個人に知があるように、組織にも知があり、そうした組織の「知」を変革(イノベーション)につなげるため「組織の記憶の理論」という経営理論があります。これが早稲田大学の入山章栄氏著の『世界標準の経営理論』で紹介されています。組織の記憶というのは一般的に言えば、組織風土や社風、共通認識、ルール、管理方法、手順などです。
組織の記憶のプロセスは大きく2つあり、「知の保存」(インプット)と「知の引き出し」(アウトプット)です。知の保存には大きく3つの手段があり、(1)組織メンバーの個々で記憶、(2)ツール(文書・PCなど)での保存、(3)習慣やルール、管理方法、ルーティンへの落とし込みです。
「知の引き出し」では保存した知を効果的に引き出すために2つの理論があります。「シェアード・メンタル・モデル(SMM)」と「トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)」です。簡単に紹介します。
シェアード・メンタル・モデル(SMM)とは、「組織のメンバー間で、どのくらい認知体系(メンタルモデル)の共通認識がとれているか」ということであり、組織に関わるあらゆる認識がメンバーの間でそろっているかです。仕事・技術・設備などに関するメンバー間の共有認識(タスクSMM)とメンバー同士の行動の役割分担、メンバーの好み、強み、弱みなどに関する共有認識(チームSMM)があります。
トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)は、組織メンバーが「他のメンバーが何を知っているか」を知っていること、組織内の知の分布に関するメタ知が重要ということです。メンバー個々の専門性やネットワーク、強み・得意などをみんなが知っておいたほうが組織として高いパフォーマンスを発揮するという理論です。
ちなみに「知識」は「人が蓄えることのできる情報、データ」のことで、「知恵」は「『知識』を上手に使ってものごとを対処する能力」のことです。「知識」はインプットであり、「知恵」はアウトプットとも言えるかもしれません。個々の「知識」を共通の認識とし、「知恵」に変えて共有し実践していくことが重要ではないかと「組織の記憶の理論」で言っていると感じます。
同友会では、例会で経営体験報告に学び、グループ討論で共通認識を取り、お互いに学び合い、実践につなげています。また企業づくりにおいても、あらゆる課題を経営指針に盛り込み、社員と共通認識を取りながら、実践の状況について「企業変革支援プログラムVer.2」で全体の共通認識を取って、実践をしていきます。企業経営と同友会の不離一体の取り組みは、経営理論でも実証されていると感じます。
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「中小企業家しんぶん」 2024年 9月 15日号より