「企業は人なり」雇用は守っていきたい (株)タケダ 社長 武田 昭俊氏(愛知)

「変革による豊かさ」を追求―長期経営企画で人材育成、新規開発

武田社長

 100年に1度といわれる危機が世界を襲っています。中小企業が主役となって日本経済を再生していく道を探ろうと始まった「業界直撃レポート」2回目では、前回に引き続き愛知における自動車関連企業の取り組みを紹介します。

まずは1年間を持ちこたえよう

技術力を生かして精密プレス部品の開発・製造・販売

 「自動車の減産による影響は、今年(2008年)8月のお盆明けぐらいから兆しが見え始めた」―自動車の電気機器などの精密プレス部品を製造する(株)タケダの武田社長(愛知同友会会員)はこのように語ります。

 タケダは、全体の売上高の約7割が自動車関係部品で、トヨタから言うと2次サプライヤーになります。

 10月頃、他社では、2~3割受注が減っていましたが、同社では1割程度の受注減で、労働時間の合理化などで対応していました。ところが11月には25%、12月には3割の受注減となる見込みとなりました。

 企業によって受注減の程度は2~6割と違うようですが、取り扱い部品や車種や最終的出荷地域によっても受注の差があり、高級車や大型車はさらに影響が深刻です。

 武田社長は、この流れは少なくとも3年間は続くと予測。「その後、生き残った企業には注文が集まるでしょう。まずは来年1年間を持ちこたえることが大切」だと語ります。

新しい技術開発で新規開拓を続けて

 タケダは今年度、長期経営5カ年計画の3年目でしたが、それを前倒しで進める形で、「V字回復プロジェクト」を立ち上げます。緊急合理化案を各部門別に出し、徹底した合理化と新商品開発を強化しています。 同社は経営理念「変革による豊かさを」のもと、数々の新製品や新技術を生み出してきました。プレス加工の新しい技術として、「ファインシェービング工法」という切削に代わる超精密な加工法などです。

 さらに現在では時間的ゆとりを逆に活(い)かして、金属盗難を防止するキャップの開発など、さまざまな分野で商品開発をしています。対象物締め具のボルトやナットの外部に軽く打ち込み嵌合(かんごう)すると、外カバー部が空転し、ナット回しを不可能にすることで、取り外しをできなくするというものです。

 営業は、提案営業をしていくということです。メーカーもこういう状況だからこそ、図面変更に応じる余地があるので、技術力を活かして新規開拓していきます。このような自助努力を通して、「社員の雇用は守っていきたい」と、武田社長は語ります。

「企業は人なり」

 普段から行ってきたことは、やったことがない新規の仕事でも断らずにまずやってみること。そうする中で人材が育ち、技術力や対応力がつき、1つの商品や取引先に依存しなくてもよくなります。

 新卒採用も計画的に毎年20名ずつ採用しており、「企業は人なり」というように、決算書には見えない人的資産を大事にしています。

 このことは急には効果は出ませんが、計画を立て、継続して実行しなければなりません。同社では長期経営5カ年計画を1985年から行っていますが、このころ作った「成果配分制度」や「経営理念」「月次決算を公開する」といった仕組みが、今の会社を支えています。

 財務的には自己資本比率の改善などをこれから行っていかなければなりません。借入に関しては、長期経営5カ年計画など具体的な計画を示すことで、金融機関の対応も違ってくるそうですが、やはり最後は「経営者の姿勢が決める」とのことです。

 顧客の増産要望で、2億4000万かけて新工場を昨年建てました。これからしばらくは、キャッシュフローを高めるために同社では借入をしますが、融資が受けられない会社は、黒字倒産の危機がささやかれています。

同友会で積極的に情報収集

「同友会は、異業種の経営者が集まる団体なので、生の情報が得られることが不況期には特に活きる」と武田社長。これも不況になってからではなく、普段からいろんな経営者と交流をして、先を読む力を養うことが必要となります。

 会社の中で1人悩むのではなく、同友会の会合などに積極的に参加して情報収集することが、今ますます求められています。

 タケダの強みは、開発・製造・販売による一貫生産や、新しいことに取り組むことで熟成される人材育成です。そして、常に先へ先へ目を向けた新商品開発など、長い期間をかけて、蓄積してきたものが、この「100年に1度の不況」とも言われる厳しい時代だからこそ生きていると感じました。

 取材・2008年12月/愛知同友会事務局 黒田広志

会社概要

創業 1921年
設立 1960年
資本金 4800万円
年商 63億円
社員数 220名(うち正規180名)
業種 自動車・電気機器・建材などの精密プレス部品の開発・製造・販売
所在地 愛知県刈谷市一色町
TEL 0566-21-2321
http://www.takeda-co.com/

「中小企業家しんぶん」 2009年 1月 5日号より