【新型コロナウィルス感染症関連情報】ピンチをチャンスへ 連帯の力で危機を乗り切ろう

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響が、国民生活と企業経営、地域経済へと広がっています。現状への対応は重視しつつも、先々を考えると「視野を広げること」「本質的に見ること」が重要となります。本号では、研究者の方々より同友会会員に向けたメッセージを紹介します

これまでの経験と経営指針を生かし、 連帯の力で「コロナショック」を乗り切ろう

京都橘大学現代ビジネス学部教授 岡田 知弘

 2019年10月の消費税増税後、地域の経済が冷え込んでいる中で、新型コロナウイルスの世界的規模での感染拡大によって、中小企業経営者のみなさんだけでなく地域社会全体に新たな試練が襲いかかっています。

 新型コロナウイルスは、中国から日本、韓国に広がり、さらに欧米、中東にも一気に拡大しつつあります。株価は世界的に大きく値下がりし、日本国内では観光・交通業界から始まり小売・飲食市場の急速な収縮、さらに海外生産に依存していた製造業のサプライチェーンの寸断による生産と流通の混乱が目立ちます。すでに倒産や解雇、就職内定取り消しも社会問題化しているだけでなく、マスクや消毒液、さらにデマによるトイレットペーパー不足まで顕在化し、医療・福祉施設では患者や働き手の健康や命も危機に晒されています。まさに「コロナショック」の様相です。

 2月27日、安倍首相は「ここ1、2週間がヤマ場」として突如学校の全国一律休校を要請し、大規模イベントの中止も求めました。緊急事態宣言条項を含む、改正新型インフルエンザ特措法も制定しました。経済・社会の大混乱を伴った措置にもかかわらず、3月19日の政府専門家会議の見解では、まだ収束したとは言えず、むしろ大都市部で市中感染者が増加しており、「オーバーシュート」(爆発的患者急増)の可能性も指摘されています。

 全国の同友会や商工会議所などの調査によれば、将来を含めて経営に負の影響があると答えた企業の比率は、日ごとに増えて、9割近くに達しています。みなさんの最大の懸念は、コロナショックがいつまで続くかという点にあるかと思います。

 専門家会議での議論によれば、最悪、年を越す可能性があるともいわれています。したがって、かなり長期に及ぶと見た方がよいでしょう。

 今回のコロナショックは、経済活動の基礎である、人とモノの交流を断ち切るものであり、政策判断によってそれが増幅する「人災」としての側面もあります。この間のグローバル化が、感染被害や2次被害、風評被害を増幅・加速しているといえます。

 残念ながら、台湾や韓国、欧米諸国と比べて、日本の防疫体制は人的にも財政的にも貧弱なままです。何よりも、国民の命を守ることが最優先されなければなりません。そのうえで、国民や中小企業経営者の生活・経営不安を払しょくする緊急対策が必要になっています。

 その点で、3月4日に中同協が政府に対して提出した「新型コロナウイルスに関する緊急要望・提言」の内容、とりわけ金融支援策及び雇用調整助成金制度の抜本的拡充を、共同の力で早期に実現、活用することが何よりも必要です。

 併せて、中小企業振興基本条例を制定した自治体では、同条例に基づく具体的施策を求めていくことも必要です。未制定自治体では、個別の施策の要求とともに、これを機会に実効性の高い条例の制定を実現することも提案すべきです。

同友会のみなさんは、自然災害に遭遇した方々も多いと思います。そのたびに社員とともに作成した経営指針に基づき経営を再建・維持し、地域社会の復興にも貢献してきた経験と知恵があります。その成果を共有し、活用していただきたいと思います。

 もちろんみなさんは、経営の危機を乗り越えるためにすでにさまざまな手を打っておられるでしょう。当面は、社員や顧客の感染リスクをできるだけ低減することが必要ですが、過剰に委縮すると地域経済、生活や経営の持続性を奪うことになってしまいます。

 この間、勉強会や働き方の改善に留まらず、余った食材を使って子どもたちに弁当を配達している給食業者、テナントの経営支援のために家賃を低減させた不動産業者など、仕事の特性に合わせて地域や仲間の経営の維持に努めている会員さんもいます。自分の企業だけでなく、仲間とともに地域社会の維持を図る同友会型企業の出番の時だといえます。

 新型感染症は、今後もたびたび大流行すると言われています。このような感染症による大災害も想定した新しい社会経済、地域ビジョンづくりも、中長期的には求められます。グローバル化した大企業経済の脆弱さが現れた今回の事態に対して、地域社会の担い手として中小企業の社会的役割が一段と高まったと言えます。ぜひ、日々変わる情勢を正確にとらえ、知恵と連帯の力でこの危機を乗り切ってもらいたいと思います。

学生のピンチを企業のチャンスへ

東北工業大学ライフデザイン学部経営コミュニケーション学科教授 小祝 慶紀

「ピンチはチャンス!」言い尽くされた言葉ではあります。しかし、多くの示唆に富む言葉です。私たちは常にピンチにさらされています。企業を営む経営者の方であればなおさらという場合もあるでしょう。これまでも多くのピンチがあったはずです。

その多くは仕事上のものでしょう。それは個人や企業組織というミクロな対処が可能で、チャンスへ変えることも可能でしょう。しかし、現在発生している新型コロナウイルス(以下、新型ウイルス)の感染拡大ピンチはだいぶ厄介です。個人や企業組織でこの新型ウイルスへ対処できる問題ではないマクロな問題だからです。

新型ウイルスの影響は、就職活動(以下、就活)を始める大学3年生にとってもピンチです。NHK「大学生とつくる就活応援ニュースゼミ」のウェブアンケートによると、就活に新型ウイルスの影響が「ある」と82・9%(有効回答数は7419名)の学生が回答していることからもそう言えそうです。それだけ影響が大きく、彼らにとってこれまでにないピンチということです。「説明会中止でスケジュール真っ白」とか「いったいこの先どうなるの…」といった学生の声も紹介されています。

では、本学、東北工業大学の現状はどうでしょう。本学は毎年3月の説明会解禁に合わせて、東京や地元企業による合同企業説明会(以下、合説)を2日間に渡り開催しています。参加企業は2日間で約340社、参加学生は本学の学部生、大学院生のべ1500名にもなります。それが今年は、新型ウイルスの影響で中止となりました。さらに、大手就活情報会社主催の、合説などのイベントが軒並み中止となり、先に紹介した学生の声と同様な状況です。

このように、方向性が見えない学生が本学に限らず、多くいることは十分推察されます。早めに就活を終わらせて安心したいという思惑がもろくも崩れたのです。しかし、これはピンチでしょうか。もちろん新型ウイルスへの不安は、就活とは別な意味でピンチでしょう。でもこれは、日本国民全員のピンチです。

本学の学生には、東京などへの就活ではなく、東北、宮城で採用活動を行っている企業へ就活の中心を変えた学生もいます。学生なりの知恵です。学生の知恵を、今度は皆様の叡智(えいち)を結集して、学生へのチャンスへと変えてみませんか?それは翻(ひるがえ)って、企業の求人へのチャンスということにもなります。本学の学生のような学生は少なからずいるはずです。これは、地元企業にとってチャンスを生み出す機会となりませんか。

しかし、現在のピンチをチャンスに変えるには、1企業の1経営者の知恵や力では難しいことは前述したとおりです。経営者としての叡智を結集し、より大きな力とすることで、チャンスへ結びつくのだと考えます。そのために同友会があるのだと考えます。同友会の仲間を信じ、ここは「俺の会社」ではなく「宮城の会社」という気概でピンチをチャンスへ変えていきませんか。

(宮城同友会新型コロナウイルス対策ニュースVol・9より転載)

「中小企業家しんぶん」 2020年 4月 5日号より