中小企業家の見地から考える「新しい資本主義」

 ウクライナ情勢の影響もあり、日本の景気動向は先行き不透明感が高まっています。ただ、以前から日本経済は他の先進国に比べてその停滞が指摘されていました。

 停滞が続く日本経済に対して政府内でも「新しい資本主義」の論議が始まっています。「産業の稼ぐ力・国際競争力の低迷、生産性・潜在成長率の低さ、中間層の伸び悩み(所得・消費)」などが課題として指摘され、「成長と分配の好循環」をめざして議論が行われています。

 実際に多くの指標が日本経済の停滞をはっきりと示しています。

・実質GDPの推移を2000年と2019年で比較すると、アメリカ45%増、イギリス38%増に対し、日本は15%増。
・1人あたり実質賃金は、1991年から2019年にかけてイギリスは1.48倍、アメリカは1.41倍、フランスとドイツは1.34倍に対して、日本は1.05倍。
・家計消費は、1990年から2019年にかけてアメリカは2.16倍、イギリスは1.90倍、フランスは1.55倍、ドイツは1.42倍に対して、日本は1.3倍。

 各指標は、他の先進諸国と比べて日本経済が停滞していることを示しています。

 「新しい資本主義」をめざす動きは世界的な流れでもあります。2018年、アメリカ主要企業の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルは、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言。2000年1月に開かれた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では、「資本主義の再定義」が主題となり、社会の分断や環境問題に向き合う「ステークホルダー資本主義」を指針に掲げました。

 さらには、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」や国際税制の新たなルールづくり、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の動きなども、ある意味では「新しい資本主義」をめざす流れのひとつと言えるかもしれません。

 それでは、日本での「新しい資本主義」はどのようなビジョンを描けばよいのでしょうか。中同協は2019年に「中小企業家の見地から展望する日本経済ビジョン」を発表し、日本経済の7つの発展方向を提起しました。それは要約すると以下のとおりです。

(1)多様な産業の存在と中小企業が発展の源泉となる日本経済を築こう。
(2)持続可能な経済社会づくりのための内需主導型経済をつくろう。
(3)地域内循環を高め、地域資源を生かした地域経済の自立化をめざそう。
(4)エネルギーシフトで持続可能な社会をめざそう。
(5)誰もが人間らしく学び、働き、生きることができる働く環境をつくろう。
(6)大企業の社会的役割・責任が十分に発揮される社会を築こう。
(7)成熟社会とグローバル化に対応する新しい仕事づくり・産業づくりを進めよう。

 このような中小企業や地域を重視した方向は、日本経済の課題解決や「新しい資本主義」につながるものであり、世界の「新しい資本主義」をめざす流れとも合致するものと言えます。中小企業家の見地から新しい日本の経済・社会のあり方を大きいに論議していきましょう。(KS)

「中小企業家しんぶん」 2022年 4月 15日号より