【2022年7~9月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査より】原材料・仕入品の価格上昇、エネルギーコスト上昇の影響と価格転嫁の現状

過半数の企業で「価格転嫁達成率3割未満」~調達品・仕入品の価格、エネルギーコスト上昇の影響は広範囲におよぶ

立教大学経済学部 准教授 菊池 航氏(中同協企業環境研究センター委員)

新型コロナウイルス感染症、ロシアによるウクライナ侵攻、急速な円安などの影響によって、中小企業は調達難・調達価格の上昇に直面しています。2022年1~3月期の同友会景況調査(DOR)のオプション調査によって、調達難や調達価格の上昇の影響がなかった同友会会員企業はわずか8%であったことが分かっています(『中小企業家しんぶん』2022年5月25日、4面)。

こうした状況のなかで注目されているのが、価格転嫁の実態です。中小企業庁や公正取引委員会をはじめとして、さまざまな組織が価格転嫁の実態の解明を試みています。ここでは、2022年7~9月期に実施した価格転嫁に関するオプション調査から、同友会会員企業の価格転嫁の実態を見ていきます。

調達品・仕入品の価格上昇の影響は広範囲に及ぶ

まず、資材・部品などの原材料や仕入品の価格が、直近1年間でどの程度上昇したのかを確認します(図1)。全体の傾向は、1割未満は約21%、1割以上2割未満程度は約45%、2割以上3割未満程度は約24%、3割以上4割未満程度は約7%、4割以上5割未満程度は約2%、5割以上は約2%でした。約8割の企業が直近1年間で1割以上の価格上昇に直面していることから、大部分の企業が影響を受けたと言えます。4業種別(建設業、製造業、流通・商業、サービス業)にみると、流通・商業・サービス業と比較して、製造業・建設業において影響を受けた企業が多かったことが分かります。

次に、エネルギーコストが、直近1年間でどの程度上昇したのかを確認します(図2)。全体の傾向は、1割未満は約26%、1割以上2割未満程度は約43%、2割以上3割未満程度は約22%、3割以上4割未満程度は約6%、4割以上5割未満程度は約2%、5割以上は約2%でした。資材・部品などの原材料や仕入品の価格と同様の傾向を示しており、大部分の企業がエネルギーコストの上昇に直面しています。資材・部品などの原材料や仕入品、エネルギーコストの両方において、1割以上2割未満程度の上昇に直面している企業が多く、最も影響を受けているのは製造業でした。

最大の対応策としての価格転嫁

調達・仕入価格上昇や物価上昇にどのように対応してきたのでしょうか(図3)。上位5つの対策は、「販売価格を上げ価格転嫁を図った」、「調達・仕入先をかえた」、「調達・仕入品の在庫を増やした」、「調達・仕入品をかえた」、「調達・仕入コスト以外のコストを下げた」でした。「販売価格を上げ価格転嫁を図った」という回答が突出して多く、価格転嫁が最大の対応策でした。価格転嫁の次に多かった対策を4業種別にみると、建設業では「調達・仕入コスト以外のコストを下げた」、製造業と流通・商業では「調達・仕入品の在庫を増やした」、サービス業では「調達・仕入品をかえた」というものでした。6番目に多かった「対応の必要はなかった」という回答は、サービス業では約16%に及びましたが、製造業は約2%にとどまっており、業種によって緊急度の高さが異なっていることがうかがえます。

過半数の企業の価格転嫁達成率は3割未満

それでは、直近1年間の調達・仕入価格上昇のうち、どの程度価格転嫁することができたのでしょうか(図4)。全体の傾向としては、「1割未満」と回答した企業の割合は約37%であり、「1割以上3割未満程度」の約26%を含めると、6割を超える企業において価格転嫁の達成率は3割未満にとどまりました。価格上昇分のすべてを価格転嫁することに実現した企業は、わずか5%程度でした。4業種別にみるとサービス業において「1割未満」と回答した企業の割合が多いことが注目されます。サービス業はとりわけ価格転嫁が困難であることは他の調査でも指摘されており、円滑な価格転嫁を実現するための施策が求められます。

規模が大きくなるほど価格転嫁の達成率は低い傾向

続いて、価格転嫁の達成率を企業規模別に確認してみましょう(図5)。10割あるいは6割~9割の価格転嫁の達成率を企業規模別にみると、5人未満は約29%、5人以上10人未満は約32%、10人以上20人未満は約24%、20人以上50人未満は約21%、50人以上100人未満は約18%、100人以上は約18%でした。また、1割未満しか価格転嫁を達成できなかった割合が最も高かったのは、100人以上の企業でした。つまり、規模が大きくなるほど、価格転嫁の達成率が低いという傾向を見てとることができます。規模が大きくなるほど取引相手に対する交渉力が高まるとすれば、規模が大きくなるほど価格転嫁の達成率が高くなるとも考えられますが、実態はそれとは異なる様相を呈しているようです。この点については、確かな根拠はありませんが、規模が大きくなるほど直接の取引相手が大企業になるために交渉力が低くなること、規模が大きくなるほど取引相手にとって調達量の多い取引先になるために交渉力が低くなることが考えられます。

価格転嫁をめぐる懸念

上述した通り、調達品・仕入品の価格が上昇するなかで、価格転嫁は重要な経営課題になっています。図6から、価格転嫁において懸念されていることを確認します。上位5つの懸念は、「調達・仕入価格上昇に価格転嫁が追い付かない」、「販売数量(取引数量)が減るリスク」、「賃上げ分まで価格転嫁が追い付かない」、「価格転嫁しても利益が確保できない」、「取引がなくなるリスク」でした。「調達・仕入価格上昇に価格転嫁が追い付かない」以外の回答としては、4業種別にみると、建設業・サービス業では「賃上げ分まで価格転嫁が追い付かない」、製造業と流通・商業では「販売数量(取引数量)が減るリスク」の回答率が高い傾向にありました。サービス業は、4業種のなかで、「特に懸念したことはない」という回答率が最も高い一方で、「価格転嫁の提案ができない」という回答率も最も高く、同じサービス業というくくりのなかでも、企業によってその影響の受け方は多様であることがうかがえます。

今回のオプション調査からは、調達品・仕入品の価格上昇の影響は広く影響を与えており、そうした状況のなかで企業は価格転嫁に尽力しているものの、十分には価格転嫁を達成できていないことが分かりました。調達コストの上昇に対してさまざまな経営努力が求められることはもちろんですが、一方で、安心して価格を転嫁できる経営環境が整備されることも重要です。価格転嫁は個々の中小企業の自助努力だけでは解決できない問題であるため、現政権によって価格転嫁の実現に向けた実効性のある施策がとられることを期待します。

「中小企業家しんぶん」 2022年 11月 15日号より