日本の名目国内総生産(GDP)が、安倍晋三元首相が政策目標に掲げた600兆円に到達間近となりました。7月1日に発表された1~3月期(2次速報改定値)のGDPは年換算で約597兆円でした。
円安の進行で輸出企業を中心に業績は改善しています。ただ物価高が押し上げている面もあります。2024年度の最低賃金改定額の目安は時給1054円と過去最高となりましたが、物価上昇に追いついておらず、経済の好循環は起きていません。数値は拡大していますが、家計への恩恵は乏しいようです。
現在の名目GDPは物価高で実力以上に押し上げられています。物価変動の影響を除いた実質GDPとの「格差」が鮮明になっています。これは論者によっては、「インフレと経済停滞が同時に起きるスタグフレーション的な状況」と評する方もおられます。
円安が日本の物価を押し上げ、家計の実質所得が目減りして消費支出の低迷を招いています。実質家計可処分所得は、コロナ禍対応の給付金によって急増したあと、物価上昇のために減少基調にありました。実質所得の減少を受けて実質家計最終消費支出はコロナ禍からの回復が止まり、2024年1~3月期まで44半期連続で減少しました。水準としてはこの1年で1・9%減少しました。これが現実です。
今年の春闘での賃上げや、6月から始まった所得・住民税の減税によって実質家計可処分所得が増える可能性はあります。しかし、物価高に対する節約志向の高まりや新NISA開始で若年層を中心に積立投資を始める人が増えていることなどから、今後は貯蓄率が上昇することが予想されます。そのため、実質家計可処分所得が増えたとしても、実質家計最終消費支出は回復しにくいでしょう(榊茂樹「スタグフレーションに陥っている日本経済」2024年7月29日、元野村アセットマネジメントチーフストラテジスト)。
家計消費支出の低迷は景気の鈍化をもたらしています。実質GDPは2023年7~9月期から2024年1~3月期の34半期のうち24半期でマイナス成長を記録し、その間に1・7%減少しました。
日本でも過去、スタグフレーションが発生した時期があります。それは、1970年のオイルショックのときです。オイルショックによる原油価格高騰により、1974年には消費者物価上昇率が25%に迫る勢いの上昇となりました。
これはコスト上昇に伴うインフレで「コストプッシュ・インフレーション」と呼ばれます。本来の好景気で生じるインフレは「ディマンド・プル・インフレーション(需要拡大によるインフレ)」。今のインフレは、景気を冷やす可能性が十分にあります。必要な対策を直ちに取るべきです。
「インフレ率が高いまま景気は息切れし、日本経済はスタグフレーションに陥っています」とは榊氏の言。いま、この言が広がる勢いをみせています。
(U)
「中小企業家しんぶん」 2024年 8月 15日号より