経営指針に人材育成を位置づけることの大事さが浮き彫りに!経営指針の作成と実践の成果について 立教大学名誉教授 菊地 進氏

【同友会景況調査(DOR)2019年1~3月期オプション調査の結果から】

 『同友会景況調査(DOR)』は、1990年の開始以来、3つの目的(よい会社をつくろう、よい経営者になろう、よい経営環境をつくろう)の実現をめざす同友会企業の経営、取り組みを追ってきました。

 企業づくりに関しては、経営指針の作成と実践の成果について、2000年、2007年、2012年、2016年にオプション調査を行い、2019年1~3月期においてもこの点を調査項目に加えました。質問の選択肢を少しずつ変化させてきており、過去の結果と単純に比較はできませんが、経営指針の作成状況やその成果を聞くとともに、今回はそこから一歩進めて、指針の内容を問うこととなりました。

 第51回定時総会議案では、企業づくりの課題として、「労使見解」の学びを深め、人を生かす経営の総合実践が提唱されています。経営指針を社員と共有し、計画に沿って労働環境も整備しながら仕事をすすめ、「そのなかで人材採用・育成を行い、社長も社員も共に育ちあう社風をつくることで、自覚と誇りに満ちた社員が育ち、付加価値の高い仕事をしていく」、これら一連の企業内での取り組みを「人を生かす経営」の総合実践と定義しています(第1章第一節2(1))。

 これまでの運動の成果を踏まえこうした方向が打ち出されているわけですが、そうであるとすると、経営指針、計画の中に、そうした面での位置づけが明確になされる必要があります。そこで、今回のオプション調査ではこの点を問う設問が組み入れられました。

会内で進む経営指針の策定

 まず、経営指針の策定ですが、図1は、経営理念、ビジョン、中長期計画、単年度計画それぞれについて策定状況を聞いた結果です。いずれも策定済みがこれまでになく多くなり、経営理念は92.8%、ビジョンは77.7%、中長期方針は74.7%、単年度計画は81.3%となっています。DORの中での結果ですから、同友会全体ではその割合は違ってくると思いますが、経営指針作成の必要性は多くの会員の方に受け止められてきている様子が伝わってきます。

経営指針実践の採算面での成果

 まず、経営指針の策定ですが、図1は、経営理念、ビジョン、中長期計画、単年度計画それぞれについて策定状況を聞いた結果です。いずれも策定済みがこれまでになく多くなり、経営理念は92.8%、ビジョンは77.7%、中長期方針は74.7%、単年度計画は81.3%となっています。DORの中での結果ですから、同友会全体ではその割合は違ってくると思いますが、経営指針作成の必要性は多くの会員の方に受け止められてきている様子が伝わってきます。

 さて、冒頭で述べましたが、今回のオプション調査では、人材育成を経営指針に位置づけているかを問う設問が設けられました。経営指針に「社員の教育・研修を位置づけていますか」、「人事計画を位置づけていますか」、「採用計画を位置づけていますか」を問い、「はい」、「いいえ」、「どちらでもない」で答えていただきました。その結果をまとめたものが、図3です。

 教育・研修については、63.3%が「はい」と答えています。人事計画、採用計画については、45.2%、45.8%とほぼ同じです。教育・研修よりも少し減っています。DOR調査では初めての設問でした。

人材育成を経営指針に位置づけ、実践することで採算が向上

 さて、そうした位置づけを持った経営指針を作成し、実践した結果がどうであったかです。経営指針に教育・研修が位置づけられているか否か、人事計画が位置づけられているか否か、採用計画が位置づけられているか否か、その回答別に先ほど見た採算DIをとってみました。その結果が図4です。「はい」と「いいえ」では相当に大きな差が表れています。

 また、人事計画、採用計画を経営指針に位置づけ、かつ採算が上がった割合は、68.1%、65.4%へと跳ね上がっています。教育・研修についても、61.4%と大変高いです。こうして、教育・研修、人事計画、採用計画を経営指針、計画に位置づけ取り組むということが大事であることがわかります。調査を通じこうした点が検証されたのは、初めてといってよいでしょう。

「労使見解」に学ぶ経営指針の作成と実践で業況感に顕著な差

 経営計画を策定し、その実践に取り組んだ結果、それ以前に比べ採算が好転してきていることがわかりました。しかし、それが業況感全体にまでつながっているかどうかです。DORでは、当期の業況が良いか悪いかを問う設問があります。業況水準と呼んでいますが、経営状況を総合的に判断して、「良い」、「やや良い」、「そこそこ」、「やや悪い」、「悪い」で答えていただいています。経営指針の作成と実践の成果は、この業況感にまでしっかりと反映されなければなりません。

 図5は、これをとらえたものです。縦軸の業況判断DIは、この回答で、「良い」、「やや良い」から「やや悪い」、「悪い」を引いた割合%です。「良い」、「やや良い」が多くなると、業況判断DIの値が高くなります。図5を見ると、経営指針に人材育成を位置づけていますかに「はい」と答えた場合は、「いいえ」に比べ、業況判断DIはかなり高くなっています。教育・研修、人事計画のいずれを位置づけている場合も、「はい」については高く出ていますが、特に高いのが採用計画まで位置づけている場合です。

 こうして、採用計画をも含めて経営指針に人材育成をしっかり位置づけていくことが大事であるということがわかります。そして、その前提は経営指針を社員と共有し、社員と共に成長するということであると思われます。その意味で、「労使見解」に学ぶ経営指針の作成と実践が大変大事になってきているということができます。今回のオプション調査は、過去30年DORを追ってきた私の眼から見ても大変意義深い結果を示すところとなりました。

「中小企業家しんぶん」 2019年 6月 25日号より