感動を起こす農業~年間6万人が訪れるファームレストラン (有)仲野農園 代表取締役 仲野 満氏【北海道】

人口1万1000人の長沼町にある「ファームレストラン・ハーベスト」は北海道の農園レストランの草分けで、年間6万人が来店する人気店です。オーナーの仲野満氏は、北海道で5代続くリンゴ農家の4代目。45ヘクタールの農地で、リンゴのほか、ブルーベリーやプルーンなどの果樹と、小麦、大豆、ジャガイモ、カボチャなどを栽培しています。

よい素材と働く環境の大切さを実感

「ハーベスト」がオープンしたのは1995年。『ログハウスの作り方』という本を読んで興味を持った仲野氏は、友人たちと4年かけてログハウスを手づくりしオープンさせました。当初お客様は1日2、3人程度でしたが、農業を一生懸命やっていれば収入に困ることはないと、危機感は全くありませんでした。

2年後に同友会へ入ります。転機となったのは、ある方からアップルパイがおいしくないと指摘されたことで、札幌の老舗洋菓子店を同友会に紹介されて勉強に行きました。ハーベストでは、原材料費を極力おさえてつくっていましたが、その店は素材を吟味し、また、従業員の方たちが快適な環境の中で仕事をしていました。素材に対する意識が変わり、よい素材と、それをつくる人たちの働く環境が大切だと痛感しました。お客様に認められる価値を創出するには、農家レストランの魅力を生かした感動を与える店づくりが必要と考えたのです。

さらに隣接する敷地には、スイーツ工房と物販スペースを併設したファームショップ「ハーベストファーム」を開店しました。自家製アップルパイやパン、焼き菓子、りんごジュース、ジャムなどのオリジナル商品に加えて、北海道各地の生産者仲間が作る加工品や雑貨も揃えています。

以前は余ったリンゴを本州の飲料メーカーへ、木箱ひとつ500円ほどで出荷していました。ところがこれを自社ブランドのジュースや手作りのアップルパイに加工して販売すると10倍の5000円になり、さらにレストランで提供すると2万円にもなります。そこで、規模拡大や多店舗化ではなく、商品の高付加価値化に注力してきました。原材料を大都市へ供給する“下請け型農業”から、メーカー型の農業経営へと移行してきたのです。

地域の人が力を合わせ地域振興につながる農業へ

栽培するリンゴの7割は生食用ですが、北海道のリンゴ生産量はこの50年で10分の1に縮小し、今後も需要は減少する見込みです。現在は将来の需要を予測しながら、果樹栽培に占める加工用と生食用のバランスを見極めているところです。加工用品種の栽培を増やすとすれば、お客様が求めるものを把握したうえで、ブランディング戦略と販路拡大、加工技術の向上など潜在的な課題が少なくありません。

ハーベストでは地元の食材を使い、地元の人たちを雇用しています。そして、全国からお客様が訪れてお金を使ってくださり、それが地域を豊かにしています。地域の人たちが力を合わせて地域振興につながる産業を作る、農業もその大きな可能性を持っています。仲野氏は「地域の若手後継者たちが『こんな農業もある』と可能性を感じ、地域に人が残る一助になれば」との思いを持ち、農業で地域を支え、地域全体で生き残る農業の必要性を発信し続けています。

会社概要

設立:1995年
従業員数:社員5人、パート15人
資本金:300万円
事業内容:農産物の生産、加工品販売、ファームレストラン
URL:http://n-harvest.net/
農場指針:農業、農村の価値を自覚し、農業をベースとした生産活動により地域を活性化し、人々に喜びと感動を与え続ける。

「中小企業家しんぶん」 2018年 10月 5日号より