食を通して農村活性化事業
当社は「From Farm ToTable(農園から食卓まで)」をビジネスコンセプトにしています。
2008年から、食を通した農村活性化事業として、食の生産現場に近づいていく活動を始めました。まず耕作放棄地だった土地を社員みんなで開墾し、隣の竹林に農園レストランを建てました。広島市のはずれで、何のビジネスもない地域でしたから当初は地元の方からも「つぶすから止めた方がよい」とアドバイスを頂いたものです。それでも、もし店がつぶれたら、地域に集会所として寄付してもいいという覚悟で始めました。野中の一軒家のスパゲティ専門店です。
その地域では無農薬のバジルが作られていましたが、収穫後4時間くらいで変色してしまうので廃棄処分が多く、結果的に原材料費が高くついていました。これを私たちは全量を買い取って、工場へ持って帰り、ドレッシングにしました。この方法で4時間の賞味期限を半年に延ばすことができました。フードロスの解決になり、付加価値をつけることにもなっています。
そして農家の人たちの「こんな山の中だけど、自分たちの産直市があっていろんな人たちが来てくれたらうれしいんだけどなあ」という声に応え、2016年に産直市や飲食スペースを併設した施設を作りました。産直市では納入される作物を全量の買い取りをし、隣接するバイキングレストランで、形の悪いモノ、小さすぎるモノも料理するようにしています。
未来に希望が持てる地域づくり
わが社の10年ビジョンでは、“地域になくてはならない会社”“いちばん最初に電話がかかってくる会社”を掲げています。また、これまでのウエディングプランナーの延長線上のパーティープランナーという新しい仕事も手がけてみたいと考えています。働きがいのある企業にしたいという強い思いをビジョンに盛り込んであります。
コロナでは当社も大打撃を受けました。パーティーは95%ダウン、結婚式は100%キャンセルです。街のレストランは接待専用でしたので、売上は40%下がりました。さまざまな公的援助もいただきましたが、2020年度は、経常赤字が4700万円という大変なことになりました。
そんな中“わが社が倒産するとしたらいつなのか”ということをみんなで研修したところ、2年半後という数字が出ました。すると社員からは「すぐつぶれるかと思ってたけど、そんなに期間があるのか」と笑顔が出て、「2年半のうちに新しい事業をつくろう」という方向を確認することができました。そして、未来に希望が持てる地域づくりそのものを仕事にできないだろうか、ということで“食を通した地域活性化業”と事業定義を明確にしました。
地域で楽しい仕事にもつけるし、都会に行くのも自由、若者にそういう広い選択肢がある地域をつくろうということです。おかげさまで2020年には“地域未来牽引企業”に選定されました。
また、行政から、島根県江津市にある有福温泉の再生事業へのお誘いを受けました。20軒あった旅館は17軒が倒産・廃業、飲食店は全滅、土産物屋もなくなりました。3軒の宿屋以外の事業所はなく、400人近くあった人口は80人に、住民の平均年齢は75歳という地域です。
ここで“地域まるごとホテル事業”を始めました。とにかく関係人口、交流人口を増やそうということで、土産物屋を改装してレストランをつくりました。“泊食分離”で、宿屋は泊まるだけ、朝食夕食はこのレストランに全員集っていただきます。こうして温泉宿の固定費を下げ、なんとか持続できる状態をつくっていこうとしています。
私たちがめざしているのは、やりがいがあり、未来に希望が持てるふるさとづくりです。「中小企業なんかには新卒の学生など来ない」という声を聞きますが、やりがいがあり、10年後の未来に希望が持てれば、若者は来ます。
私たち経営者自身が自分たちのやりがいや誇りを語り、10年後の未来像を描ければ、いいふるさとが必ず再生できると念じています。
「中小企業家しんぶん」 2022年 7月 15日号より