新しく制定された条例の特徴-中小企業振興基本条例の到達状況(2012年~2013年4月現在)

 中同協は、全国的な中小企業振興基本条例(以下、振興条例)の制定推進を支援しています。
 本稿は、現時点での振興条例の制定状況を概観し、新しい条例の特徴は何かを明らかにします。

中同協政策局長 瓜田 靖

2012年から9県に条例が制定

 振興条例は、県レベルでは、2012年に香川県中小企業振興条例、富山県中小企業の振興と人材の育成等に関する基本条例、中小企業の振興に関するかごしま県民条例、愛知県中小企業振興基本条例、ふるさと愛媛の中小企業振興条例、山形県中小企業振興条例、滋賀県中小企業の活性化の推進に関する条例、2013年では大分県中小企業活性化条例と宮崎県中小企業振興条例が制定され、2012年~2013年(4月現在)までで9県が相次いで制定しました。

県・市区町でも条例制定が最大規模に

 総合計で47都道府県の過半数である25道府県に達しました。

 中小企業振興基本条例を中心にした体系的な施策を展開する道府県が過半数に至ったことは、大きな意味があります。県の施策がバラバラでなく、中小企業振興基本条例を通じた総括が可能になったことを意味し、商工行政のスタイルも変わってくる可能性があります。

 なお、市区町では、2011年に13、2012年に14、2013年に11(4月現在)と年を追うごとに増えてきています。以上のように、県レベルでも市区町レベルでも条例制定が最大の規模に達したことが特徴の第1です。

中小企業を支援する金融機関として条例に採用

 第2の新しい特徴は、「金融機関の役割」がはじめて愛知県で位置づけられ、それ以降、富山県や滋賀県、大分県、宮崎県などで位置づけられました。

 それまでは、金融機関の支援・指導機関は金融庁・日本銀行であり、地方自治体はノータッチで、振興条例の範囲には入らないという立場でした。

 中同協は、金融機関は地方行政でも重要な役割を担うので条例にも位置づけるべきだという立場でした。

 昨年8月に中小企業経営力強化支援法が成立し、金融機関も経営革新等支援機関に認定され、中小企業の経営革新支援をすることを法的に認めました(現在6740機関)。

 これをきっかけとして、中小企業を支援する金融機関として振興条例に採用されるようになりました。

 例えば、「第7条 金融機関は、基本理念にのっとり、中小企業の特性及びその事業の状況を勘案して信用供与を行うなどの方法により中小企業の振興に取り組むとともに、県が実施する中小企業の振興に関する施策に協力するよう努めるものとする」(愛知県中小企業振興基本条例)と表現されています。

小規模企業への配慮が位置づけられる

 第3は、国政の変化が反映していますが、小規模企業への配慮が位置づけられるようになったことです。

 これは、中小企業基本法の「基本理念」に、小規模企業の意義として、「地域経済の安定と経済社会の発展に寄与」と新たに規定が予定されることに代表されるように、小規模企業を大切にしようという機運が反映していることです。

 宮崎県の「条例と考え方」によれば、「小規模企業者については、特に経営資源の確保が困難であることが多いことから、中小企業振興に関する施策を講ずるに当たっては小規模企業者に必要な考慮を払うことが重要であることを規定している」としています。

 愛媛県東温市の東温市中小零細企業振興基本条例のように、「中小企業」よりもストレートに中小零細企業と規定する事例も生まれています。

 ここでは基本理念で、「中小零細企業の振興は、全ての『いのち』が、生き生きと輝き続けるまちとなるため、中小零細企業が、地域社会と共生し続ける存在として、市民の認識の向上を図ることを推進するものとする」という地域の独特の規定があります。

職業観や勤労観を形成する教育活動への注目

 第4は、教育活動への特段の注目です。富山県は、富山県中小企業の振興と人材の育成等に関する基本条例とし、人材育成を大きな旗印に掲げています。

 そこでは、「県は、段階的かつ体系的な職業能力の開発及び向上の促進を図るため、多様な職業訓練の実施、中小企業者が行う職業訓練に対する支援その他の必要な施策を講ずるものとする」としています。

 また、「県は、職業観及び勤労観の形成を図るため、就業体験の機会の提供、就業に関する意識の啓発その他の必要な施策を講ずるものとする」としていますが、同様の内容は、滋賀県、愛媛県東温市、宮城県白石市などに見られ、「職業観及び勤労観の醸成」はキーワードになっています。

積極的に条例制定に取り組む自治体の増加

 第5は、以前は振興条例を制定することに消極的であった自治体も含め、真剣に振興条例に向き合う自治体が増えてきたことです。

 東大阪市は中小企業が多く存在し、中小企業行政でも有名ですが、当初は「わが市は、十分に中小企業に対する施策をやっており、いまさら振興条例の必要がない」との対応がしばらく続きました。しかし、大阪同友会の熱心な説得などにより、制定に至りました。

 また、横浜市のように、制定後の条例の普及と活用について、取り組み状況を点検しPDCAサイクルを明確にしている例も生まれています。

 横浜市は中小企業振興を担当する副市長を会長とする「横浜市中小企業振興推進会議」を設置し、全市的、総合的に取組を進めています。さらに、振興条例に基づく総合的な中小企業振興の年次報告書も出しています。

 このように、振興条例運動は年々発展を遂げています。

中小企業振興基本条例制定一覧(2012年~2013年4月現在)

【県レベルでの振興条例一覧】

2012年 「香川県中小企業振興条例」、「富山県中小企業の振興と人材の育成等に関する基本条例」、「中小企業の振興に関するかごしま県民条例」、「愛知県中小企業振興基本条例」、「ふるさと愛媛の中小企業振興条例」、「山形県中小企業振興条例」、「滋賀県中小企業の活性化の推進に関する条例」

2013年 「大分県中小企業活性化条例」、「宮崎県中小企業振興条例」

以上、全国で25道府県

【市区町レベルでの振興条例一覧】(理念型条例・総合政策型条例のみ)

2012年 「京都府・与謝野町中小企業振興基本条例」、「山口県・宇部市中小企業振興基本条例」、「山口県・山口市ふるさと産業を振興する条例」、「大阪府・岸和田市中小企業振興条例」、「大阪府・泉南市商工業振興基本条例」、「大阪府・貝塚市商工業振興条例」、「滋賀県・栗東市中小企業振興基本条例」、「愛知県・安城市中小企業振興基本条例」、「福岡県・直方市中小企業振興条例」、「愛知県・高浜市産業振興条例」、「北海道・倶知安町中小企業振興基本条例」、「青森県・青森市中小企業振興基本条例」、「熊本県・熊本市中小企業振興基本条例」、「香川県・高松市中小企業基本条例」

2013年 「千葉県・白井市産業振興条例」、「大阪府・東大阪市中小企業振興条例」、「大阪府・寝屋川市産業振興条例」、「大阪府・交野市産業振興基本条例」、「愛知県・名古屋市中小企業振興基本条例」、「北海道・苫小牧市中小企業振興基本条例」、「北海道・北見市中小企業振興基本条例」、「北海道・恵庭市中小企業振興基本条例」、「秋田県・由利本荘市の地域特性を活かした産業振興と中小企業の育成に関する条例」、「愛媛県・東温市中小零細企業振興基本条例」、「香川県・三豊市産業振興基本条例」

以上、全国で96市区町(70市16区10町)

「中小企業家しんぶん」 2013年 5月 5日号より