経営指針の成文化と実践でイキイキ企業づくり (株)山岸製作所社長 山岸良一氏(群馬)

(株)山岸製作所社長 山岸良一氏(群馬)

中同協第40回定時総会より~社長と社員の成長なくして、企業の成長はあり得ない

 (株)山岸製作所(山岸良一社長、群馬同友会会員)は、2001年に「薄肉切削加工技術」で群馬県の「一社一技術」に選定、同年ISO9001認証取得、2002年には高崎市の優良中小企業の表彰を受けるなど、製造業として着実に成長を遂げてきました。2007年には「群馬県経営革新計画」の承認も受けた同社の経営を、中同協第40回定時総会第9分科会の報告より抜粋して紹介します。

すべて1人でやっていた

 私は23歳で山岸製作所に入社しました。当時、両親と私の3人で経営をしていました。人が増え、仕事が増えても、任せられる人材が全くいない状態で、機械をセットするのも、作業をするのもすべて自分1人でこなしていました。

 そうした経営に限界が見えていたころ、大手電気会社の研究所に勤めていた弟に助けを求め、現専務が87年に会社に入りました。

 弟は入社しましたが、何でも自分1人でしていることに変わりありません。電話を受けるのも、計画を立てるのも、朝礼で話すのもすべて自分がやってしまい、弟に対しても邪険な扱いしていたため、もめごとが絶えませんでした。

 そうした険悪な雰囲気では社員さんのモチベーションが上がるわけもなく、会社はバラバラな状態でした。

経営指針づくりに参加

 そんな時、同友会を紹介され、40歳でその門を叩き、98年、「経営指針づくりの会」に参加しました。半年間に及ぶ非常にハードな内容でしたが、腹をくくって弟と一緒に参加することにしました。

 当時の私は「ろくな社員がいない」と口癖のように言っていました。最後まで参加してわかったことは、「ろくな社員がいない」と言っている自分自身が「社員を立派にする能力のない馬鹿な経営者」と言っているのと同じだということでした。

 翌年には、手探りでつくった初めての経営指針を社員総会で発表しました。結果は「社長は一体なにを始めるの」という反応で、熱くなっていたのは自分ただ1人。

 毎年、社員総会で経営指針を発表していましたが、相変わらず社員さんには浸透しません。理由は簡単、私と役員だけで作成した「押し付けの経営指針」だったからです。

初めて置いた“リーダー”

 社員数30名を数える会社になりましたが、社長と専務以外の役職はありませんでした。そこで、会社を5つの部門に分け、各部門に「リーダー」という役職を初めて置くことにしました。

 各部門のリーダーは、ガムシャラに仕事に取り組んでいましたが、自部門が黒字か赤字かも分からない状態でした。そこで、群馬県の経営革新計画(新たな事業活動への支援制度)にチャレンジし、経営方針・環境・業績から会社の強みや弱みを分析する活動を始めました。

 2006年、どうにかして社内全体に参画意識を持ってもらうことはできないかと考え、毎月1回ずつ、経営会議・幹部会議・リーダー会議・グループ会議を開催することにしました。リーダーを中心とした部門目標策定の会議に全員が参加し、部門内の意見交換を経てから会社方針を決定するようになりました。

まずは悩みを聞くこと

 各部門で多数の目標を設定したことで、残業時間の増加や指導方法への不満が噴出し、日ごろの態度や言葉づかいなども相まって、人間関係がギクシャクするようになりました。

 そんなとき、「キャリアコンサルタント養成講座」を受講しました。カウンセリングを中心にした職業能力を開発する資格講座です。私と常務(姉)が資格を取得しました。

 取得の理由は、まずは辞める社員さんを出さないためです。この年に入社3年未満の社員さん4名が、バタバタと辞めてしまいました。本人たちに聞くと「人間関係」が一番の理由だったようで、「悩みを聴いてくれる人がいなかった」と話してくれました。

 私は社員さんと積極的に面談しているつもりでしたが、聴くというより、自分が8割は話し、挙句の果てに結論まで出して「じゃあ頑張ろうな!」で終わらせていました。

 キャリアコンサルタントの資格取得後は、まず50数名の社員全員と1時間~2時間かけて「現在の考えや気持ち」を聴き出しました。幹部社員からは「部下とコミュニケーションが取れず、話を聴いてあげることができない」という悩みが数多く出ました。その悩みを解決するため、常務を中心に幹部社員を対象とした「傾聴の勉強会」を毎週実施しました。現在では毎週1回は面談の時間をつくっています。

数字に強いリーダーへ

 昨年は、さらなる経営指針浸透を推進。部門ごとに数値・改善目標を策定するようにしました。リーダーを筆頭に幹部社員には、数字に強くなって経営者的な意識を持ってもらわなければなりません。そこで「お金の流れ全体図」という分かりやすく工夫した図で経営情報を公開し、経営数字を共有した会議にしました。

現在進行中「テクニカルマイスター制度」

 今期の経営指針書で取り組むテーマとして、各部門に必要な職務と職業能力を明確化させ、個人の職務評価を行う「テクニカルマイスター制度」を掲げています。社員さんに部門の仕事をすべて書き出してもらい、簡単なものから難しい順番に仕事を整理して職務表をつくりました。

 社員さんは与えられた仕事ができるようになると、すべてができていると錯覚してしまいがちです。そこで、実際にはどこまでの仕事ができているのかをヒストグラム(度数分布図)化し、目に見える形にしました。操作・知識・管理などに業務を区分けし、全員に配布することで個人の職務能力を確認してもらっています。

社長の仕事は考えること

 企業の成長は人の成長です。「自分にしかできない」と考えてしまうと、何も任せられません。社長の仕事は問題が発生したら解決することだと思い、社員さんに任せることが必要です。「人材育成」と声高に経営者が言うのはおこがましいことなのかもしれません。社員さんは任せれば大概のことは上手にしてくれます。残念ながら、私たち経営者がするより結果が良いのです(笑)。人材育成とは、仕事を任せていくことだと思っています。

 社長の仕事は考えることです。現場で社長が真っ黒になって働いているうちは、利益はほとんど出ていませんでした。利益が出るようになったのは社員さんに仕事を任せ、全員で方針や対策について検討するようになってからです。利益をあげて社員さんに還元し、還元すれば社員さんも頑張るという、良いスパイラルができつつあります。

 初めての経営指針書作成から12年目になります。ようやく70数名が一緒になってきたように感じています。

1.高い技術とより良い品質で、お客様に満足していただけるサービスを提供する。
2.ものづくりにこだわり、世の中に必要とされる商品を通じて社会に貢献する。
3.限りない挑戦と情熱を持って、会社と個人の夢(目標)を叶えよう。

1.客先不適合流失ゼロ、及び社内不適合半減を目指す。
2.継続的な改善活動により、品質の向上を図る。

(株)山岸製作所のホームページより

会社概要

設立 1962年
資本金 3000万円
社員数 75名(パート含む)
年商 9億1000万円
業種 精密部品加工
所在地 群馬県高崎市浜川工業団地
TEL 027-360-4100
http://yamagishi-ss.com/

「中小企業家しんぶん」 2008年 8月 25日号より