県と介護食を共同開発~フィルタ会社の新しい風―(有)アサヒフィルタサービス 社長 宮崎 基 氏(広島)

『凍結含浸法』専用調味料「TORON(とろん)」

 広島県福山市駅家町で、フィルタの製造販売を営む(有)アサヒフィルタサービス(宮崎基社長)を訪問しました。

 宮崎社長は、現在、本業に加え、広島県と共同で新しい嚥下食・介護食の開発に取り組んでいます。従来のミキサー食とは違い、食材の見た目や風味はそのまま。「凍結(とうけつ)含浸(がんしん)法(ほう)」を用いた酵素の力で、タケノコもプリンのような食感になるのだとか。

 なぜ、フィルタ会社が介護食の商品開発を手がけるようになったのか、お話を伺いました。

(取材 広島同友会事務局 本田)

広島県との共同開発

 宮崎氏と広島県の特許技術「凍結含浸法」との出会いは約4年前。本業のフィルタの開発で県総合技術研究所食品工業技術センターに通っていたころ、職員からこの技術を取り扱ってもらえる企業を探していると聞きました。

 以前から、食品や農業に携わる仕事がしたいと考えていた宮崎氏。早速手を挙げ、同時に同じ地区会に所属していた、(有)クリスターコーポレーション(豊田文彦社長)に声を掛けました。食品業を営む同社と一緒に「福山機能食品研究会」を設立。福山市の新事業創出助成金を受け、商品化に向けスタートを切りました。

 そこから生まれたのが、「凍結含浸法」専用調味料「TORON(とろん)」です。TORONには、この技術のカギとなるある酵素が含まれています。

食べる楽しさを

 この「凍結含浸法」技術は、(1)加熱(2)凍結(3)解凍(4)減圧(5)酵素反応(6)加熱の6工程からなります。(右下・解説参照)

 食材の中の空気と置換した酵素の力で食材を柔らかくさせ、歯茎や舌だけで食べ物が潰せるようになります。熱をほとんど加えないので、食材そのものの栄養成分が壊れないだけでなく、ビタミンや鉄分などの栄養素を新たに加えることも可能です。

 「いま元気な私だってあと20年もすれば高齢者。当然、歯も弱ってきます。いまの介護食はミキサーでドロドロにしたものがほとんどです。正直に言って、見た目もよくありません。食事だけが楽しみの生活のなかで、これでは食欲もわきません。彩りも形もそのままの食材が食卓に並ぶと、食べることが楽しみになるのではないでしょうか」。

 さらに、介護する側にとっても、この製品を使うメリットは大きいと、宮崎氏は語ります。

 高齢化社会の中、介護する側の人手不足は大きな問題の1つ。被介護者の食欲が進むことで、食事介助の時間が大幅に減った事例もあります。また、酵素と真空調理システムで調理が可能です。事前に加熱をしているので、煮炊きに要する時間も短縮できます。

地産地消の介護食へ

 ただこの開発には、何度も苦労したとか。食材によって酵素の反応時間が異なるのです。

「たとえば、ニンジンとレンコンを一緒の容器に入れて加工したとします。すると、レンコンは柔らかいのに、ニンジンは硬いままだったことがあります。また、同じ野菜でも鮮度によりでき上がりの柔らかさが違ってきます」。

 宮崎氏は、この製品を通じて地産地消への貢献も考えています。

「お年寄りにその土地で採れたものを食べてもらい、地産地消につなげたい。ただ、食材により反応が変わってくるので、全国の特産物がどんな反応を示すのかは未知の世界。いま、広島女学院大学とも連携してレシピの研究をしています」。

 特許技術を保有する広島県との契約により、現在の販売先は、管理栄養士が常駐している福祉施設や病院に限定されています。商品は「VgTORON(ベジとろん) type1」と「下茹(ゆ)で用だしの素type1」の2種類がワンセット。肉や魚に対応した専用の調味料も考案中です。

 6月にNHKの全国放送で紹介された後は、大変な反響があったとのこと。

 宮崎氏は、将来的には各家庭にも販売できるようにしたい、と抱負を語ります。

(『同友ひろしま』9月号より)

会社概要

(有)アサヒフィルタサービス
創業 1996年
資本金 600万円
社員数 8名
業種 フィルタ製造・加工・施工業
所在地 広島県福山市駅家町万能倉393-1
TEL 084-949-3580
URL http://www.filter.ne.jp/

(有)クリスターコーポレーション
代表取締役 豊田文彦(福山支部会員)
設立 1996年
資本金 300万円
社員数 正社員4名、パート1名
業種 食料品製造業、包装資材事業、環境衛生事業
所在地 広島県福山市本庄町中3-18-23
TEL 084-928-2830
URL http://www.christar.jp/

解説 凍結含浸法【とうけつがんしんほう】

 食物を凍結して組織細胞間の隙間を広げた後に解凍し、減圧装置の中で食材内部の空気と外部の物質を置換させる技術。

 細胞間の接着物質を分解する酵素を含浸させれば、ごぼう、れんこん、たけのこなどの食材を 見た目はそのままで歯茎や舌でつぶせるほど軟らかくすることができ、 きざみ食やミキサー食に替わる新しい介護食調理技術として注目されています。

 対象食材は、野菜のほかに、山菜、豆類、肉類、魚介類など豊富で応用範囲が広く、すでに病院食や 検査用食品への利用が研究されています。

 この技術は、広島県立総合技術研究所食品工業技術センターが開発し特許取得しています。(特許第3686912号「植物組織への酵素急速導入法」)

特長
○食材の中心部まで酵素を導入 ⇒ 酵素の力で食材を軟化
○中心部まで軟らかい食材 ⇒ 食材の見た目はそのまま
○熱をほとんど使わない ⇒ 栄養成分が壊れにくい
○対象食材が豊富 ⇒ 野菜,山菜,豆類,肉類,魚介類

「中小企業家しんぶん」 2009年 11月 25日号より