政策で中小企業の減少を止められるか~フランスの個人事業者制度に学ぶ~

日本だけが中小企業・自営業の開業率が低迷し企業数が減少する、という「特異な現象」について、近年の『中小企業白書』ではさまざまな分析が試みられています。倒産に伴う経営者の経済的負担が非常に大きいことの分析や企業家になっても、思ったほどの所得を得られず、高いリスクにさらされる中小企業の経営環境などが分析されています。

 法人企業統計の総資本経常利益率を見ると、 資本金1000万円未満の規模の小さな企業では、1990年代以降、景気が少し悪化するとマイナスになり、プラスの時期でもプラス幅は小さく、総じてほとんど収益を上げることができない状況になっています。

 中小企業に詳しい経済学者の家森信善氏は、「景気が悪いので儲からないといった嘆きを中小企業者から聞くが、実は景気が良くなっても多くの中小企業の収益は増えない時代になっているのである」と中小企業の収益性に関する構造的な問題点を指摘しています(「なぜ金融危機は起こるのか」東洋経済新報社、2013年2月)。小さな企業が利益を上げることが難しくなっているのです。

 しかし、少なくとも1999年の中小企業基本法改正の頃からリスクを軽減できる施策などが強力に実施されていれば、現状は違ったものになったと考えられます。

 では、OECD加盟国の中で最低水準にある起業活動をどうするか。開業率の影響要因はさまざまですが、基本的には起業のインセンティブを左右する経済環境(需要要因)と、起業に必要な人的資本の形成(供給要因)に区別することができます。前者の視点からは、事業機会を増やし、起業意欲を阻害する要因を取り除くこと、後者の視点からは潜在的な起業家および起業支援者のスキルを高めることが重要です(岡室博之「開業率の低下と政策措置の有効性」日本労働研究雑誌No・649)。

 けれども、起業のスキルは教えることができるかもしれませんが、事業機会を見つけることはアントレプレナーシップ(企業家精神)の本質であり、容易に教えることなどできないものです。これが難しいところなのです。

 『2014年版中小企業白書』では、フランスの個人事業者制度が紹介されています。これは、起業という行為そのものにインセンティブを与えている制度です。資本金や登記が不要で、自宅からインターネットを使って、十分程度で手続きを済ませることができます。1種の地方税である地域経済拠出金の支払いが3年間免除されるほか、付加価値税の徴収も免除。また、一定の条件を満たせば所得税・社会保障費を免除され、おまけに失業者は起業後も失業手当給付の受け取りも可能となっています。

 開業率を増加させるためには、このような思い切ったインセンティブの付与が必要なのです。

 日本での実現を考えた場合、財務省や厚生労働省などの「抵抗」にあうかもしれません。それを説き伏せ、日本版の個人事業者制度を新設することは、中小企業憲章の内容の実現といえるかもしれません。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2014年 9月 15日号より