日本の農業に新たな可能性を見る

中小企業の未来と交差する農業

 今、私たちが直面している経済危機は、「グローバル恐慌」とも言われているように、景気循環的な景気後退でなく、歴史を画する後退局面にあるという見方が広がっています。したがって、この先しばらくは「先の見えない」状態が続くと考えられ、しかも、何年か後に「景気回復」したとしても、世界と日本の経済の「景色」はかなり違ったものになるかもしれません。

 しかしながら、私たちは「景色」をある程度自分たちでも描くことは可能ですし、描く努力をしなければ、将来の企業の存続もおぼつかないと考えられます。

 では、どのような「景色」を描くのか。今年度の中同協総会採択文・第2章では、「外需依存の日本経済を内需主導型成長に切り替えるための新たな成長軸はどこにあるのか。その最も有力な候補が地域の活性化です」とし、地域活性化の有力産業分野の1つとして、農林水産畜産業(以下、農業)を挙げ、その革新と中小企業との連携の可能性を具体的に検討しています。

また、本紙連載の「食と農を考える」シリーズの最終回を執筆いただいた神田健策氏(弘前大学農学生命科学部教授)も今般の経済危機を踏まえ、「このような中で農林漁業は、今後、やりようによれば大きな可能性を有する産業分野となってきたのである」(本紙2009年1月5日付)と強調しています。

 このように将来性が注目される農業ですが、現状は困難を抱え低迷しており、農業政策の根本的な転換が望まれます。しかし一方で、もっとも困難と思われる中山間地域で興味深い取り組みが発展している事実には大いに励まされます。それは、農村婦人たちによる「農産物直売所」「加工所」「農村レストラン」が広範に展開され、生き生きと活動していることです(関満博「私たちの『未来』を示す中山間地域の取り組み」ARC、2009年2月号)。

 日本では戦後まもなくから、農協に出せない形の悪い野菜などを軒下に並べる「無人販売所」が成立しています。ここでの経験を深めた農家の婦人たちが、20年ほど前から、もう少し本格的に販売したいと考え、何人かで場所を借りて「農産物直売所」をつくり、全国に広がっていきました。私たちになじみ深いのは、「道の駅」などにある直売所が繁盛している風景です。

 関満博一橋大学大学院商学研究科教授によれば、「この直売所の意義は、農家の婦人たちが日本農業史上初めて自分の『預金通帳』を持った」ことにあるとし、彼女たちが直売所で消費者から直接意見を聞き、多くの工夫を加えるなど「自立」「自主」の精神でビジネスを育てていった意義は極めて大きいと称賛します。

 なんと、これらの事業は全体で1兆円市場と言われ、毎年10~15%は伸びているとのこと。

 確かに、条件不利地域での事業にもかかわらず企業家精神を発揮して、事業を発展させ雇用を生み出している事実に、厳しい経営環境下にある中小企業が学ぶことは多いはず。また、2008年からは国の目玉政策として農商工連携施策も始まり、農業と直接に事業的かかわりがもてる可能性が広がっています。

 中小企業の「未来」を描く上で、農業は重要な要素になりつつあります。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 3月 15日号より