【シリーズ 東日本大震災から8年】(3) 新しい価値観で次世代の経済の形を(株)北洋舎クリーニング代表取締役 高橋 美加子氏(福島)

 8年前の3・11は地震や津波の直接被害から原子力災害、風評被害まで多岐にわたり、中でも原子力災害で失われた国土は、広大です。前号に引き続き、福島県南相馬市で復興へ向けた取り組みをすすめている高橋美加子氏のエッセイを掲載します。

 今、福島県の中小企業は、ある意味、覚悟を要求される時期にきています。自社の今後の展開についてのビジョンを求められています。自社の拠って立つ地域の経済の見通しをどう見るか、それぞれの業種でさまざまな判断を下さなければならない時期にきています。

 特に原発事故の影響をまともに受けた相双地区では、国主導で大規模な放射性物質の除染がなされ、浪江町や富岡町など、福島第1原子力発電所から半径5キロメートル圏外までは次々と町の再開が進められています。お膝元の双葉町も再会が検討されています。

 国は、一刻も早く原発事故からの復興を世界に示すべく多額の予算投入という形で市町村に地域の復活を迫っています。そのパターンは、住民が戻る戻らないにかかわらず、生活インフラ整備として始めに仮設商店街がつくられ、次に小中学校や保育所、幼稚園が再開されるという順番で、町を復活させるためにさまざまな補助金事業が行われています。

 中小企業は、地域活性化の源泉である経済活動の担い手です。ある意味、経済という地域インフラの1つですから行政と企業間の協力が必要不可欠ですが、国主導で下される補助金には現状の地域の状態とのギャップがあり、ここにきて借入金の返済という形で、経営を圧迫し始めています。失った自社の建物、設備を再建するために多額の補助金を使ってした設備投資が、今、経営の大きな負担となっている事業所が出てきはじめています。

 しかし、相双地区では、震災後入会した若い経営者たちが、確実に会社を動かし始めています。特に、経営指針塾でがっちりと指針づくりに取り組んだ2人の会員の成長は目覚ましいものがあります。彼らにとって指針塾は経営者としての自分の覚悟を固める重要な学びの場になったのです。

 どん底だから、どん欲に学びを自分のものとして実践している彼らの姿から、新しい価値観で次世代の経済の形をつくっていくという確実な予感を感じています。

「中小企業家しんぶん」 2019年 3月 25日号より