【「働き方改革」の第一歩 『働く環境づくりの手引き』の活用を(11)―事例編(最終回)】
『働く環境づくりの手引き』(以下『手引き』)で示された、7つの柱((1)経営者の覚悟、(2)10年後の労働環境ビジョン、(3)現状確認、(4)未来年表、(5)付加価値(生産性)向上計画、(6)就業規則の改正計画、(7)組織的取組)の具体化で、「労使の信頼関係」が深まり、経営指針に新しい活力が生まれます。
『手引き』は、政府の「働き方改革」に対応することが目的ではありませんでした。真の目的は、企業における本格的な経営指針の実践のためでした。
「労使見解」が1975年に発表されて40年を経た2015年に、全国的な経営指針の実践の状況をふまえ検討が開始されました。政府の「働き方改革」は、その翌年に出されました。
社員と家族の豊かな未来
全社一丸で経営指針の実践を推進するためには、その経営指針が経営を維持発展させる内容でなければなりません。同時に、その達成を通して、労使がともに豊かに生きる方向性が明瞭にされている必要があります。
当社は、毎年2回、1人に50分をかけて面談をします。また、経営指針書には、部門方針と、社員個人のページもあります。
その個人ページは、「10年後のビジョン(ライフビジョン)」の欄があります。「10年後の(1)人として、(2)家庭人として、(3)専門職業人として、(4)地域、社会人として」を表明します。
経営指針の実践と自らの「10年後のありたい自分と家庭」が、重なることが増えることで、経営指針に自らの人生への希望や誇りが生まれ、経営指針=自分のこととなります。
育児休業中で業務に従事していない社員も子どもや家族と登場し、将来への夢を語っています。
10年後の自分と家族の未来を表明することで、漠然としていた将来を考える機会となり「これからをどのように生きていくのか」を考え、ともに働く仲間への思いも深まる機会となっています。
就業規則の更新も一体に
また、『手引き』では、就業規則を経営指針に合冊することも提起しています。
私たちの会社も「法改正があるので就業規則を改正する」という受け身での対応でした。経営指針と合冊にすることで、法改正に都度対応するだけでなく「経営指針の見直しの際には、総合的に見直す」社風が育ちました。
総会前は、「就業規則アンケート」を実施し、法改正事項以外も総合的に意見を集約します。「介護が必要になったら法定の介護休暇では足りないので会社独自に上乗せ制度をつくろう」「初任給を見直そう」という声が挙がります。まさに「職場の働くルールブック」になりました。
『手引き』が提起した「働く環境づくり」は、新しい次元の「労使の信頼関係」をつくりだすことになります。
「中小企業家しんぶん」 2019年 10月 5日号より