コチョウランで「絆」を届けたい 松村洋蘭(株) 社長 松村 秀彦氏(山梨)

「もったいない」から、ランの再生事業を構想~もっと身近に、新たな販路の開拓めざす

 「手のひらサイズのコチョウランを商品化し、ギフトショーで最高賞を受賞した方がいる」と穴山・山梨同友会事務局長から聞き、「母の日」前のある晴れた日、山梨県中央市に本社のある松村洋蘭(株)を訪問。甲府駅から車で約30分、住宅と畑がほどよく混在する郊外の一角に大きな温室が立ち並ぶ中、松村秀彦社長にお話を伺いました。

 (中同協事務局・小川)

てのひらサイズのコチョウランで最高賞

 松村洋蘭(株)は、コチョウラン(胡蝶蘭)に特化して、ランの生産・卸・販売を手がける会社です。何万円もする大輪のコチョウランが不況の影響で売れ行きが落ち込む中、いち早く中輪、ミディ(小型)に着目し、生産・販売してきました。

 このほど、さらに小型化した手のひらサイズのコチョウランを商品化。これによって新たな販路を開拓したいと「大阪インターナショナル・ギフト・ショー春2009」に出展したところ、最高賞のグランプリを受賞しました。

 フランス語で「絆」を意味する「リ・アン」と名付けられたこのランは、5月の「母の日」商戦で目玉商品の1つして採用されるなど、あっという間に品薄となるほどの人気ぶりでした。

若い人にも気軽に

 松村洋蘭では、これまでは花卉(かき)市場を通した花屋への販売が中心でした。「リ・アン」は、これまでの高級贈答用のイメージを変え、若い人が気軽にプレゼントしたり、「自分へのご褒美に」と買えるような身近な存在にしていきたいと商品化したものです。鉢やパッケージのデザイン性にもこだわり、インテリア感覚で楽しめるものとなっています。

 大阪でのギフトショーでは、インテリアや雑貨関係のバイヤーの注目も集め、電報に使えないかなどの思いがけない引き合いも来るなど、新たな販路開拓の手応えを感じています。

キーワードは絆

 「結婚式場には、2人のメッセージを入れて結婚式の引き出物としたり、葬儀関係には、故人のメッセージを入れた白いコチョウランを初七日の引き物とする、などの企画提案もしていきたい」という松村社長。キーワードは「絆」です。

 「人と人が会って話す機会が減り、絆が弱まっているように感じる。その絆を少しでも深められればと、リ・アンと名付けた。『小さなコチョウランを売る会社』ではなく、『絆を提供する会社』になっていきたい」と話します。

年間通して出荷できるコチョウラン

 先代社長が1978年に創業した当初は、同じ洋蘭でも、シンビジュームの生産が中心でしたが、86年からコチョウランに特化。シンビジュームは冬しか咲きませんが、コチョウランなら、年間通して出荷できるといいます。それは、花を咲かせたい時期の5カ月前に低温処理することで開花時期をコントロールできるので、顧客の注文に合わせていつでも出荷できるからです。

 コチョウランの市場出荷を始めたのが88年。バブル絶頂期に遅めの参入だったため、「良い思いもしなかったかわりに、極端な落ち込みも経験せず」にすみました。

 最高益は一昨年。今回の不況ではさすがに売り上げは落ち込みましたが、大輪中心の同業他者が売り上げを激減させ、生産農家も減っている中で、早くから中輪、ミディに参入してきた同社は健闘しています。

品種改良でオリジナルブランドも

 松村洋蘭では、苗を購入して育てるだけでなく、当初から実生培養を手がけ、品種改良によるオリジナル品種の開発・生産も行ってきました。「NORIKA」など、自社ブランドは10種ほどあります。

 品種改良には最低7~8年かかるため、いかに早く今後の需要を見込み、自分で品種改良するか、新たな品種の苗を種苗業者から優先的に提供してもらえるかが重要となります。あとはクローン技術で同じものをいくらでも増産できます。

 同社では、いちはやく小型化への品種改良を進めていた種苗業者と出会い、「消費者によいものを提供したいから」と熱を込めて話したところ、その苗を分けてもらえた5社の中に入ることができました。

ランの再生事業でビジネスモデルを特許申請

 さらにこんなビジネスモデルも構想しました。「ランの再生事業」です。ある高齢の女性から持ち込まれた話がきっかけでした。

 「2カ月前、孫が皆でお金を出し合って大きなコチョウランを誕生日にプレゼントしてくれた。花が咲き終わったが、このまま枯らしてしまうのはもったいないので、来年も咲くように再生してもらえないか」と。幸い近くだったため、ランを取りに行き、温室で育て、再び花を咲かせてこの方の元に届けたところ、ちょうど1年後の誕生日に間に合ったといいます。

 コチョウランの管理は素人である消費者には無理、というのが業界でのこれまでの一般通念。高価なランを1年でだめにしてしまうことへの消費者からの「もったいない」という声をずいぶん聞いていたことから、ランの再生というビジネスモデルを考案することになりました。

 仕組みは、ランの鉢に生産・流通履歴を埋め込んだICタグをつけ、花の咲き終わったランを、花屋さんから買い戻し、再生し、再び市場に出荷、または、消費者から再生料を受け取って鉢を回収し、1年後に再生して消費者に返還する、というもの。特許申請もしました。

 この事業を通して、花屋さんとのネットワークもつくり、花屋の店員さんを受け入れ、ランの生産・管理方法などを研修する仕組みづくりなど、つぎつぎ新たな構想が口をついて出てきます。「入社した社員が、年々パワーアップして育ってくる中で、次の目標を設定していくのが社長の仕事だ、と思えるようになってきた」と松村氏は話します。

同友会で異業種との連携も深めたい

 3月はじめには「リ・アン」販売専門の新会社「OASISコーポレーション」を設立。花卉市場から花屋という既存の流通ルート以外にも市場を開拓していこうと、小売りや流通など異業種企業との連携も模索中です。

 2年前、青年会議所を卒業して、同友会に入会した松村氏。「同友会は、親のような世代の経営者が、惜しげもなく自分の経験を話してくれる。それに、しっかりした理念をもった会員が全国にいて、ビジネスの話ができるのが素晴らしい」といいます。7月に東京で開かれる全国総会のオプション企画「ビジネスWAVE」にも出展します。

会社概要

創業 1978年
資本金 1000万円
社員数 3名、パート33名
事業内容 コチョウランの生産・卸・販売
生産規模 本社温室4000平方メートル、八ヶ岳温室4200平方メートル
年間生産量 15万株
所在地 山梨県中央市極楽寺
TEL 055-273-2651
http://m-youran.com/

「中小企業家しんぶん」 2009年 5月 25日号より