激変の時代を乗り越える同友会型企業~エイベックス(株)代表取締役 加藤 明彦氏(愛知同友会副代表理事)

強靭な企業をつくる経営姿勢とは~ 1人ひとりの社員が成長すれば会社は発展する

 2008年のリーマンショックをきっかけにした世界的大不況。景気の持ち直しも言われていますが、中小企業にとっては厳しい状況が続いています。今年1月の中同協第3回幹事会では「今こそ経営者としてのリーダーシップを発揮し、全社一丸でこの不況を乗り切ろう」とのアピールが出され、困難に立ち向かう企業づくりの取り組みが提起されました。

 新連載「全社一丸で時代を切り拓(ひら)く」では、今の大転換期に、企業を変革しながら難局を乗り越え、新たな展望を切り拓いていこうとしている会員企業の実践を紹介していきます。第1回目の今回は、2月11~12日に京都で開かれた第40回中小企業問題全国研究集会第7分科会の報告から、加藤明彦・エイベックス(株)代表取締役(愛知)の実践を紹介します。

トヨタショックとエイベックス

売上が最盛期の3割に

 当社は自動車のA/T(オートマチックトランスミッション)の油圧制御部品であるバルブスプールという部品を切削、研削で作っています。1000 分の1ミリの高精度が要求される部品を1日25万個、年間6000万個生産していますが、トヨタ北米3工場閉鎖の一昨年8月から毎月1割ずつ売上が落ち、 2009年2月には売上が最盛期比3割という状態にまで陥りました。

 今では、回復傾向にあり、8~9割仕事が戻ってきています。この経営危機を乗り越える取り組みのベースとなったのが、1999年に東京で開かれた中同協総会で学んだ「21世紀型企業とは、人材育成と市場創造ができる企業」ということでした。その後、その学びを今まで実践してきたことが、今回の経営危機の中での経営に大いに役立ちました。

「小さな市場で大きな占有率」

 当社の市場創造の取り組みの1番目は、営業戦略です。「大きな市場で小さな占有率」を狙うのではなく、「小さな市場で大きな占有率」を得るという戦略でやってきました。

 以前、切削・研削のなんでも屋だった時は競合他社が多く、お客様から見て多数の中のひとつで、お客様から見えない状態でした。そこで、市場を絞り込み、お客様から見える位置に立つことで、差別化をはかりました。ライバルも少なくなり、この分野では世界的シェア8%を占めるようになりました。

 経済産業省の「元気なモノづくり中小企業300社」や「IT経営実践企業」にも認定されました。そのほかにも、愛知県の「愛知ブランド」や名古屋市「親学推進協力企業」等にも認定されるなど、目につくような形で社会からも認知され、社員も誇りを持てるようになりました。

「加工屋」ではなく「鍛冶屋」に

 次の市場創造の取り組みは技術戦略です。「加工屋」ではなく、「鍛冶屋」の世界を築いていこうということです。加工屋は、機械屋から機械を買い、刃具屋から刃具を買い、作業をするだけです。これでは他社との差別化はできませんし、何よりも社内に技術の蓄積ができません。「鍛冶屋」とは、自前で技能・技術の構築をし、より高いレベルでのモノづくりができることを言います。

 当社では、他社が使い終わった機械を20~50万円(新品だと1000万円する機械ですが)ほどで買い付けてきて、分解整備をして、もう一度組み付けて使っています。摩耗している箇所や、異常がある箇所、どんな仕組みで動かしていたのかなど、分解整備することでエンジニアが知り、社内で技術継承ができるとともに、設備投資の抑制の効果も生まれています。

 また、新規の設備購入でもできるだけ「裸」の状態で入れています。こうした「技能・技術の応用」によるものづくりを行うことで、メーカーに依存しない工程設計力や自動化設備が社内でも製作でき、社内にノウハウが蓄積し、技術継承や人材育成に役立てています。

 こうした、「知識」を「知恵」に変える応用技術の推進をわが社では「知恵テク」と呼んでいます。ローテクを基本とし、ハイテクとローテクを組み合わせることで、ノウハウの蓄積ができますし、そのおかげで、同じ部品でも中国より1割低く、ベトナムと同価格で生産でき、全世界的な価格競争力を維持しています。

一喜一憂しない経営者の姿勢

世の中は変わる、常に危機感を持って

 当社も決して順調に来たわけではありません。「世の中は思うようにならない」とつくづく思います。まず、同じ仕事は必ずなくなるということです。大昔、当社は自動車以外の部品を製造しており、それらの仕事が一気になくなるという経験をしました。

 昭和30年代には家庭用ミシン部品が全部台湾へ移転、昭和50年代には8ミリ映写機の部品が、ビデオが販売され需要がなくなりました。ミクロンの精度を求められ、4ミクロンの加工を2ミクロンに精度をあげていったのにもかかわらずです。その後、自動車業界に転換しましたが、ブレーキ関連部品が金属から樹脂に変わり、2年間でこの仕事がなくなりました。

 このような経験を経て、現在の仕事に落ち着きました。今後も、電気自動車になれば、いくら世界シェア8%であろうが、今の仕事は一切なくなります。このように何も手を打たなかったら仕事はなくなり、会社は必ずつぶれるのです。

 2つ目は、「社員は必ずいなくなる」ということです。これは、私の会社が働きにくくて辞めていくということではなく、100年後に今の社員は死んでいなくなるということです。ですから毎年のように雇用、教育をやっていかなければ、生産活動ができなくなってしまいます。こういったことを常に考えながら、現状に甘んじるのではなく、常に危機感を持つことが大切だと社員に言って来ました。

変えてはいけないもの、変えるべきもの

 さて2009年2月にはほとんど仕事が無くなり、月曜日と火曜日だけ出勤で、週休5日となりました。時間ができたことを幸いだと発想を切りかえ、今までやりたくてもやれなかったことを始めました。それが、創業の精神を振り返ることでした。

 現在私が63歳で、今年の夏には社長交代をしようと思っており、先代である創業者の想(おも)いを伝えられるのは今しかないと思いました。ちょうど「創業の精神を振り返ってみてはどうか」という話が社員からも出されたのをきっかけに、10人ほどでプロジェクトチームを立ち上げました。過去の決算書などを出したり、勤続50年以上の古参社員の皆さんに、前社長や創業当時のことをインタビューして聞きとりました。

 「測定器や機械は大切な飯の種」「きれいにしてなかったり、機械の中に測定器を置きっぱなしにして、頭ごなしに怒られた」、こんな1つ1つの思い出話に創業者の想いを知ることができました。そこから「愛着と誇りを持って働こう」という言葉が若い社員から出てきたことで、これは変えてはいけないものだと思いました。

「あなたのやっていることは押しつけだ」

 当社でも、古参社員との軋轢(あつれき)がありました。22歳の時に父親が経営する今の会社に、当時は社員12~13名の小さな会社でしたが入社しました。大学で近代経営(QC・IE)を学んできたので、それを自社に取り入れようとしましたが、古参社員さんとの軋轢などで、ことごとく失敗しました。

 自動車産業の発展とともに社員数30名位の会社には成長できましたが、売上が上がらない、利益も出なくなり、昇給もできない、賞与も出せない状態になり、かれこれ20年間こんな状態が続いてきました。

 43歳の時にある本に出会いました。その本には「泥棒にあった時は泥棒に感謝しなさい」と書かれていましたが、なぜ、モノを取られて泥棒に感謝しなければならないのかと思いました。しかし、「まだ火をつけられなくて灰にならなくてよかったのではないか」と書かれていた箇所を読み、今まで古参社員に対して『僕のやっていることは正しいことだ』と自分の答えのみを押し付けてやってきたのではないかと思いました。さっそく古参社員に聞いてみたところ、「お前の言っていることは間違っていないし、正しい。2代目として一生懸命なのはよく分かる。でもお前の言い方が気にいらんかった」との一言です。つまり私の姿勢に対する感情的な反発であり、「20年間これで俺は苦しんできたのか」と思った時、虚脱感で涙が出てしょうがありませんでした。

最大の資源は「ヒト」

 それから変わりました。まず社名を現在のエイベックスに変えました。昔は加藤精機という社名でした。動力が先頭の機関車(経営者)が引っ張っていく会社ではなく、社員全員で各車両にモーターがついている電車型の経営にすべきではないかと思ったのです。

 中小企業にとって経営資源は「ヒト・モノ・カネ」といいますが、経営において最大の資源は「ヒト」です。昔はカネとモノと思っていました。カネがあればいい機械を買えて、いい機械があれば会社が発展する、人は後からつくればいいという考え方を持っていました。しかし「ヒトが成長してくれれば、モノもついてくるし、カネもついてくる」という基本的な考え方に変えていきました。

 損益計算書の上では人件費は費用扱いされますが、人は貸借対照表の自己資本にあたるとの認識が必要ではないか、経営の基本は、貸借対照表の経営で創業からの積み上げ・歴史でやってこなければならない、損益計算書はあくまでも単年度評価、課題発見にのみ活用すべきではないかと気づきました。

「経営者の責任」と今後の展望

経営危機の中で行動したこと

 同友会の「労使見解」では、経営の責任はすべて経営者にあって、社員の責任ではない、世の中がどうだろうが、どんな困難があっても経営者には会社を維持・発展させる責任があると言っています。これまでは「社員の潜在能力をどれぐらい引き出すかが、会社の体質強化につながる」と考え、かなりの「責任と権限」を社員に委譲していました。しかし、7割減という非常事態、このまま社員に「責任と権限」を預けっぱなしにするわけにはいきません。

 全社員を集め、「今まで委譲していた『責任と権限』をすべて社長である私に集中させる。180度違うやり方でびっくりするかもしれないが、この経営危機を乗り切るためには、それしかない。絶対に首切りはしない、雇用は100%守る。その代わり私の言うことに対して、言葉通り行動して欲しい」と私の覚悟を示しました。

 人件費は金融機関からの借り入れで賄い、「人件費には一切手をつけない」という姿勢を貫きました。それ以外の経費に着眼して改善活動を徹底し、この活動を発表する全社員集会も開催しました。業績は落ちましたが、むしろこの改善活動で生産性が上がったことが、新たな受注に対応できる大きな力になっています。

 私は、経営理念が一人ひとりの社員のものになることこそ本当の「共育」だと思っています。「全員が集まってしっかり討論できるのは今しかない」と、休業補償と教育訓練の助成金を活用して、経営理念浸透研修会を開催しました。

将来を見据えて

 また新たな顧客・市場開拓の取り組みも始めました。「世間が暇な今こそチャンス」と捉え、積極的に行動することで、新たな情報源や新規受注の確保をしてきたことです。

 試作技術チームを結成して、大手に営業をかけました。新たに大手2社と契約がとれるまでになりました。また、新たな情報源も確保できました。仕事はいただけないかもしれないが、訪問先から情報を得ることができるようになったので、やってよかったと思っています。

 さらに、今回の新たな情報源を確保したことによって、さまざまなことが分かってきました。自動車関連でトランスミッションだけでなく、自動車のアブソーバ関係やエンジン関係、他業種として、船舶や、飛行機などにもバルブが使われていることがわかり、今自社が持っている技術をもっと極めることで、まだまだ当社にはビジネスチャンスがあるということが見えてきました。これを、中長期の経営計画に組み込んで事業展開して行こうと考えています。

仕事を通じて「豊かな人生」を

 いま私の会社では、もう一度経営会議で役職者と共に、経営理念の重要性から勉強のやり直しを始めました。「理念と方針・計画」の整合性について学び直し、「何のための理念」「何のための方針」「何のための計画」なのかを再確認中であり、このことが幹部の腹に落ちればさらに強い体質ができると考えています。

 私は常々「会社=人生」だと言っています。一人ひとりの社員が成長すれば、会社は発展するという考え方です。その人の潜在能力を発揮することで、やりがい・生きがい、誇りと喜びを感じ、「豊かな人生」がおくれるのです。

 経営者の責任とは、「生きる・暮らしを守る・人間らしく生きる」=かかわる人々の「人生における成長」が図れるような企業づくりです。これを達成しようとし続けることが経営者の責任だと、今さらながら感じているしだいです。

会社概要

創立 1949年
設立 1953年
資本金 1,000万円
年商 16億6,000万円
社員数 150名(パート・アルバイト85名)
業種 自動車部品製造(切削・研削加工)
所在地 本社:名古屋市瑞穂区内浜町・多度工場:三重県桑名市多度町
http://www.avex-inc.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2010年 3月 15日号より