社員の自主性・創造性を力に仕事づくりに挑戦~(株)文典堂 代表取締役 池田 大氏(東京)

売上大幅減の中での社長就任

池田社長

(株)文典堂は池田氏の父が創業。池田氏は1994年に入社します。当時売上の約5割を占めていたのがビール券印刷の仕事でした。それがある日打ち切りになります。1997年のことです。

社長である父は気落ちをして「もう会社をやめる」と言い出しましたが、家族に説得されて翻意。翌日、社員を食堂に集めて「これからは営業に力を入れる」と宣言します。それまではあまり営業らしい営業はしていませんでしたので、営業社員を何人か採用しますが、皆失敗。やむなく社長が営業活動を行いますが、受注できたのは多くが同業他社の下請仕事でした。

「24時間、365日機械を動かすなら仕事を出す」という条件をつける会社もあり、その多くは納期や価格、支払条件が厳しいもの。社員も夜中まで仕事をするなど一生懸命働きますが、次第に疲れてボロボロになっていきました。

そのような時期に池田氏が社長を引き継ぎます。2003年のことでした。池田氏は収益性も低く、展望も見えない下請仕事をやめることを決断します。ピーク時は約6億5000万円あった売上ですが、ビール券の仕事と下請仕事を合わせて約5億円の売上を数年の間に失うことになりました。

大変厳しい経営状況の中、池田氏は自分も含めて給料の見直しをやむなく実施。しかしリストラは行いませんでした。

社員との話し合いを大切にして

まず池田氏が考えたのは、「どうやったら社員に気持ち良く働いてもらえるか」ということ。「もともと社員は勤勉で高い技術があると思っていた」からです。

当時は、会議もなく、経営理念も就業規則もありませんでした。月1回の会議と勉強会を開くことを提案しますが「最初は大変でした。最初の勉強会の参加者は2~3人しかいませんでした」。

そんな状況からのスタートでしたが、会議や勉強会も次第に定着。現在は、会議の議長・副議長は社員が持ち回りで務め、議題設定、レジメ準備は議長、議事録作成は副議長が担当しています。3カ月に1度は決算書の説明も実施。「どんな会社をめざすのか」など、会社の方針は皆で話し合い、納得を得ながら進めることを大切にしています。

会議の後の勉強会は、印刷・制作・製本加工・営業の4部門が持ち回りで担当。勉強会のテーマを決めて資料も準備。必要に応じて外部に講師を頼むこともありますが、ほとんど社員が講師を務めています。

勉強会のテーマは「営業心理学」「色と広告の効果」「偽造防止の技術」「段ボールの仕組み」などさまざま。これに全部門の社員が参加し、グループ討論方式も採りいれています。

このほかにも5Sを担当する環境美化委員会、経費の見直しを検討するコスト管理委員会、働きやすい職場づくりをめざすワークライフバランス推進委員会を設け、社員参画型の運営を推進。また社長も含めた全社員が、それぞれの方針・計画を定めた「チャレンジシート」を作成・公開するなど、会社や部門・個人の目標の明確化・共有化も進めてきました。

劇的に変わった社員の意識

社内の様子

このような取り組みにより、「劇的に変わったのは、社員が自分たちで考えて動くようになったこと」と池田氏は言います。

「以前は決まった仕事をやれば良かった。今は180度違ってきています。お客様の要望を聞いて、提案していく。そういう企業でないと生き残れません。当社は全員正社員です。それは考えながら仕事をしてもらいたいから。そうしないと楽しくないし、自分たちが企画したものが形になれば楽しいじゃないですか」。

印刷業から情報加工業への転換をめざす中で、業務内容も大きく変化。現在は、商品券・ポスター・カタログ・会社案内・新聞広告・帳票等の企画・印刷、セールスプロモーション用ツールやホームページの企画制作、看板のデザイン、顧客のデータベースの管理など多岐にわたります。

コピー防止印刷やスクラッチ印刷などの技術も自社開発。顧客との受発注をインターネット上でやりとりできる受発注システムも自社で開発しました。これらも社員の自主性・創造性が高まってきた大きな成果です。

地域に密着して小さな仕事づくりを

このような取り組みにより売上は3億円前後となりましたが、収益性は高まり、黒字化にたどり着きます。しかし、リーマンショック後の大不況の影響は大きく、2009年度の売上は前年比5%のマイナスで、赤字となってしまいました。「同業他社は売上3割減などよく聞きますので、健闘している方だとは思いますが、競争が一段と厳しくなる中、収益力が落ちてしまいました。情報加工の分野は変化のスピードが早く、常に業態変化を考えなければなりません。今後も地域に密着しながら、全社一丸で小さな仕事をつくり、積み重ねていきたい」と語る池田氏です。

会社概要

創業 1965年
資本金 1,000万円
社員数 23名
業種 デザイン・企画・印刷・加工・紙器・包装用品製造販売
所在地 東京都大田区大森西1-19-16
URL http://www.bunten-p.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2010年 6月 15日号より