コロナ禍のビジネスチャンスを探せ!!

 中小企業を取り巻く外部環境を考察する上で必要不可欠な統計データ。各企業が自社で調査した数値を公開しているものもあれば、国が統計データとして公開しているものもあります。今回から5回にわたって、国が作成するマクロ経済統計を中小企業のビジネスに活用するための視点やその手法を法律の概要と対応について連載します。

中小企業家しんぶん愛読者の皆様、初めまして。今回から本コーナーで連載を担当することになりました経済産業省大臣官房調査統計グループの田中幸仁です。

本連載では、国が作成するマクロの経済統計を中小企業のビジネスに活用するための視点や手法を紹介していきます。「統計がビジネスに活用できるのか?」と疑問に思われる方が多いかも知れませんが、長年全国を飛び回り、中小企業の草の根支援活動を続けてきた筆者の経験を生かし、皆様が明日から実践できる情報としてお届けします。

今後、経営戦略への活用方法など順を追って紹介していきますが、第1回となる本稿では、特別に「統計を活用したコロナ禍のビジネスチャンスの探し方」を紹介します。

まず、ビジネスの基本は「伸びている分野」で勝負することです。では、「コロナ禍で伸びている」とはどういう意味なのでしょうか? 統計活用の視点から考えると「当月の値と前年同月の値を比較し、当月値の方が増加している製品やサービス」と言い換えることができます。そして、その比較は「毎月」公表されている統計を用いることで計算することができます。(図1)

図1 経済産業省調査統計グループの主な月次統計調査

名称 概要
経済産業省生産動態統計調査 約1,600品目に及ぶ鉱工業製品の生産・出荷・在庫等を調べることができます
商業動態統計調査 卸売業・小売業(百貨店・スーパー、コンビニエンスストアなど)の商品販売額等を調べることができます
特定サービス産業動態統計調査 リース業、レンタル業、葬儀業、結婚式場業、学習塾などの売上げなどを調べることができます

例えば、1,600品目に及ぶ鉱工業生産の動向を把握するために実施している経済産業省生産動態統計調査のデータを用いて、2020年4月~8月の5カ月間「全て」において、出荷金額が前年同月比で増加している品目を調べると、「タオル用紙」、「手洗い用液体石けん」、「住宅家具用合成洗剤」などの製品が抽出されます。国の統計は、守秘義務の観点から具体的な増減要因や商品名などについて説明をしていませんが、いずれの製品も新型コロナウイルスとの関係は想像に難くありません。このように、GDP(国民経済計算)やIIP(鉱工業指数)などマクロの経済統計が大幅な減少を示したとしても、個別の製品やサービスの中にはコロナ禍でも、コロナ禍だからこそ、増加しているものも存在します。そして、毎月、無料で公開される国の統計データを活用することで、常に最新の動向を確認することができるのです。そのため、迅速な経営判断、機敏なフットワークに強みを有する中小企業こそ、経営者が長年培ってきたカン・コツ・ケイケンに加え、統計のデータを上手に活用することで、コロナ禍で伸びている分野をいち早く特定し、自社の強みを生かしたビジネスを検討していくことができるのではないでしょうか?

次稿では、伸びている分野へチャレンジするための思考法を紹介する予定です。

経済産業省大臣官房調査統計グループ 田中 幸仁

「中小企業家しんぶん」 2020年 11月 25日号より