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連載「エネルギーシフトを考える」 第7回「快適な住環境の実現」がエネルギーシフト具現化の鍵

資源とエネルギーにかけるお金は地域から外に出さないために必要なこと

 今年度の岩手県の温暖化防止いわて県民会議「できることからECOアクション」の最高賞に、40社を超える応募の中から(株)高田自動車学校と岩手同友会のエネルギーシフト研究会が選ばれました。いずれもこの間の研究会の取り組みが大きく評価されたもので、人と企業をつなぎ、連携での新たな仕事の創出や新会社の創業に結びつけ、結果を出してきたことにあります。環境経営の指標である、大幅なコスト削減や利益創出にも効果があることが、選定ポイントとなりました。

 岩手県は以前から急激な人口減少、少子高齢現象が予見されていましたが、さらに東日本大震災被災により、想定よりもはるかに早く地域が大変な環境下に陥りました。閉塞感、焦燥感の中で「地域に新たな仕事が生まれなければ、新たな雇用も生まれない」と、2014年に立ち上がったエネルギーシフト研究会は発足から7年が経過し、重ねた勉強会はこれまでのべ107回。そこで培った知識を自社や地域での実践に結びつけるための欧州視察を、研究会創設以来6年連続で続け、85名もの方々に参加いただいてきました。

快適に過ごせる建物の基準

 なぜこれだけの回数と、成果が生まれてきたのか。その背景の1つに、エネルギーを「省く」、「小さくする」という、誰でもどの企業でも今日から取り組めることに着目し声をあげ続けてきたことにあります。その具体例が省エネ、小エネ建築への視点です。

 岩手県は世界で最も寒いと表現されるほど、断熱性能が低い住宅が多くあると言われています。この原因はさまざま考えられますが、視察や研究会を重ねる中でわかってきたことがいくつかあります。その最も大きな要因はまず市民、企業、自治体それぞれの意識の問題です。次に実際に行動に移すための資金や金融も含めた仕組み、さらには専門人材、建物の性能、企業の取り組みへの評価制度など、基準やルールの問題が見えてきました。またバックキャストで計画的に継続して取り組む、めざす目標があることが、重要なポイントであることも見えてきました。

 欧州視察の現地での一番の驚きは、建物の基準性能が「外気が氷点下でも、無暖房で16度以下になってはいけない」と条例で決められていることでした。むしろそうした建築物でなければ、快適どころか健康被害に遭うという意識さえあります。

 岩手は、脳血管疾患者数が全国ワーストワンです。その背景には寒暖の差が大きい住居によるヒートショックも原因の1つと言われています。氷点下の寝室で吐く息が白くとも、布団を被るという習慣も影響している可能性があります。加えて、初期のイニシャル費用が高くとも、低いランニングコストの効果の方が上回るという、長期的な視点が評価されることも大きな違いです。

「お試しください」と寄り添う地域の専門機関

 岩手では2050年にCO2排出ゼロ実現を、県知事が明言しましたが、これから建てる新築住居や改修も、25年~30年は優にもつ建物です。2050年を展望したとき、今すぐに取り組まないと間に合いません。岩手には岩手型住宅という目標性能は掲げられていますが、その実現のための性能を評価する機関が必要です。さらに建築現場を担うべき専門技術者育成の問題もあります。

 私たちが毎年視察で訪れてきた、オーストリアのフォーアールベルク州のエネルギー研究所も、すでに創立から30年の歴史ある独立した機関です。市民との100回以上にも及ぶ意見交換を重ね、州としての建築性能の基準を定めました。研究所に登録していない建築部材は地域で使えないという徹底ぶりです。さらに企業や自治体のエネルギー環境への取り組み評価も客観的に行い、公にするなど、数値化し誰もが恒久的に見えるようにする。そして住民には優しく、「エネルギー家計簿を付けてみませんか」とお試しください、のスタンスで環境やエネルギーへの意識をじっくり涵養(かんよう)する住民に寄り添った研究専門機関になっています。

 その掲げるポイントは、(1)壮大なビジョンを掲げ発信し続ける(いつまで、何を、どれくらい)、(2)共通の言葉を明確に出すこと(目標、戦略、コンセプト、実践の蓄積、データの蓄積、モニタリング、品質を保証する仕組み)、(3)市民協働と産学官金イノベーション(クラスター化)、(4)中小企業の協業・連携ネットワーク構築です。

“専門家”をいかに増やすか

 今後どの地域でも、少子高齢現象は急激に進んでいきます。そのときに頼られるのが、技術技能を持った地元中小企業です。特にお年を召した方々にとって暖かく寒くない住まいへの断熱改修など、健康寿命を長くするためにも、中小企業にとっての新たな仕事づくりの面でも、エネルギーシフトの具現化が地域に大きな利益をもたらします。

 岩手同友会のエネルギーシフト研究会には、欧州へ27回訪れ建築を研究実践してきたエネルギーアドバイザーなどの専門家が揃っています。「『資源とエネルギーにかけるお金は地域から外に出さない』という覚悟で地域内資源循環に今すぐ取り組まなければ、地球が持たない」、そうした危機感を持った方々がこの指止まれで集ったとき、理想は現実になっていくのだと思います。

 岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2020年 10月 5日号より

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