消費税の「負担軽減」とは

消費税の給付付き税額控除制度を考えるQ&A

 本紙が皆さんの手に届くころには参議院選挙の投開票が終わっていますが、選挙前も選挙後も消費税率引き上げ問題が大きな争点になるでしょう。選挙中、菅直人首相は、消費税率引き上げに伴い、低所得者ほど負担増となる逆進性への対策を強調していますが、具体的にどうするのか。以下にQ&Aで論点を整理します。

Q 逆進性対策の方法は。

A ひとつは、いったん支払った消費税を払い戻す「還付」(給付付き税額控除)。もうひとつは、食料品などの生活必需品の税率を低くする「軽減税率」。

Q 具体的にどうやって「還付」するのか。

A 付加価値税(消費税)の給付付き税額控除制度は、世界で唯一カナダが実施している。カナダでは、夫婦と子2人の世帯の年間所得が約270万円以下の場合に6万4000円を給付。それより所得が上がるにつれ給付額が減り、約400万円を超えたところでゼロになる(「日本経済新聞」2010年7月3日付)。ちなみに、カナダでは日本と同じ頃(1991年)に税率7%で導入されたが、国民の反発が強く、6%、5%と引き下げられ、現在日本と同じ5%の税率になっている。

Q 日本で実施すると、給付対象はどのぐらい。

A 国税庁統計年報書(平成18年分)によれば、給与収入が300万円(給与所得控除後の所得金額で192万円)以下の者が約1740万人、それに事業所得者などで所得金額が200万円以下の者が約282万人、合計2022万人になる。それに所得税が申告不要である者(世帯主)を500万人とすれば、約 2500万人が対象となる。人口の2割だ。

Q これだけの人にどのぐらい「還付」するのか。

A 仮定の話だが、この階層の家計調査などから、年間の基礎的消費支出を平均一20万円と計算すると、その消費税相当分は税率10%で12万円。この額を 2500万人に給付するとすれば、3兆円にのぼる。消費税率1%で2兆5000億円の税収であるから、1%強に相当する。加えて、実際の給付金の支給事務を行うのは地方自治体であり、かなりの事務コストが発生する。かといって、給付金額を小さくすれば逆進性対策としての効果が薄れ、自己矛盾に陥る(湖東京至「福祉とぜいきん」第22号)。

Q 軽減税率の導入は。

A 軽減税率の対象を何にするか、線引きが難しい。生活必需品には軽減税率を適用することになるが、対象を広げると税収が上がらなくなり、標準税率をその穴埋めでさらに引き上げざるを得なくなる。これも自己矛盾。また、複数の税率になるので計算が煩雑となり、正確に税額をつかむためにインボイス(伝票)方式が導入される可能性が高いが、これにより税務当局は法人税や印紙税等の把握も厳密にできるようになる。事業者と課税庁の事務負担の増大や納税者番号制の導入、免税事業者の取引からの排除なども大問題となる。

 以上のように、消費税率引き上げと「負担軽減」措置は経営環境をがらりと変えてしまいます。デフレ不況の中で価格転嫁は可能なのか、自社は転嫁できたとしても地域経済の地盤沈下が激しくならないか、など経済の実態からの論議が求められています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2010年 7月 15日号より