地域の女性全員が経営者 一番の投資は自分たちの時間

【エネルギーシフト(ヴェンデ)岩手の挑戦】5

 岩手同友会が行った第4回欧州視察についてのシリーズ第5回を紹介します。

「地消地産」に付加価値を付けて「外貨」を稼ぐ

 ライン川から500メートルほどの肥沃な土壌、オッテンハイム村に300年、この地で農業を営むライターホース家があります。ライター家は、1960年ごろまでは穀物、乳牛など何でも生産する典型的な農家でした。1970年代に肉牛生産に特化し、現在ではソーラーパネル、バイオガス事業、牛の餌とバイオガスのサイレージ原料としての穀物、人間が食べるスイートコーンを粉にしたものを有機栽培で生産しています。

 ライター家の広い敷地の一角に、1840年に建てられたれんが小屋があります。ここでお茶用のハーブを生産、ブレンドして販売するクロイターマニュファクチャー社があります。17名の女性それぞれが自分のハーブ園でハーブを栽培、ハーブカウンセラー、デザイナーなどの職業を持ち、全員が経営者としての位置づけです。自分たちで研究し、種を選び育てあげ、成分を分析し、独自の商品をつくり上げました。パッケージや販売方法も自ら開発したものです。

手間と工夫という 付加価値を付ける

 ハーブ園は標高150メートルから900メートルまで分散していて、その分さまざまな種類、採れる時期が違っており、約60種類ものハーブが年間を通して生産されます。特長は花も葉も粉々にせず、そのままの鮮やかな色具合、形を生かした乾燥をすることです。17カ所から1カ所に集められたハーブは、効能別のレシピでブレンドされます。それぞれにテーマがあり、「頭が明瞭になる」「気持ちが穏やか」「花が咲き乱れる」などのブレンドテーマが付いています。お湯を入れるとコップ一杯に鮮やかな黄色や橙色の花が広がり、花畑のような香りに包まれます。

 手摘みだからこそ実現できるこの商品は、高い付加価値を生み出します。「商品の価値は自分たちでつくる。資金は極力かけず、一番の投資は自分たちの時間」とのメッセージを強く感じます。

地域内の電力を牛の糞尿を原料に

 その脇にある全長160メートルもある牛舎からは、毎日大量の糞尿が出されます。トウモロコシのサイレージと全自動で糞尿が混ぜ合わされ発酵容器に入り、55度程度で発酵、800キロワットのエンジンでバイオガス発電し、もう1カ所の農家と合わせれば、オッテンハイムの全戸の発電量を賄うことができます。

 また女性の機械整備マイスターを専属雇用しており、借り入れをして購入した高価な農業機械やバイオガス発電の整備を任せています。

新たなエネルギーシフトの形

 ハーブ工場のリーダーでもあるこの家の女将さんは、「家長からはこんなに小さな畑で何ができるか、と言われた。息子たちはこんなの機械でやれば早いのに、と言っていた。でもインターネットで注文が続くのを見て、何も言わず手伝うようになった」

 自分たちで勉強し、自分たちが工夫して地域で生み出したもの、まさに“地消地産”したものに付加価値をプラスし、域内を循環させる。そして「外貨」まで稼いでいく。

 「全員が経営者」と逞(たくま)しく話す姿に、個々が連携し付加価値を生み出すエネルギーシフトの新たな形を見たように感じました。

「中小企業家しんぶん」 2018年 4月 5日号より