【寄稿】もうひとつの同友会運動 中小企業家劇団チームKITAYAMA

 東京同友会有志による「中小企業家劇団チームKITAYAMA」が10回目の公演で幕を引くこととなり、2月23日には感謝の会が行われました。脚本を担当した池田大氏の寄稿を紹介します。

 2007年の東京経営研究集会で公演した芝居がきっかけで、2008年に「中小企業家劇団チームKITAYAMA」が発足しました。この時、リーマンショックで世界的金融危機を背景に中小企業にも景気後退がはじまったころです。2009年の立正大学石橋湛山記念講堂にて旗揚げ公演を皮切りに、2018年に10回目の最終公演で幕を引くこととなりました。

 何度かのお誘いを断りきれず、私は2012年4回目から参加しました。その年の方針を決めるミーティングで、はずみで脚本の担当に手を上げてしまいました。これが私の座付き作家なるきっかけです。役者より楽な道を選んだつもりでした。

 この劇団は、「中小企業の今を発信する」との目的で結成され、「明日はうちもいい会社」というテーマを掲げています。10年続けることも共有した目標です。出演者の趣味や娯楽で、組織されたものではありません。そのことは芝居を作り上げていく過程で、すぐに気づかされます。毎年、芝居のテーマや内容を決める際、その年問題になっている事や経営の課題を出し合い、討議してから、脚本づくりに入ります。言うまでもなく、テーマの中心は「中小企業経営」です。

 中小企業問題は多種多様です。社会システムや大企業との関係、金融問題やAIなどの技術革新。ブラック企業や高齢者・障碍者など労働問題など、大小に関わらず問題課題があるはずです。それらの問題の先頭になり立ち向かうのが、中小企業の経営者です。多くの壁を乗り越え、魅力ある仕事や仲間をつくり、働く楽しさや面白さを創造し、多様な価観を提供する。中小企業の経営者の本懐です。これは劇団の経営者たちの共通の思いでもあります。いい芝居づくりは、いい経営づくりでもありました。そこを模索したおかげで、参加した経営者の仲間の殆どが10年間も続けることができたと思っています。

 10年間には、いろいろなことがありました。地域関係者(大学、行政、他団体など)の支援があり、毎年ケーブルテレビでの放映。毎年楽しみに見に来てくれる友人や家族、お客様は、延べ6000人近くになります。

 また一方、劇団員のそれぞれにいろいろな事情も起こります。親の介護や大病にかかる者。肉親との別れなど。個々に事情を抱えながらも続けてきました。目的を「仲間」と共有できたからになりません。演劇活動を通じ「いい会社づくり」は、「いい経営者になり」「いい経営環境をつくる」ことからなることも確認できました。さらに、同友会の3つの目的に加え「いい仲間づくり」も必要です。同友会で言えば「増強」でしょうか。ただ人数を増やすだけでなく、しっかりとした関係づくりです。わが中小企業家劇団の芝居には、もう1つの「同友会運動」があったと信じています。

 劇団活動を終了するにあたり、『明日を演じた中小企業家たち―産学連携10年の軌跡―』という記念誌を発行し、各同友会事務局にも謹呈しました。東京同友会会員有志による「中小企業の今を劇で発信する」という試みが、同友会運動の1つの形と参考になれば幸いです。記念誌についての問い合わせは池田(TEL03―3762―0721)までお願いします。

(株)文典堂 代表取締役 池田 大(東京)

中小企業家劇団チームKITAYAMAの10年間の歴史をまとめた書籍『明日を演じた中小企業家たちー産学連携10年の軌跡ー』。B5版、発行・(株)文典堂、定価1000円+税。

「中小企業家しんぶん」 2019年 4月 5日号より