企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「社員教育」をテーマに、岩素子氏((株)落水正商店取締役、長崎同友会会員)の実践を紹介します。
(株)落水正商店は鶏卵販売から営業を始め、養鶏業、鶏卵の加工食品の製造と事業を拡大してきました。その背景には経営者の「いい卵をお客さまに」という思いがありました。創業者である岩素子氏の父は、お客さまの意見を聞くうちにいい卵を販売したいと考え、取引先の養鶏所に相談するも断られたため、直営農場を始めました。飼料にこだわった「太陽卵」は口コミで人気が広がり、農場を新設。その後、2代目である岩氏の兄、落水日朗氏(長崎同友会会員)が「家庭にもいい卵を届けたい」という思いから直売所「花たまご」を開設しました。
同友会との出合い
岩氏は高校卒業後、親孝行がしたいとの思いから同社に入社。20歳ごろには責任のある職務に就き、奮闘していました。その後、長崎支店の売り上げが減少。家賃が高いこともあり、支店を閉める話が出ましたが、岩氏は社員を守りたいと考え、新事業として通信販売に着手しました。しかしなかなか売り上げが上がらず悩んでいるところで、同友会と出合います。例会に参加し、経営者が失敗談も赤裸々に報告しているところを見て、「これはいい会だ」と思い、入会するに至りました。
社員教育で大切にしていること
同友会に入ったことで、岩氏は社員の言うことを話半分に聞き、自分だけで判断していたことに気づきます。現在は、適材適所の仕事をしてもらうため、社員と本音で話し合うことを心掛けています。
通販の売り上げが毎年伸びているのはお客さまの口コミのおかげで、お客さま1人1人に対するスタッフの丁寧な対応にかかっていると語る岩氏。お客さまの意見に対する返信は、周りと共有し、岩氏自身が書いた文章でも必ず社員に意見を求めるようにしていると言います。
その人自身の思いを重視して採用
社員は中途採用がメインで、前職の経験を生かせることにメリットがあると岩氏は語ります。通販事業に取り組み始めてから、HPにも力を入れ、思いやブランド誕生の経緯を載せており、岩氏がどうしてうちに来たのかと尋ねると、ほとんどの人は「HPを見て」と答えるそうです。
会社面接ではその人自身の意見を重要視しており、「自分は友達が1人もいません」と面接で述べた男性を正直でいいと思い採用。1年も経たないころ、「この会社に来て幸せです」と言ってくれたそうです。
スマイルホームカンパニー
岩氏は、ある社員を辞めさせてしまったことをふがいないと感じ、社員を幸せにしたいと強く思うようになりました。経営者が同友会で共通の悩みを知るように、中小企業の社員にも職場以外で人と関わりを持ってほしいという思いから、スマイルホームカンパニーという取り組みを始めました。地元の経営者などの講師を招いたセミナーのほか、岩氏自身が心のケアなどについて語る「もっちゃん塾」を開催し、中小企業での働きがいや働く意味を伝えています。現在は長崎大学の学生がサポートに入ってくれており、SNSの運営などはすべて担当してもらっています。
今後のビジョン
「どんなことが起きても、社員の心の成長、幸せを追求できるような職場にしていきたい」と語る岩氏。数字を追うよりも社員に働きがいを持ってもらえるような環境をつくることが、結局は業績アップにつながっていくと確信しています。社員の意見を尊重し、心の成長を促す「心の経営」を軸に、すべての人が元気に働く職場をつくることが岩氏の目標です。
「中小企業家しんぶん」 2024年 5月 15日号より