という見識が光ります。

 最後に、2月の全国研究集会の開催地、熊本の地元紙「熊本日日新聞」は、「先を見通す力は、自分の足元をどれだけよく知っているかにもよる」として、熊本の幕末の思想家、横井小楠を引用。君主ではなく民が富むことを富国とし、そのためには君主の交代も是認した小楠の富国論を紹介しています。

 「未知の時代を前に小楠が格闘した『富国』という国家目標は、いつの時代も誰のための『富国』かを問い続けている。相互依存を強めていく国際社会。そんな時代の『富国』に、大きな構想力で一歩を踏み出したいと思う。ヒントは足元にある」。

 熊本では全研での学びに加え、小楠の事績に触れ、自らの構想力を磨いてみませんか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 1月 15日号より