連載「エネルギーシフトを考える」第4回 エネルギーヴェンデとは生き方を根幹から変えること

主体は小さな地域の中にある

 「ここでは三重ガラスサッシ以上のものしか、人間が住む場所には使いません。二重サッシを使うのは物置ぐらいです。大部分の住宅では30~40センチの壁厚、屋根断熱の厚さが普通です。冬場どんなに外気が冷えても無暖房で16度以上の室温が保証される建物でなければ、法律違反になりますし、人権侵害とも言えるかもしれませんね」。地元のコーディネーター役の方が笑顔で次々に発する言葉に、私たちはただただ唖然(あぜん)とするばかりでした。

 そして現物見本として見せてもらったのは、地元中小工務店が集まりつくった住宅関連の展示場でした。bizzと呼ばれるその展示場には、壁の厚さが50センチ近くもある木材や発泡ウレタン、再生紙などさまざまな断熱素材を組み合わせた壁面の施工実物を展示していたり、ガラスサッシの枠に熱伝導がしにくいプラスチック樹脂やシリコンなどの材料を使用したもの。自社独自に結露が発生しにくい窓枠構造を開発し、パネルで説明が丁寧にしてあるもの。また外から窓に差し込む太陽光の照度によって、窓の外に取り付けられたシャッターの開閉が自動でされるものなど、それぞれの企業の創意工夫が所狭しと並んでいました。日曜日にはbizzを訪れる施主さんと地元工務店の姿が多数見られます。主体は小さな地域の中にあるのです。

 以前はドイツも全国規模のメーカーや大規模建設業が主流でした。しかし、こうした地域に密着した工務店の台頭で、現在ではほとんどが地域企業が独自に生み出した建設資材になりました。むしろ温度や湿度など地域特有の気候への対応は地域に根づく中小企業が得意とする分野です。

 中同協の視察で訪れた当時、日本で流れる「エネルギーシフト」「エネシフ」という言葉を日常で何度も耳にしていました。環境への配慮や森林の保全と利活用など、大切な視点を示してはいましたが、私たちが現地で見た「エネルギーヴェンデ」と呼ばれるその壮大な取り組みは、少し違うようにも感じていました。

域内でエネルギーとお金を循環させる

 ドイツのエネルギーヴェンデの取り組みには順番がありました。

 まず1つ目が、bizzの例に見るように、住宅や工場などの建物の断熱性能を高め、極力エネルギーを使わないようにする「省・小エネルギー」です。これは、それぞれ個人でも、企業全体でも、気づいたときに誰でもスタートできる取り組みです。そしてその取り組みの強弱も自身で変えることが可能です。

 次に供給するエネルギーを効率のよいものに転換していく「エネルギーの高効率化」です。例えばガソリン自動車は燃料のわずか25%分のエネルギーしか働いていません。残りは大気中に放出されてしまっています。電気やハイブリット車に変えるだけで大きくエネルギー効率を変えることになります。さらに自動車を使わない発想、交通網や街づくりに考え方や行動を変えていくことは、より高いエネルギーの効率化を実現することになります。

 最後にこうして、地域内で使用するエネルギーをその場所で生み出し使う「創エネ」がエネルギーヴェンデの大きなポイントとなります。

 第3回で紹介したヴォーバン住宅街にはコージェネレーション施設を活用し、街中に網の目のように巡らした総延長12キロにも及ぶ熱供給網があります。こうした施設では木質チップなどバイオマス燃料を主体に、時には化石燃料もバックアップで使用し約90度の温水熱を24時間生み出しています。そして巨大な魔法瓶のような設備にその温水を蓄熱、地中に埋められた熱供給パイプを通して各家庭に熱として供給、熱交換器を通して家庭に届けられます。住宅や工場のすぐ近くにある「発熱所」ですので、ロスが極めて少なく熱効率の非常に高い供給方法とも言えます。

 域外から極力エネルギーを購入しない「創エネ」は、その分資源も資金も域内で回すことができます。お金を域内での新たな仕事づくりや雇用の創出に結びつけることができるのです。創エネの目的は明確で、日本のように突然出現するような売電目的の太陽光発電施設はほとんどありません。

 「ヴェンデ」とはドイツ語で大変革を意味します。エネルギーをシフトするのではなく、私たち自身の生命(いのち)を守り、次世代にバトンをリレーするために、生き方そのものを根幹から変えること。これが大げさではなく、エネルギーヴェンデの本質であることに気づくことができます。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2020年 5月 25日号より