われわれが農と食の機関車になる~東北4同友会(岩手、宮城、秋田、青森)の農業関連者が交流

 「われわれが農業・食糧生産の機関車になる」と、青森、秋田、宮城、岩手の東北四同友会が「農業・食糧生産・地球環境部会見学交流会」を6月18~19日、岩手で開催。農業や食関連の会員を中心に36名が参加しました。見学・交流と2日目の大討論会の様子を紹介します。(中同協事務局・小川緑)

 食糧自給率が100%を超える岩手、秋田、青森、畜産が盛んな岩手と米が中心の宮城など、東北4同友会の食と農にかかわる会員が、「それぞれの農業特性を生かしながら、どのような農業食糧生産と地域づくりをめざすか」の大討論会を開催。葛巻高原食品加工(株)(くずまきワイン)が都市と農村の交流の拠点として5月末にオープンさせた体験交流館「森のこだま館」で、メイン討論者5氏を中心に、農業や地域への熱い思いが交流されました。

食糧自給率200%の葛巻から

漆真下満氏(葛巻高原食品加工(株)常務、岩手)

 私の住んでいる地区では44%が高齢者で、一人暮らしの方も多い。今度の岩手・宮城内陸地震でも、被災者の多くが一人暮らしの高齢者でした。このような地域をなくすためにも、家族で従事できる農業で暮らしていけるようにしていくことが重要です。
 最近ショックだったのは、中国製冷凍ギョーザ中毒事件のとき、食糧自給率200%を誇る葛巻町でさえ、中国製冷凍ロールキャベツを学校給食で使っていることがわかったこと。1食290円(中学校)という制約からの選択だったわけですが、地域の未来を担う子どもたちに、多少お金がかかっても、地元で穫れたおいしくて安全な食べ物を提供していくことが必要ではないでしょうか。それが食育にもつながっていくと思います。
 葛巻町では、食糧自給率200%を維持し、エネルギー自給率80%を100%にしていくなどで、まず葛巻から地域内資源循環の実証をしていきたい。都市と農村の交流も強めていきたい。

耕畜連携で環境保全型農業

櫛田光男氏((有)キロサ肉畜生産センター社長、岩手)

 当社も参加している「岩手町認定農業者協議会」(農業組合法人「南山形養豚組合」の佐藤守氏が会長)では、牛や豚の糞尿を堆肥化し、それを使って地元の野菜農家が、キャベツやレタスなどを低農薬で生産するという「耕畜連携」に取り組んでいます。さらに、そのキャベツをロールキャベツに加工し出荷したところ大変好評でした。
 この耕畜連携が評価され、5月に「環境保全型農業推進コンクール」で農林水産大臣賞を岩手町認定農業者協議会が受賞しました。

「物語」で付加価値付け米作農家を応援

中川浩志氏(タカラ米穀(株)専務、宮城)

 当社では、猫の目農政に振り回されてきた米作農家を応援したいと、年間8万トンの米を扱っています。米は、日本の食文化の基本です。米が売れないとの相談があると、真心を込めて作った米なら、すべて買い取るようにしています。私はそれに「物語」という付加価値をつけて商品化していきます。生産者の思いをどう「見える化」して消費者に伝えていくか、です。
 世界中で食糧危機がいわれ、日本の食糧自給率も40%を切ったのに、日本はあいかわらず減反政策。私は、宮城でできるすべての米を買い取ってでも、農業を活性化させていきたい。

きりたんぽで秋田の基幹産業・農業発展へ

佐田博氏((有)佐田商店社長、秋田)

 私は、伝統的な手作りにこだわった「きりたんぽ」の製造・産直を行っています。秋田の基幹産業は農業です。私は、秋田の農業に食品加工という付加価値をつけ、互いに顔の見える関係で、価格決定力を持って販売していくことで、食糧自給率を向上させるとともに、地域を発展させていきたいと考えています。

同友会内から農業への認識を高めよう

山崎伸氏((株)三沢農場会長、青森)

 はじめ採卵業でしたが、生産調整が始まったことから養豚に転換。年5万2000頭から5万3000頭出荷しています。豚肉の価格が上がってきており、今のところ何とか飼料高騰分も価格転嫁できています。社員30人で年商16億円と、労働生産性は低くないと自負しています。
 日本の農業を発展させていくには、作り手自身が日本の食と地域を支えているとの自信と誇りを持って周りに伝えていくこと。まず異業種の集まりである同友会の中から、農業への認識を少しでも高めていければと思っています。

 討論では、学校給食のあり方について、給食センターや青果物卸にかかわる参加者も含め論議が盛り上がり、地域全体で、それぞれの地域における食のあり方を考えていくことの重要性が確認されました。
 最後に、宮城同友会農業部会長の中川氏が、「東北の同友会が連携して、地域と農業を振興させ、日本の食を支えていこう。同友会が動けば日本の食は変わる。来年は宮城で交流会を」とまとめ、共感の大きな拍手がわき起こりました。

日本の食と農を支える岩手を五感で体感

耕畜連携の岩手町と、食とエネルギーの自給めざす葛巻町

 宮城同友会の一行が乗ってきたバスに東北4同友会の参加者が乗り込み、岩手町で「耕畜連携」で環境保全型農業に取り組む(有)キロサ肉畜生産センターと農事組合法人南山形養豚組合(ともに岩手同友会会員)、そして「ミルクとワインとクリーンエネルギー」の葛巻町を見学しました。

 キロサ肉畜生産センターは、「みちのく奥羽牛」のブランドで肉牛を生産しています。直営の二つの牧場と、北海道・東北にある46個所の預託牧場とあわせて7500頭を飼育。北上山系に連なる山並みはなだらかで、ゆるい起伏のある高原に、キャベツ畑が一面に広がります。「ここでも、うちの堆肥を使っています」と櫛田社長。環境農業への高まりから、今は堆肥の売れ行きも好調とか。9割以上を輸入に頼る飼料の高騰が、今一番の悩みです。
 昼食は、この牧場でバーベキュー。同社の牛肉と南山形養豚組合提供の「やまと豚」、これらの堆肥で作った野菜など、新鮮で安全、かつ最高級の食材が食べ放題の贅沢(ぜいたく)なひとときでした。その後、南山形養豚組合へバスで移動。

 南山形養豚組合(佐藤守副組合長)は、一九九一年に大根づくりから養豚業に転換して設立。繁殖から生産までの一貫生産が特徴です。同社の高級ブランド「やまと豚」は、主に東京方面に出荷。昨年は念願の年間4万4000頭出荷を達成しました。
 「いいものは自信を持って高く売る、これが私の基本理念」と佐藤氏。「重油や飼料代の高騰は大変だが、それによって肉が高くなっても買ってもらえるような農業経営ができなければだめ。だから同友会で勉強をしている」と話します。

 「くずまき高原牧場」では、葛巻町長の鈴木重男氏も駆けつけ、芝生で車座会議。鈴木氏は、「食とエネルギーの完全自給をめざす。穀物飼料の町内での生産を促進するため、種代の補助も始めた」と話します。その後、間伐材のチップによるバイオガス発電や、上外川(かみそでがわ)高原にそびえ立つ12基の風力発電を見学しました。