これからが後継者決定の正念場-同友会『事業承継調査』結果の特徴

「同友会景況調査(DOR)2013年1-3月期」オプション調査から(第2回)

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科 教授 廣江 彰
(中同協企業環境研究センター委員)

 中同協は本年実施の「同友会景況調査」1-3月期調査において、同友会企業の「事業承継」に関するオプション・アンケートを実施した。このアンケートは2007年7-8月期調査に次いで行われたものである。以下、当アンケートから読み取れる事業承継の実情、課題などについての連載2回目。(今回で終了)

6月25日号4面 前回のおわびと訂正

 前回の表4について、最初におわびと訂正を申し上げたい。表4のうち「参考1」として挙げた中小企業基盤整備機構調査の数値を、表4訂正版のように改める。表4訂正版は「すでに事業承継者を決めた」数値を取り上げ、同友会調査の数値と比較している。その結果、数値は大きく変わり、「参考1」の「子供」への承継は83.9%、「子供以外の身内」は9.8%となり、機構調査では圧倒的に身内への事業承継が行われていることが分かる。対照的に、「役員・従業員」は4.8%に過ぎず、同友会調査結果の24.0%とは大きく乖離(かいり)している。したがって、前回、同友会企業の後継者決定について「後継者は身内からという傾向が想定可能」としたものを、逆に後継者は「身内から」ばかりではなく、「役員・従業員」からという企業内部での昇格が機構調査結果に比べ重視されている、に改める。

 ただし、見出しに掲げた「これからが後継者決定の正念場-同友会『事業承継調査』結果の特徴」には変わりない。というのも、全回答企業の60%近くでは後継者がまだ決まっていないからである。しかも、後継者が決まっていないうちの60%強で「適任者がいない」(前回表5)としているからでもある。では事業承継はどのように行うのか。「身内」に見いだすのか、「役員・従業員」から昇格させるのか。同友会企業にとって、後継者への事業承継はまさにこれからが正念場となる。

事業承継上の問題点は、圧倒的に「事業の将来性」と「後継者の力量」のふたつ

 同友会企業にとって事業承継を行う上で想定される問題点をみると、表6にあるように全体では「後継者の力量」(71.7%)、「事業の将来性」(62.9%)の2項目が半数を大きく上回っている。当然のことであるが、「後継者の力量」が高ければ事業承継は早く進み、高くなければ事業承継が遅れると考えられる。また、「事業の将来性」が見込めれば事業承継は順調に進み、見込めなければ事業承継は消極化する。さらに、「候補者が不在」であれば、候補者を決めるべき時期にきていても決められないとなる。

 そこで、「事業承継者の決定状況」と「事業承継の際に想定される問題」の関係を表6にみると、いくつかの特徴が浮かび上がる。まず、「決めるべき時期にきているが決まっていない」の37.6%、「一代限り」の37.5%が「後継者の不在」を挙げ、全体の15.6%を大きく上回る。「後継者不在」は事業継続への大きな阻害要因になっていることである。しかし、「すでに決まっている」の73.6%が「後継者の力量」を問題視し、62.8%が「事業の将来性」に不安を持っていることを考慮すると、後継者の有無にかかわらず事業の将来性が必ずしも明るい見通しにあるわけではなく、後継者にも経営者としての力量に一抹の不安が残っていることになる。あるいは、後継者が決まっているからこそ、会社への絶ち難い思いが事業と力量への不安を醸し出すのかも知れない。

 そうした一抹の不安の中には、全体の30.8%に比べて「決めるべき時期にきているが決まっていない」回答企業が39.4%と多目に選択している「借入の個人保証」や、全体の12.6%に比べやや多い14.1%の「社員の不平・不満」もある。

同友会型事業承継の課題は「事業の将来性」と「後継者の力量」の意識的同時解決~東日本大震災被災企業の事例から

 事業承継は日常の事業活動を積み重ねる中での意識された結果であり、とくに同友会企業にとっては同友会理念にいう中小企業の「社会的使命」と「社会的責任」を希求する中に解決策を見出すことに他ならない。そのことが事業承継の大きな2つの課題、つまり「事業の将来性」と「後継者の力量」との同時解決につながるからである。

 その良き例は、東日本大震災の大きな被害から率先して復興へと立ち上がった多くの中小企業にみられる。たとえば、(株)八木澤商店の例はよく知られているだろう。「岩手日報」(2011年4月7日付)は、前日の岩手同友会気仙支部2011年新入社員合同入社式の模様を伝えているが、その中に、八木澤商店に就職内定していた2人の若い女性の姿がある。八木澤商店は津波で本社と工場を失い、同社8代目社長の河野和義氏は「陸前高田は全滅しました。さっき、テレビの映像を見ましたが、私の家も、会社も、(かつて会長を務めた)酔仙酒造もなくなりました。もう終わりです」と語っていたほど、事業継続への大きな打撃を受けた。

 それにもかかわらず、同社は2人の内定を取り消さないという意思決定を行ったのである。「常識」的には、地震と津波の被害から特別損失を計上して債務超過に陥る企業が、前年以上の労務費を負担するという意思決定が正しいはずはない。後継者である9代目河野通洋現社長は後に「もともと小さな会社で、残ったのは『人だけ』です。でも、その『人』がいなかったら、八木澤商店を再建することは、不可能」(「東北の仕事論」-「ほぼ日刊イトイ新聞」から)と語っているが、採用という選択は同社にとって大きなリスクを抱えることでもある。

 しかし、河野通洋現社長は「後継者の力量」を発揮してそのリスクを克服した。同社が「八木澤商店復興プラン」として収益源確保のためのミソ、醤油製造委託から始め、次いで工場建設と独自レシピのつゆ・たれ製造・販売、さらには2014年を目途に自社工場での醸造再開という道筋を描き、そのための必要資金をミュージックセキュリティーズの「八木澤商店ファンド」として募るという、再建への明確な「事業の将来性」を示したことである。会社再興へのプログラムとそれを進める「ひと」に対して投資が始まっていったのである。その結果本社営業事務所を昨年10月陸前高田市矢作町に、また同月醤油醸造とつゆたれ製造工場を一関市大東町に竣工(しゅんこう)させている。

 もちろん、八木澤商店の再興プロセスは、被災以降の河野和義会長や通洋社長による経営努力だけではなく、同社が地域とのかかわりで中小企業の「社会的使命」と「社会的責任」を大切にしてきたこと、また同社社員がその理念を経営者と共有してきたという「社員力」の存在にも起因する。「事業の将来性」が、八木澤商店の場合は企業と社員の側から構築され、経営努力の及ばないまったくの与件とはなっていない。今回の事業承継調査結果と八木澤商店の会社再興とが教えるのは、同友会型企業にとっては市場、人材、後継者は与件ではなく、日常的に中小企業の側から積み上げ、創り出していく対象であって、その延長上に事業承継と事業の将来性があるというひとつのことである。

(連載終わり)

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 5日号より