わかることと伝えること

むずかしいことをわかりやすく、本質を突いて

 大企業の社員がどんな報道番組を推薦したいと思うかを調べたアンケート調査でおもしろい結果に目をひかれました。この調査は「優良放送番組推進会議」が東証一部上場の26社の社員を対象に実施したもの(日経ワガマガ)。

 第1位に推されたのは、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)。2位は「クローズアップ現代」(NHK)。ここまでは「さもありなん」という選択。そして、第3位は意外にも「週刊こどもニュース」(NHK)でした。大企業の社員が、他の名だたる報道番組を抑え、「こどもニュース」を推す背景に興味がわきます。

 もっとも、土曜日の夕方の同番組を視れば、なるほどと思います。今起きているホットなニュース、複雑な物事を子どもでも理解できるように見事に番組が作られているからです。ニュースの事実や難しい言葉の概念を模型を使ったり、図解してわかりやすく解説します。しかも、素朴な子どもの「なぜ」に答えながら、物事の本質を外さずに単純化しているのが秀逸です。

 「こどもニュース」の初代のお父さん役を11年間務めた池上彰さんが自分の経験をもとに、『わかりやすく〈伝える〉技術』(講談社現代新書)という本を書いています。本書は、優れた実用書であるとともに、読み手に多くの気付きを与えてくれます。

 池上さんはニュースキャスター時代に、「世間の人」にとって、何がわからないのか、それがわからなくなっている自分に気づきます。「無知の知」を知ったといいます。「無知の知」とは、「自分が知らないということを知る」という意味。それ以来、わかりやすい説明の準備は、相手が何を知らないか、それを知ることから始めるようにしているそうです。

 さらに、評者も思いあたることがありますが、説明すべきことを中途半端に知っていると、「あれも言わなければいけない、この要素を落とすと正確でない」と不安になり、ややこしい説明になってしまいがちです。池上さんは、出来事の全体像がきちんと理解できていれば、それぞれの要素が評価できるので、大胆に切り落とすことも可能になるといいます。

 池上さんによれば「こどもニュース」は、各民放の報道関係者も見ているとのこと。また、同番組の実際の視聴者は50歳以上の高齢者層が多くを占めているようです。冒頭に述べた大企業の社員の視聴傾向とも符合する事実です。

 そう言えば、ネールの『父が子に語る世界歴史』のように、一流の人物やその道の大家が子ども向けに書いたものに名著が多いことに気づかされます。最近も、「14歳からの○○」など、著名人がいろいろな分野について書いた本を目にするようになりました。

 子どもにも「わかる」ということは、全体像をわかりやすく描き、思いを伝える力が必要とされるのではないでしょうか。自らの肝に銘じようと思います。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2009年 12月 15日号より