若者たちが帰りたくなる故郷を~武部建設(株) 社長 武部 豊樹氏(北海道)

古民家再生、文化継承、市民交流の場づくり

 公共事業の激減と原材料高騰、消費不況の真っただ中で苦吟する北海道の建設業。さらに人口減に悩む旧産炭地で、「若者たちが帰りたくなる故郷づくり」をめざし、民間住宅中心に古民家再生を打ち出し注目される企業、武部建設(株)社長の武部豊樹氏(北海道同友会会員)を訪ね、お話をうかがいました。

脱公共事業、断熱気密工法で暖かい住宅づくり

 明治末年、武部氏の祖父が石川県より渡道し、農業に従事、1946年復員した父が造製材業の武部木工場を創業しました。武部氏は50年生まれ。家業はすでに建築の道を歩み始めた弟(現専務)が継ぐものと、大学では考古学を専攻していました。ところが父が病気となり、76年入社、建築士、土木施工管理士等の資格も取り、社長を後継することになりました。

 本社のある三笠市は産炭地として栄えたところ。斜陽の町ではあっても当時はまだ公共工事はありました。しかし武部氏は「公共工事は先細りになる」と判断、80年代末から90年代にかけて民間住宅に転換をはかります。

 そこに待ち構えていたのは、地方進出をはかる大手ハウスメーカーとの闘い、果てしない価格競争でした。「中小建設業は価格競争では疲弊するだけ」。

 対抗手段を模索した武部氏は、室蘭工業大学の教授が提唱する新在来工法の研究協議会に参加、断熱気密工法による暖かい住宅づくりに着手し、道内建設業をリードする企業へと転換を遂げていきます。

古民家再生に古民家再生に着眼

 武部氏が知人に誘われ同友会に入会したのは87年、内部体制の変革に取り組んでいた時でした。「同友会のめざす理念型経営、人材育成の哲学、地域再生の政策理念、すべてが刺激的でした」と氏は語ります。全国行事にも積極的に参加しました。

 そのころ氏は、古民家への関心を高めていきました。築100年を経て残っている農家の解体を手がけるたびに、黒光りする太い梁(はり)や大黒柱が廃材として産廃処理されるのを「もったいない」と思い続けてきたのです。

 古材はその土地の素材を使い、自然乾燥が進み、狂いが少なく、独特の風合いを持つ。シックハウスとも無縁で健康的。「古民家再生は、環境保全、健康保持、文化の継承でもある」と確信を深めたのです。97年にはNPO日本民家再生リサイクル協会(本部東京)にも加入しました。

コンセプトはモダンクラシック

 着眼点は優れていても現実の経営にどうつなぐかがカギ。金物を使わず、木組みによる工法が随所に見られる古民家の解体、再生は、大工職人の熟練技術が欠かせません。これは、下請けに任せる大手ハウスメーカーには真似のできない同社が得意とする分野でもありました。

 「若い大工が手仕事の解体を嫌がるかと思ったが、喜んでやる」。それは「伝統工法や木組みが勉強できるから」でした。大工としての誇りを持つ若い大工が育っていく、評判を聞いて、大工志望の若者が入社を希望するようになりました。4年前には、マイスター志望のスイスの青年を7カ月間研修生として預かりました。

 同社は現在、民間住宅を年間10~15棟、リフォームも手掛けていますが、古材再利用の受注件数は全体の3割程度です。

 「古材の活用を一般住宅の内部にいかに提案していくか。少しオシャレに再生した住空間の創造」であり、「モダンクラシック」がコンセプトとのことです。

市民の憩いと交流の場、結ホール

 武部氏は、全国の仲間の優れた事例にはいつも注目しています。3年前、札幌支部例会で講演した(株)佐元工務店社長の佐藤元一氏(宮城同友会代表理事)から、1日に現場清掃を5回しているとの話を聞きました。翌年春の社内研修会に向けて、社内活性化委員会メンバー6名を同社に派遣し、学ばせました。早速、「現場キレイ」活動を始め、次いで「会社キレイ」「物置キレイ」「WCキレイ」へと発展していきました。来社するお客様からも「キレイだ」とほめられるようになりました。

 一昨年は、隣接する岩見沢市に市民交流の場、結(ゆい)ホールを完成。小会議室、茶室、図書室、ギャラリーを備え、展示会、コンサートなどの文化行事がいつでも自由に行えるようにしました。

 同時に、今まで同社が手がけた新築、リフォームのお客様320件を対象に「結倶楽部」を結成、定期点検制度とリンクさせ「一生のお付き合い」ができる関係づくりも始動しています。

 武部氏は、北海道同友会常任理事、南空知支部長としても活躍。「地域を元気にし、『若者たちが帰りたくなる故郷づくり』を住民と共に進めるのが中小企業家の使命」と考え、真摯(しんし)に実践しています。

会社概要

創業 1946年
設立 1972年
資本金 2001万円
年商 4億8000万円(2007年度)
社員数 30名(季節雇用15名含)
業種 建設業(建設)
所在地 北海道三笠市萱野
TEL 01267-2-2312
http://www.tkb2000.co.jp/takebe/

「中小企業家しんぶん」 2008年 11月 5日号より