Ⅲ 人を生かす経営の実践 (4)対等な労使関係

【社員とともにめざす企業像へ変革を~企業変革支援プログラム ステップ2】15

 「対等な労使関係」はカテゴリーⅢ全体の土台をなす部分です。これが社内に育まれ維持されてこそ、前述の(1)社員の自主性の発揮、(2)共に学び共に育ち合う社風づくり、(3)労働環境の整備、が進むと言っても過言ではありません。とはいえ、一見すると求められるものが大きく感じられ、「何から取り組めばいいのか…」という声が非常に多いのもこの項目の特徴です。

 長い年月をかけて経験則が蓄積され、同友会における企業経営の基本的文献となっている「中小企業における労使関係の見解」(略称「労使見解」、中同協刊『人を生かす経営』所収)には、「対等な労使関係」について次のように書かれています。

 「企業内においては、労働者は一定の契約にもとづいて経営者に労働力を提供するわけですが、労働者の全人格を束縛するわけではありません。契約は双方対等な立場で取り交わされることがたてまえですから、労働者が契約内容に不満をもち、改訂を求めることは、むしろ当然のことと割り切って考えなければなりません。その意味で労使は相互に独立した人格と権利をもった対等な関係にあるといえます。(中略)労働者、労働組合の基本的権利は尊重するという精神がなければ、話し合いの根底基盤が失われることになり、とても正常な労使関係の確立はのぞめません。」

 ここから言えることは、「(経営者の)平等な人間観」と「理解と納得を生む話し合いの場づくり」が対等な労使関係構築にとって極めて重要であるということです。よく言われる例えですが、毎月支給される給与ひとつ取り上げても経営者と社員は利益相反する関係であることがわかります。その事実は事実として認めながらも、その上で、お互いが家族や生活を持ちながら会社という運命共同体の中で人生を共に歩む関係であり、会社は社員の拠り所であるとの認識にまず経営者が立つことが必要です。

 また、日々の会社経営は決断の連続と言われますが、経営者と社員間で意見が食い違った場合、最終判断は経営者が行うにしても、社員の意見に十分に耳を傾けているだろうか? それ以前に、社員からの提案・意見を受けたり不平不満を聞いたりするための場がわが社にあるだろうか?と自らに問いかけることが次の行動につながっていきます。

 対等な労使関係は一朝一夕に醸成されるものでは決してありません。だからこそ粘り強く、同友会の仲間の中で既に取り組んでいる経営実践の実例から学び続けることが、遠回りなようで一番の近道なのです。

富山同友会事務局 玉崎 勝弘
 (中同協企業変革支援プログラム検討プロジェクト委員)

「中小企業家しんぶん」 2013年 1月 5日号より