「大企業バス」を降り、自主・自立の企業へ脱皮を~DOR(10~12月期)記述回答より

事態を打開するための7つの方策

 世界中を襲う未曾有の経営危機に、会員企業はどのように立ち向かおうとしているのか。中同協が昨年末に実施した同友会景況調査(略称「DOR(ドール)」、2008年10~12月期、2月5日付既報)で記された「経営上の力点」から浮かび上がってきた「事態を打開するための7つの方策」を紹介します。なお、今回の記述回答数は例年同時期と比べ2割程度多くなっており、「『大企業バス』から降りて、自主・自立の企業へと脱皮を急がなくては」など、今こそ発言しないではおかないという筆勢のある記述が目立ちました。

(1) 不況時の経営姿勢~石橋を叩きながら前向きに

 不況が深まれば縮み志向になりがちですが、経営者の姿勢まで縮んではいけません。

▼「このような不況時こそ、石橋を叩きながら前向きの姿勢で経営して行きたい」(群馬、理化学器械、計量計測器の販売)。
▼「変革を実行、継続できる企業のみ生き残れる」(三重、自動車販売、修理)。ときには、従来の延長線上に固定化しがちな発想を転換することも必要です。
▼「非常識に考えるようにして新しい視点を得ようとしています」(兵庫、書籍・雑誌小売業)。

(2) 「市場は縮小してもなくなるわけでない」~人間と市場を観察する力と情熱

▼「住宅市場は縮小し続けると思うが、なくなるわけではない。こんな時代に家を建てる人はどのような人で、どのような家を望んでいるのか、自分たちの考える家を市場に出してみる。どこも頼らず、介さず、自立して生き抜ける会社づくりを目指している」(神奈川、建設資材の販売)。
▼「時代がどう変わろうとも不変なもの→熱心―人間味あふれる営業」(岡山、医療消耗材料、医療機器福祉用具卸売)。
▼「ユーザーは現存する訳だから、チエ競争に打ち勝つ努力のみ!」(東京、化学品製造)。

(3) 雇用の維持は経営者の責務~不況の時こそ人材確保のチャンス

 今回は、「毎日が非常に辛く、社と雇用をどこまで守っていけるのか、とても不安である」(富山、広告代理業)などの率直な記述もありました。しかし、「『勤労を重んじ、信用を旨とする』原則として、雇用に全力を尽くすことを経営の基本としたい」(北海道、製造業)など中小企業らしい底力の発揮を決意した声も目立ちます。

▼「来年はいよいよ会社の存亡をかけた年になりそうだ。経済が全般的に不安定であればこそ、雇用の維持は経営者の責務と考える。経営指針を座標軸にすえて意志がブレない様心掛けたい」(神奈川、精密機械部品製造)。
▼「新卒採用に力を入れる。大手が採用をしぼった時こそチャンス」(徳島、寝具インテリア小売業)。
▼「高校新卒者が3名入社して来る。厳しい経営環境になるが、地元の雇用を守る事は中小企業の力。そして、彼ら彼女らを立派な社会人に育てて行く(共育)喜びが社内をさらにレベルアップさせる」(大阪、製缶板金加工、省力化機器製造)。

(4) 社員との現状認識の共有~現場力、社員力の勝負

 不況の嵐に立ち向かう要となるのは、現状認識を共有した全社一丸の体制づくりです。

▼「かつてない不況が来期はさけられそうもありません。現場力、社員力の勝負(力の差)が企業競争の分岐点になると思われます」(福岡、製造業)。「危機意識を社員で共有化する努力を、ありとあらゆる機会で行ってきた」(山口、税務・会計・経営の支援)。
▼「社員との面接を通じて、個々の弱点を確認して教育課題を明確にできました。企業は人なりですね。社員も増員できましたが、余力ができて、今までできなかったことに取り組むようになって来たことが成果として見えてきました」(群馬、消防設備工事・電気設備工事)。

(5) 営業・取引構造の変革~新しい市場・ビジネスモデルの構築

▼「来期に向けて営業組織を改変して、自社として提供できる商品・サービスを一括して受注できるようにする。また、新しい事業領域にも踏み出して行く」(愛知、電設工事業・FA・住宅関連)。
▼「最終顧客との直接の取引を目指して、川下の販売業者とより緊密な取り組み体制を作って行こうと思っています」(岡山、企業用ユニフォーム企画製造販売)。
▼「待っているだけでは、仕事はない。…市場を新たに作り、他社と競合しないビジネスモデルを構築しなければ生き残れない」(沖縄、建築設計・施工)。

(6) 「勘定合って銭も足りる」経営~「黒字倒産」の回避

 先行き不透明な時代だからこそ、「勘定合って銭足らず」など資金繰りに行き詰まらない細心の財務管理が肝心です。

▼「年初から交渉してきた価格転嫁がやっと理解を得られた。…ただし、価格転嫁が実行されたことによる増収増益基調は、資金需要を増大させているのに対して、金融機関の貸し渋りが追い打ちをかけているので、まだまだ油断はできない。『黒字倒産』の恐怖が頭をよぎる」(和歌山、包装資材製造販売)。
▼「企業が永続発展するためには、『流動性(資金)を確保し』黒字倒産を防ぐことです。“勘定合って銭も足りる”経営を目指します」(熊本、輸送用冷凍機メンテ販売、一般自動車整備)。

(7) 経営指針と「不易流行」~ブレない理念と果敢な戦略・計画の見直し

 「不易流行」の「不易」は永遠に変わらない精神であり、「流行」は時代とともに変わるものと解せば、経営理念は「不易」であり、経営戦略や経営計画を「流行」と見立てることができます。

▼「全く先が読めない。こういう時代だからこそ、不易流行の『不易』である理念経営を実践する。お客様、社会にどれだけ理念を発信できるかがとても重要な時と考えています」(沖縄、清掃用品レンタル・ハウスケア)。
▼「このような時こそ、経営理念に基づいたブレない経営を目指すべきだ」(静岡、税理士事務所)。
▼「中核社員8名と共に経営指針会議(仮称)を立ち上げ、経営指針の見直しを行った。特に注力したのは危機管理。対策として社内コミュニケーションの充実を確認し合った」(大分、管工事業)。

DORオプション調査より~増えつつある取引先の倒産―与信管理に細心の注意を

 DOR10~12月期調査では、この1年間に取引先の倒産・廃業があったか、オプション調査を行いました。(回答1045社)

 結果は、「取引先に倒産・廃業」があったかどうかの質問に、50・4%が「あった」と回答。ちなみに、ITバブルがはじけた2002年1~3月期に行った同様の質問への回答では60・9%が「あった」と答えていました。

 今回は02年当時より深刻ではなさそうですが、昨年9月のリーマン・ショックから始まる世界大不況の影響は、年が明けてさらにひどくなっています。帝国データバンクの倒産集計によると、08年12月期の倒産件数1147件、負債総額5967億7400万円で、前者が前月比13・6%、後者が10・3%伸びています。1月は一層深刻さが増すと予測されます。

 では、倒産・廃業した取引先はどんな相手か。「販売取引先」が最も多く56・9%。そのほか、「受注先」(21・4%)、「同業者」(16・9%)と続きます。

 取引先の倒産・廃業でどんな影響があったかを尋ねると、「債権回収が不能になった」との回答が60・3%を占める一方、「売掛金など事前に回収していたので被害はない」が25・2%でした。02年調査では前者は67・5%、後者は20・0%でした。

 02年当時に比べ、債権回収が不能になった割合が減り、事前に回収した割合は増えるという特徴を示しています。これは取引先の倒産に当たって、危機管理能力が上がってきたことを示しています。大企業といってもその信頼は盤石とは限らない今日、取引先の与信管理は十分に注意する必要があります。今後さらに倒産・廃業の増加が予想されるだけに、細心の注意を払うことが肝要です。

「中小企業家しんぶん」 2009年 2月 15日号より